皆さんは、飛行機に乗った際に行われる、客室乗務員によるシートベルトのつけ方などのデモンストレーションをしっかり見ているだろうか。近くに立たれるとじっと見るのも気恥ずかしく、正直のところ筆者はほとんど見ていなかったのだが、ヴァージンアトランティック航空に搭乗した際に、実演のかわりに目の前のスクリーンで流れた安全ビデオの面白さに驚いた。
アニメーションを使用したおしゃれな映像は、何度搭乗してもついじっくりみてしまう。ピンク色の機内の照明や機内食のしゃれたカトラリーなど、同社独特の少しとがったセンスの良さと相まって、出張であっても旅の始まりにワクワクさせられる。
アメリカ勢ではデルタ航空のビデオが秀逸だ。豪華さというよりも、そこかしこに笑えるネタ満載という内容は、「アメリカらしい」ユーモアがたっぷりで、5カ月で900万回もYouTubeで再生されている人気のビデオである。
ニュージーランド航空は、その中でもトップクラスではないかと思われるユニークさ。映画とのコラボレーションなど、派手で豪華な演出が持ち味である。過去には映画『ホビット』とコラボしたユニークなビデオで話題になった。すでに1500万回も再生されているというから、もはや機内安全ビデオのレベルを超えている。
そして、ニュージーランドといえば今はラグビーで大注目されている。そこで、このワールドカップシーズンに合わせ、同社がスポンサーをしている強豪オールブラックスの選手らが出演する、素晴らしいビデオを発表した。
今回は映画『Men in Black』とのコラボレーションで、オールブラックスの選手や同チームの元スター選手などが出演し、見事なパフォーマンスを見せている。かなり格好良い仕上がりなのでぜひ見てほしい。
「Men in Black×オールブラックス」編
ニュージーランド航空がすごいのは、どちらも「期間限定」であることだ。大抵のエアラインでは何年も同じものを使いまわしているところを、ほぼ一年ごとに更新しているほどの力の入れようである。
やはりお客様あってのビジネスにおいて、「リピーター」の存在は非常に重要である。搭乗した人の満足度を高めるための施策として、サービスや食事、座席の良さだけでなく、ともすれば退屈になりがちな安全確認のデモンストレーションやビデオを、ユニークで印象的なものにしようと考えたエアライン各社に拍手を贈りたい。実際に、ニュージーランド航空は、AirlineRatings.comによる、2014年世界のベストエアラインで1位に選ばれている。もちろんこのビデオのみが勝因というわけではないかもしれないが、ファンを増やすのにこういう部分が一役買っているに違いない。機内安全ビデオではあるが、同社の広告としての効果は計り知れない。こうした手法は、探せばまだまだ至るところにあるのだと感じさせられる。
日本の航空会社はどうか。2020年のオリンピック開催に向けて、日本らしさを持ち合わせながらもグローバルに支持されるビデオで、日本到着前の搭乗者をワクワクさせる「おもてなし」をしてくれることに期待したい。
(朝日新聞社 広告局 ロンドン駐在 金井 文)