Vol.1 情報と人の急流に飛び込んで MITでの生活がいよいよスタート

新連載コラム「チャールズリバーだより」が始まりました。最先端のデジタルコミュニケーション研究で知られる米国・マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究機関「MITメディアラボ」。朝日新聞から派遣されている大西弘美が、現地での暮らしぶりやキャンパスでの出来事を随時リポートします。
※「チャールズリバー」はキャンパスのあるボストン郊外を流れる川の名前です。

 「9月に入ったら全てが急に動きだすよ」。人影もまばらで冷房の効きすぎた8月の研究室で自己紹介をした人たちから言われた言葉は、レイバー・デー(9月2日)の連休が明けた日から現実になった。「ナノプラットホームについてのトーク、4時から」、「連続講演会、第一弾は脳波センサー」「ライブブログを手伝える人募集」……メーリングリストで飛び交う情報の渦におぼれそうになる。

 マサチューセッツ工科大学、通称MIT。その研究機関「MIT メディアラボ」で1年を過ごすことになった。学者でもない50歳を過ぎたおばさんが何でまた? 過去14年間、朝日新聞のデジタル事業にかかわってきた。パソコンと携帯向けのサービス、スマートフォン、そして電子書籍端末の登場。伝える手段が増え、テレビや新聞という既存メディアが伝える時代から誰もが発信できる時代へ。メディアを取り巻くテクノロジーはどう変わるのか。朝日新聞はどう変わるのか。新しいテクノロジーやその発想は社会をどう変えるのか。未来を考える種探し。MITメディアラボでの生活やボストン周辺の話題をこれからお届けしていく。

※画像をクリックすると拡大して表示されます。 チャールズリバー チャールズリバー

 「ボストンに1年間行ってきます」と言って日本を出たものの、実際に生活しているのはケンブリッジ。チャールズリバーをはさんでボストン市の対岸に位置する。ケンブリッジは西側にハーバード大学、東側にMITを抱える大学都市だ。このケンブリッジを含め、サマビル、ウオータータウン(今年4月、爆弾テロ犯逮捕の銃撃戦が繰り広げられた)など周辺の市・町とボストンを合わせて、ボストン大都市圏(Greater Boston)と呼ばれる通勤圏が広がっている。

 メディアラボは東西に広がるMITキャンパスの東ブロックに位置する。公式ページによると教授ら教職員が28人、学生・研究者80人超。ひっくるめて百数十人の組織ということになるが、3週間ここで過ごしただけでも、もっとたくさんの人が動いているあるいはもっとたくさんの人とつながっている感じがする。

 一つには、ハーバード大学との単位互換制度で、同大からの学生がメディアラボのクラスに入っていることもあるだろう。MIT内のスローン経営大学院からも参加がある。各研究グループでは外部コミュニティーとのコラボレーションも多い。私が所属するシビック(公民)メディアグループには地元紙「ボストングローブ」も参加している。先日はテレビ電話を海外自治体とつなぎ意見交換というシーンもあった。

 組織あるいは器としてのメディアラボは、そのまわりに張り巡らされたネットワークの中で、境界を越えて動いている。単なる組織としての規模よりもはるかに広くたくさんの人とつながっているようだ。私たちが「ボストン」と言ったときに、単にボストン市ではなくGreater Boston全体があるように、物理的にももっと遠くまでつながった“Greater Media Lab”のネットワークがあるのだろう。

(MITメディアラボ駐在 大西弘美)

大西弘美(おおにし・ひろみ)

取材・紙面編集の仕事を経て、デジタル事業に取り組み15年。2011年からデジタル事業担当。13年7月からMITメディアラボ・シニアアフィリエイト。
Twitter の hiromin_o でMITやボストンでの出来事、メディア関連情報などをつぶやいています。