ファッション誌『ヴォーグ』が先月打ち出した「美と健康」宣言をめぐって、以前からも指摘されてきた〝痩せ過ぎ〟モデルの問題がまたクローズアップされて大きな話題となった。ヴォーグは美しい体の理想イメージをより健康的なものにということで、摂食障害のように見えたり、16歳未満であることがわかっているモデルを今後は誌面に起用しないことなどを表明している。
ファッション業界ではこれまで長らく、ヴォーグも含めてあまり健康的とも思えない、痩せてやたらに背の高い体形を美の基準として押しつけてきた。だが、健康的な美しさというのも別に新しい考え方というわけではない。こちらの方がもっとずっと古くから、近代の産業社会の構成員にふさわしい体形として、20世紀に入る前から提唱されていた。
多くが180センチを超すような痩せ過ぎモデルの登場は、1990年代以後のむしろ世紀末的な現象で、それが混迷の続く今世紀はじめにも生き続けてしまった変種なのかもしれない。しかしどちらにしても、健康と美はどう組み合わせてもそれが一つの基準となって、それ以外のものを排除してしまうという堂々巡りのようなファッションに限らない問題を抱えているのだ。
ファッション誌『ヴォーグ』が先月打ち出した「美と健康」宣言をめぐって、以前からも指摘されてきた〝痩せ過ぎ〟モデルの問題がまたクローズアップされて大きな話題となった。ヴォーグは美しい体の理想イメージをより健康的なものにということで、摂食障害のように見えたり、16歳未満であることがわかっているモデルを今後は誌面に起用しないことなどを表明している。
ファッション業界ではこれまで長らく、ヴォーグも含めてあまり健康的とも思えない、痩せてやたらに背の高い体形を美の基準として押しつけてきた。だが、健康的な美しさというのも別に新しい考え方というわけではない。こちらの方がもっとずっと古くから、近代の産業社会の構成員にふさわしい体形として、20世紀に入る前から提唱されていた。
多くが180センチを超すような痩せ過ぎモデルの登場は、1990年代以後のむしろ世紀末的な現象で、それが混迷の続く今世紀はじめにも生き続けてしまった変種なのかもしれない。しかしどちらにしても、健康と美はどう組み合わせてもそれが一つの基準となって、それ以外のものを排除してしまうという堂々巡りのようなファッションに限らない問題を抱えているのだ。
この難問を打開するためには、基準そのものの垣根を低くして排除を少なくしようとする「ユニバーサルデザイン」の発想がその一つの方向だろう。その活動に2001 年から取り組んできた民間団体、湘南くらしのユニバーサルデザイン商品研究室(SUDI)が先月末に出版した『オヤノタメ商品 ヒットの法則』(集英社)では、改めて注目すべき提言と、さまざまな分野での各メーカーの商品開発の具体例が紹介されている。
ユニバーサルデザインは元々、社会的な少数者としてデザインの対象から見過ごされていた高齢者や身体に障害のある人たちに目を向けようとしたものだった。そのため、開発された商品は機能性だけを重視したお年寄りや少数者向けというイメージが強く、デザインの美しさや使う側の個性やセンスによる選択肢の幅への配慮には欠けたものになりがちだった。SUDI(スーディ)はそうした“弱点”にも目を向け、対象の垣根を取り払った、多くの人にとって快適でしかも美しいデザインのあり方を研究してきたようだ。
まず注目すべきなのは、ユニバーサルデザインのもともとの対象である高齢者が、今はもう決して少数者ではなくむしろ多数派になってきていて、実はその多くがまだ十分に元気で活動的な“アクティブシニア”だという指摘だ。身体機能や若さだけの魅力、社会的アイデンティティーといったものは失いつつも、かえってそうした“制約”から離れることによって、よりリラックスした生き方の中で自分自身の個性や幸せのあり方を積極的に求めている、との見方だ。
このような観点から、SUDIのメンバーがユニバーサルといえる商品開発の例を取材して報告している。ファッションの例では、島精機製作所が開発したハイテク無縫製ニット編み機による、全く縫い目のないニットウエア。軽くて圧迫感が少ないので、シニアに限らず若い世代にとっても同じように快適で着やすいし、適度に体にフィットするシルエットにも独特の美しさがある。シニア世代のエコ感覚にかなった、アバンティ社のオーガニックコットンの服や下着の快適さや見た目のナチュラルな美しさも、世代を超えて楽しめるものといえるだろう。
開発はモノだけに限らない。イトーヨーカドーのネットスーパーやセブン&アイグループの移動販売サービスは、これから増えるだろう高齢者に限らず、行き過ぎた郊外大型店舗による弊害を受ける人たちへの大きな助けになると思える。青森駅前にできた西松建設による中高年向け医療機関付き高層分譲住宅は、建物内に食材市場やレストラン、ショッピングフロアを備え、近くの徒歩圏内に銀行や郵便局、コンビニ、図書館などがあり、今後の新たな居住空間のあり方を示している。
SUDIの室長、今井啓子さんは「今までの商品は、目新しくて便利で若い人に受けてたくさん売れればいい、というのが主流だった。ユニバーサルなものは、使う側から見て日々を快適に送るためにという『思いやり』の気持ちに立ったものだと思う」と説明している。この本のタイトルとなった「オヤノタメ商品」の意味は、そうした思いやりの心が結局は自分にとっても快適なものとして帰ってくる、との考え方だという。
日本では、団塊の世代をはじめとする高齢者がいまや人口の3分の1近くを占めるようになっている。約1,470兆円という個人資産の40%を60歳以上の高齢層が持っているといわれる。そうした中で、ユニバーサルデザイン的な発想は今後もっと本格的に注目すべきなのではないかと思う。
◇上間常正氏は、朝日新聞デジタルのウェブマガジン「&」でもコラムを執筆しています。
1947年東京都生まれ。東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。学芸部記者として教育、文化などを取材し、後半はファッション担当として海外コレクションなどを取材。定年退職後は文化女子大学客員教授としてメディア論やファッションの表象文化論などを講義する傍ら、フリーのジャーナリストとしても活動。また一方で、沖縄の伝統染め織を基盤にした「沖縄ファッションプロジェクト」に取り組んでいる。