英国では現在、帰国後の2週間の自主隔離の緩和が進み、アメリカなど感染率がまだ高い国々を除いて、日本を含む68カ国以上の海外に旅行に行くことができます。(8月17日時点。スペインやフランスでの感染率が上がり、英国入国時の自主隔離が再発令中。)
しかしながら、あるアンケートによると、国民の半数以上は今年の夏休みは国内で過ごすつもりであり、「i newspaper」(2010年にThe Independentの姉妹紙として登場した日刊紙)で掲載されたトラベロッジというホテルチェーンの調査によると、国民の55%は今年も夏休みをとり、そのうち42%は短い休みを国内で過ごし、さらにそのうちの44%がビーチへ向かうそうです。
国内旅行が主流になっているため、政府は「Safer Summer Staycation」キャンペーンとして、各新聞とデジタル版にシリーズの記事体での啓発広告を展開しています。各地の魅力の訴求とともに、コロナ禍でのビジネスを再開させている観光施設や宿泊施設をいくつかピックアップして紹介し、旅行客が注意するべき点、施設側が注意している点などを文章と写真で分かりやすく紹介する形を取っています。
「i newspaper」紙面記事体広告560KB
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とはいえ、旅行の再開によりコロナウイルスの感染状況が再び拡大しては元も子もないため、「Know before you Go」というキャッチフレーズで、特に英国内の旅行についての注意喚起を行うキャンペーンも展開し、国内で各地域を旅行する際の注意事項をまとめています。
同時に、政府の指導に従って対策を講じている施設には、安心して訪問や観光してもらえるスポットとしてのお墨付きを与える「We’re good to Go」という業界標準マークも作成。コロナ対策ではなかなか足並みがそろわないイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの全土で、申請・利用が始まっています。
前回ご紹介した、ロックダウン開始時における強いキャッチフレーズで人々の注意を引き付けて危機感をあおるというフェーズから、経済活性化を目的に段階的に国内旅行を促進するフェーズに移行するに従い、記事体広告という形式で、国民に対してより理解を深められるような施策が実施されています。
英国は歴史的にイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドという4つの地方政府から成り、コロナウイルス対策についても各地でそれぞれ政策を決めているという特殊事情や分かりにくさがあり、その点についても注意喚起をしています。
夏休みを重要視する国民性もあり、新聞やウェブなど様々なメディアでこの夏や少し先の海外旅行の広告が掲載され、徐々に旅行会社の再開も始まり、旅行会社や航空会社の広告が以前より目立つようになってきました。ロックダウン中も、特に週末の新聞のトラベル面で、旅行ツアー広告やフェリーツアー広告などが自粛されずに掲載されている様子を見て、日本とは随分と感覚が異なると感じましたが、ここにきて、旅行会社や航空会社の旅行広告の掲載が再び増えています。
一方で、街中で話題なのが、“Eat Out to Help Out Scheme”(助けるために外食をしよう計画)というキャンペーン。8月3日~31日までの期間、月~水曜日にイートインで食事をすると、アルコール飲料以外の代金が半額(一人当たり最大10ポンドまで)になるというもの。支払い時にすでに割引された金額を支払い、店舗が政府に金額を請求するという分かりやすい施策です。
これまでテイクアウト営業のみだったカフェが朝や昼どきに多くの人でにぎわっていたり、夕暮れどきのレストランやパブが予約でいっぱいだったりと、効果が目に見えてきているようです。飲食業界で働く180万人の雇用を守るのが目的ですが、急遽実施したことで店側の人手の確保が難しかったり、ソーシャルディスタンシングを保つためにテーブル同士の距離を空けることで、受け入れられる客数が限られてしまうなど問題もあるようです。また割引がイートインに限定されることもあり、感染の促進につながらないかという不安も一部ではあるようです。
英国の夏は短いけれども一年を通して一番過ごしやすい時期です。この貴重な時期に、旅行や外食などで経済を刺激しつつ、コロナの感染拡大をどう防いでいくかという課題は日本と同じであり、政府、ビジネスセクター、個人の取り組みや意識が引き続き問われています。
(朝日新聞社 メディアビジネス局 ロンドン駐在 伊藤耐子)