カンヌに見た、今後のメディアがむかう先

 今年6月21日から27日まで開催されたカンヌ国際広告祭に、東京本社広告局員の寺﨑大と中村正樹が行ってきました。カンヌで見て感じたことについて、リポートします。

 

 雲一つない、青い空が果てしなく続く―――渡仏前にカンヌに抱いていたイメージは、果たしてその通りであった。ホテルを出て歩くこと数分、海岸沿いの公園の中を抜けると、カンヌ広告祭のメーン会場がドーンと視界に飛び込んでくる。
 カンヌ映画祭の授賞式で見覚えのある、あの階段。遠路はるばるカンヌにやって来たという感動に浸りつつ、一歩一歩上がった。
 階段を上りきると大きなガラスの扉があり、開けようしたがどうも様子がおかしい。なんだか、人の気配が感じられない。今年は世界的な不況の影響もあって、日本からのカンヌ広告祭の参加者は昨年の半分以下ではないかとは聞いていたが、地理的な条件面を考慮すると、参加者の大半を占めるヨーロッパからの来場者はそれほど減っていないだろうと思っていた。
 やはり、不況の影響が出ているのかだろうか――。
 ふと階段の下に目をやると、別の入り口から人が入っていく。何のことはない、単に出入り口を間違えただけだった。

 

ショートリストに残った作品の展示風景 ショートリストに残った作品の展示風景

  会場の奥まで通路がまっすぐに続いていた。その通路に対して、プロモーション、PR、サイバー、メディアといった各部門が、通路に対してV字形式に配置され、ショートリスト(最終候補)に残った作品が整然と並んで展示されていた。実際に作品の前に足を運ぶと、あたりは閑散としている。昨年参加した同僚からは、混雑してなかなかじっくりと作品を見ることができなかったと聞いていたが、拍子抜けするくらい人が少ない。世界的な不況が、やはり広告業界にも大きな影響をおよぼしていることを強く実感した。

 

 不況の影響をよりはっきりと感じたのは、各部門の入賞作品をじっくりと見たときであった。部門ごとに詳細は異なるが、世界中からエントリーされた作品は、大まかに次のような指標で審査される。
 まず、クライアントの課題を解決するカギとなる、革新的なアイデアやストラテジー(戦略)は何か、そしてそれを実行するための映像やグラフィックを含めたクリエーティブワーク(エクセキューションとも言われる)、最後に期初の効果が得られたかどうかというリザルト(結果)である。
 ほんの少し前までは、多額の予算を投下し、大量のテレビCMを放映したり、屋外広告を買い占めたりするような、大型のキャンペーンの入賞が多くあった。しかしながら、プロモーションやメディア、今年から新設されたPR部門での今年の入賞作品では、ある共通するパターンが多く見られた。
 それは、①人の注目を集めるようなコンテンツ(イベント)をこしらえる、②それがテレビや新聞、ブログなどで話題になる、③その結果、クライアントのキャンペーンサイトにアクセスが増え、消費者とのコミュニケーションが深まるといったものである。
 このキャンペーンの構造だと、新聞やテレビのようなマスメディアは、告知メディアとして期待されているわけではなく、むしろクライアントがコストをかけずに、世の中に話題喚起させるための戦略PRメディアとして位置づけられているようだ。
 上記のパターンの入賞作品のいずれにおいても、テレビのニュースや新聞の記事で取り上げられることは、情報を拡散させるために非常に大きな役割を果たしていた。しかし、もちろんそのためだけではないにせよ、できるだけ媒体購入費を抑えることが評価される傾向のある今年のカンヌの状況は、私たちのようなメディアの人間にとって、厳しい現実を突きつけられている気がした。

 

授賞式会場まで続く赤じゅうたんが敷かれた階段 授賞式会場まで続く赤じゅうたんが敷かれた階段

 つらつらとメディアの行く末について考えつつ、気になった作品を見ながら会場を一通り歩いた。とはいっても、膨大な数の作品が展示されているため、とても一日で消化できるものではない。時計に目をやると、もう夕方だ。毎夜行われる各部門の授賞式に参加する時間である。あわてて外に出ると、もう19時前だというのに、まだまだ昼のように明るい。
 先ほど間違えて上った階段に目を向けると、次々に授賞式会場に人がのみ込まれていく。今度は、赤じゅうたんが階段の上、そして入り口まで敷き詰められている。その端に立ち、授賞式会場を改めて下から見上げた。いま本当にカンヌに来ているんだという実感とともに、一歩一歩階段を上がる。階段の頂上付近でふと後ろを振り返ると、誰も見ているわけではないのだが、思わず顔がほころんだ。フラッシュの代わりに浴びる夕陽が、とてもまぶしく思えた。

 

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 カンヌに滞在した計6日間で、毎日セミナーや授賞式で世界の広告に触れ、普段の仕事では直接会うことの少ない日本のクリエーターの方々を中心に交流を重ねた。世界の広告を目の前にすると不思議とナショナリズムを意識し、「どうしたら日本の広告がもっと世界に通じるようになるか」というテーマで昼夜会話が弾む。期間を通じて感じたのは「広告は世界の共通言語である」ということ。言語は違ってもメッセージを伝えることに国境はなく、人が世の中にいる限り広告という伝達手段は必要であり続けると実感した。広告の世界で仕事をしている人々の熱を感じ、「世の中にモノを伝える」ということに魅力を感じた初心を思い出させてくれた。この経験を今後に生かし、いつかフラッシュを浴びる側としてまたカンヌの地を訪れたいと強く思った。

(東京本社広告局 寺﨑 大、中村正樹)