クリスマス休暇と新年が明けて、キャンパスに人が戻ってきた。とはいえ、学生や研究者の数は普段の半分ぐらい。春学期は2月からなので、外にリサーチに出ている人や休暇、個人研究にあてている人もいる。生息する学生数が少ないのを見越して、いつもなら4台並ぶランチのフードトラックも、2台しか姿を見せない。
では1月は何があるのかといえば「IAP」だ。
IAP?
IPAならボストン周辺の地ビール醸造所でも作っている「インディアン・ペール・エール(Indian pale ale)」だけど、ちょっと違う。IAPはIndependent Activities Period。「独自活動学期」とでも言おうか、通常のクラスとは別に、講師や大学院生、ライブラリアン、学外スポンサーなどが短期の自主講座を開講する学期だ。MITは秋・春の二学期制。1月はその隙間にあたる。雪や寒波に見舞われるため、北部では1月を休みにしてしまう大学もあるが、MITではこの1カ月間を自由な活動期間とし、学生の自主性や学際活動を養うためにあてている。
IAPのクラスのカテゴリーは48種類。ロボット工学や天文学のトークセッション、人数限定でゲームやアプリを作るハンズオンワークショップ、語学、料理、体育や学外のコミュニティーサービスもある。なかには単位を出すクラスもあるが、ほとんどは単位なし。人数制限なしのクラスはOBや家族、地域の人にも開かれている。専門知識を必要とするワークショップは必要なスキルがコースガイドに明記されており、そうでないものは他の学部、門外漢でもOK。IAPのクラスは、キャンパス内の他学部が何をしているかを知る絶好の機会となる。
それは教える側も同様で、博士課程の研究者やリサーチャー、フェローが自分の研究のトークセッションを持ち、それに対して他部門の参加者の意見や質問を受け、研究のプラスにするという側面もある。「自主講座学期を設けるのは、院生や研究者を多く抱える大学でないと無理ね。1-4年生の学生ばかりだと難しい。MITの場合、本体以外にメディアラボ、スローン(経営大学院)など複数のカレッジや研究所があるから成り立つんだと思うわ」と研究室のプログラムマネジャーは指摘する。彼女が卒業した州立大学では、同様の学期はなかったという。
スポーツクラブ主催や手を動かすワークショップ
コースガイドの中からユニークなものを紹介しよう。スポーツ系のクラブが主催する体育クラスがいくつかある。水泳、クロスカントリースキー、ライフル射撃などの種目の中に「え?」というものを見つけた。
クィディッチ。ハリー・ポッターの“あれ”である。小説をもとに現実世界での競技が作られている。ほうきにまたがってボールを取り合う。ボールはドッジボールの大きさだ。MITにもクィディッチ部
があり、このクラスは彼らが指導する。普段は屋外で活動しているが、さすがに極寒の1月なのでIAPクラスは体育館で行われる。いくらMITでもほうきは飛ばないことを念のためお断りしておく。
旭川と同じ緯度のボストンではスケートは身近なスポーツ。アイスダンスとフィギュアスケートのクラスもある。ジャンプやスピンも教えますということだが普通の人がどこまでついていけるのかはさだかでない。
工科大学らしい実習クラスも多い。MITのモットーは「Mens et Manus (Mind and Hand 精神と手)」。実際に手を動かすことをよしとする。IAPのクラスでも、「ホログラフィーを作る」「HTML5でゲームを作る」「鍛冶(かじ)技術入門」「鋳物入門」「溶接入門」といった、IT、工業系の実習が多数並ぶ。なかには「小規模なレーダーシステムを作る」という米空軍がスポンサーのクラスもある。いずれも人数限定で4、5日間、午後をつぶす覚悟の集中実習。こんな機会に鍛冶(かじ)屋の体験もいいなと思っていたら、あっという間に定員オーバーで締め切りとなった。
【Vol.6 IAP後編につづく】
(MITメディアラボ駐在 大西弘美)
取材・紙面編集の仕事を経て、デジタル事業に取り組み15年。2011年からデジタル事業担当。13年7月からMITメディアラボ・シニアアフィリエイト。
Twitter の でMITやボストンでの出来事、メディア関連情報などをつぶやいています。