今年も続くか?ファッションとアートの新たなコラボレーション

 

 期待よりも危惧の方が……、そんな政権交代を経て年が明けた。どちらにしてもすぐに大きな変化が起きるとは思えないのだが、今年が去年の何かとつながっていくことは確か。ファッションの世界で去年起きたことの中から、今年に影響しそうないくつかの傾向を紹介して、月並みながら年始めのあいさつに代えたい。

 去年も、ファッションブランドは大きなトレンドを打ち出せなかった。経済や文化の陳腐なグローバル化(アメリカ化)が進む中で、もう何年も前から続いているファッションのこの現象は、トレンドが一元化して世界中に広がらないという意味では、むしろ好ましいことなのかもしれない。しかし、それがファッションの陳腐化をも伴うものだとすれば、決して歓迎すべきことではない。ファッションがつまらない社会や時代というのは、たいていは次のどちらからだった。
  ――たとえば植民地化された低開発国のように、貧しさ・圧政がもたらす余裕の欠如。あるいは、独自のファッションを生み出せなかったかつての社会主義国のように、行き過ぎた真面目さや清潔さが生み出す圧迫感または退屈さ。

 もしかすると、その両方が同時に現実化しつつあるのでは?という危惧もある。しかし、新しい形は創造できなくても、作り方や見せ方で新味を打ち出すことはできる。その意味で、去年目立ったのはファッションとアートとのコラボレーションの形だった。この組み合わせは、1920年代や60・70年代にも見られた。だが今回は、その趣が少し違う。

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草間彌生とルイ・ヴィトンのコラボレーション 草間彌生とルイ・ヴィトンのコラボレーション

 たとえば、ラグジュアリーブランドの代表格ルイ・ヴィトンは去年初め、日本のアート作家草間彌生が赤白の水玉模様などの絵柄をデザインした約80タイプのバッグなどを発表した。草間は若いころからエキセントリックで前衛的な創作活動を続けてきた。最近はリバイバル的な関心を集めているが、世界で広く注目されたり作品が売れたりしてきた「大家」というわけではない。

 日本のコムデギャルソンは、岡本太郎の絵をモチーフに川久保玲がデザインしたスニーカーや時計、椅子などを発売。また春夏の新作コレクションでは英国のアーティストとコラボした服やヘッドドレスを発表した。

 この2人の日本人アーティストに共通しているのは、どちらもその今日的意義が最近急に再注目されていることだ。閉塞(へいそく)した時代の壁を打ち破れそうな奔放な表現。その意味では、別にリバイバル的な起用でなくても、むしろ無名で若いアーティストたちの方が適しているのかもしれない。

フェンディのバッグ フェンディのバッグ

 グッチは、バッグの絵柄のデザインをネットで公募し、若手作家などを含む730点が寄せられた。またフェンディは、人気の定番バッグ「バゲット」に2人の女性アーティストがししゅうを施した作品をオークションに出品。その収益は東日本大震災の被災者支援基金に寄付された。

 2012年春夏コレクションでは、ジル・サンダーがピカソの陶器作品の絵柄をセーターに編み込んだ。またNo.21がゴーギャンのタヒチの女性の絵柄を使ったり、ゴッホのヒマワリなどいわゆる大家の作品をロダルテが使っていたりもした。しかし、これらの作品は、ピカソの場合はいわば余技の作だったし、ゴッホやゴーギャンは生前に作品が十分に評価されたわけではなかった。

ドリス・ヴァン・ノッテンの2012春夏コレクション ドリス・ヴァン・ノッテンの2012春夏コレクション

 また、ともすれば本物としてのオーラが重視されがちな絵画作品よりも、もともと複製技術によって生まれる写真作品とのコラボも多かった。ドリス・ヴァン・ノッテンは若手写真家が撮影した作品をミックスしてプリント転写した図柄の印象的な服。またコスチューム・ナショナルは天才アラーキーこと荒木経惟の花やヌード写真からヒントを得た図柄を選んだ。

 1920年代、また60・70年代のコラボに選ばれたアート作品は、評価の定まった本筋の作品が主流だった。今回のそれは、時代の雰囲気や危機感を敏感に先取りしたような若手や前衛作家の作品であることが共通した特徴だ。そして、その作風は、どこか稚気といってよいくらいの若々しい印象も受ける。

 

ルイ・ヴィトンのコラボ・スカーフ ルイ・ヴィトンのコラボ・スカーフ

 ルイ・ヴィトンは去年の終わりに、若手アーティストが絵柄のデザインをしたり写真が趣味のフランス人のファッションジャーナリストが撮影した写真を組み込んだりしたスカーフのシリーズを発売した。価格もバッグや服と比べれば安い。この試みなどは、去年のファッションとアートのコラボの特徴をすべて備えた代表例といってもいいだろう。

 また、絵柄を重視すれば、服や小物は機能を考えた立体的な構成よりも平面的な作り方になる。そのため服や小物はシンプルで軽くなる。絵柄のモチーフの平面的な構成は、立体的な構成よりもより自由で伸びやかで、動きにつれて意外な表情が新たに生まれる可能性をはらんでいる。素材の質が同じだとすれば、平面的でシンプルで軽い方が価格も安くなる。

 平面性の重視、シンプルな軽さと稚気、そこに込められた時代の閉塞感への反抗性、そして価格の安さも。そんな傾向は、別にファッションに限らず他の分野の製品や作品でも共通するのではないかとも思うのだが、どうだろうか?

 

◇上間常正氏は、朝日新聞デジタルのウェブマガジン「&」でもコラムを執筆しています。

上間常正(うえま・つねまさ)

1947年東京都生まれ。東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。学芸部記者として教育、文化などを取材し、後半はファッション担当として海外コレクションなどを取材。定年退職後は文化女子大学客員教授としてメディア論やファッションの表象文化論などを講義する傍ら、フリーのジャーナリストとしても活動。また一方で、沖縄の伝統染め織を基盤にした「沖縄ファッションプロジェクト」に取り組んでいる。