ユニクロの銀座グローバル旗艦店の衝撃

 

 ユニクロの新たなグローバル旗艦店が今月16日、銀座の中央通りにオープンした。ギンザコマツ東館の12階のすべてが売り場で面積は約5千平方メートル、通りをはさんだ西館には「ドーバーストリートマーケットギンザ・コムデギャルソン」が同時オープンし、銀座のファッション店の景観がかなり大幅に変わった。

ユニクロ銀座店 ユニクロ銀座店
通りを挟んだドーバーストリートマーケット・コムデギャルソン店

 この変化は過渡期を迎えたファッションそのものの変化の一つの方向を示唆しているともいえるし、またファッションに留まらず、東京の銀座が長らく保ち続けてきた消費社会の象徴としての意味が決定的に変わってしまったことをも示しているようにも思える。

 今回の銀座店の特徴は、12階という多層階でUTショップやキッズ&ベビーも含めた明確な展開を示し、1階の2層の空間にカスタマーズコンシェルジュや21体の回転マネキンを使ったディスプレーを配置などでファッション性を格段に意識したことだろう。だがその最大の見どころは10階の、東京の若手世代の代表的ブランド、アンダーカバーとコラボした「uu(ユーユー)」の売り場であり、西館のコムデギャルソンとのコラボだといってよい。

「uu」の売り場フロア 「uu」の売り場フロア

 コムデギャルソンとアンダーカバーといえば、その創造性と新しさが世界的にも注目され続けてきたブランド。だがこの二つのブランドの新作を、東京の銀座という場で、しかもこれほど大型の売り場で見たのは衝撃的なことだった。しかも、そこに並ぶ服やアクセサリーは間違いなくコムデギャルソンだしアンダーカバーなのに、価格も衝撃的な安さなのだ。オープン前夜の10階の売り場で、アンダーカバーのデザイナー高橋盾は「この素材と価格の制約の中で、自分が今までやってきたデザイン性をどこまで織り込めるか?という新たな挑戦だった」と語った。この「uu」の新ブランドは、国内のユニクロ12店舗と海外11カ国でも販売される予定だという。

 アンダーカバーは、今でもショーの一つひとつを思いだせるほどのクリエーションを重ねてきた。熱狂的なファンなどに支えられてビジネスとしても成立してきたのだが、作ったものが届くのは狭い範囲にとどまっていた。規模的にはユニクロとの今回の「uu」は比較にならないほどの大きさなのだ。では、高橋はなぜこの規模の大きさと価格の安さにあえて挑戦したのだろうか?

 高橋はこれまで自分の服作りの基本を、「見たことがあるようで、実は見たことのない新しいもの」とよく話していた。「uu」はその意味ではまさに衝撃的な「見たことのない」服だった。だがもっと大きな理由は、世界経済や社会不安、そして日本ではその象徴として起きた東日本大震災や福島の原発事故の中で、「デザイナーは何ができるのか?」との自問があったのではないか。その一つの答えが「より多くの人へ届く形で、そこに自分の思いを込めること」だったのではないかと思う。

 コムデギャルソンの「ドーバーストリートマーケット」の試みも、事業展開の規模はもっと大きいが、同じ思いが込められているだろう。そしてこの二つのブランドの試みは、現代のファッションそのものの方向に大きく影響する可能性がある。銀座には世界の一流ブランドの旗艦店が軒を連ねているが、今回オープンしたこの二つの店はそのどれとも明らかに違う「新しさ」を感じさせるものだった。また、この二つの店は銀座のイメージをも決定的に変えてしまったからだ。

柳井正会長兼社長 柳井正会長兼社長

 ユニクロを率いるファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は今回の旗艦店について、「ロードサイドの店から出発して世界を目指したユニクロの長期的なグローバル戦略を、日本で世界一の規模の店で示したかった」と語った。いわゆるファストファッションといわれるアパレル企業の中で、自前の大規模なデザインチームを抱えるH&MやZARAと違って、ユニクロは品質と価格のバランスを第一として定番のベーシック商品を主眼とすることが特徴だった。

 H&MやZARAも決して独自のファッション性を打ち出せたというわけでは決してない。柳井氏の「長期的なグローバル戦略」には、もしかするとジル・サンダーやいつまで続くかは別として今回のデザイン協力の方向も織り込まれていたのだろうか。そう考えると、ユニクロ恐るべし、との思いも禁じえない。

 ただし、ユニクロが今後もグローバル企業として発展し、ファッションの新たな可能性をも広げられるとすれば、生産態勢の面でのさらなる配慮も欠かせないだろう。産業社会が大きな曲がり角に差しかかってきた今、企業も世界的なリスク社会化に直面している。そうした中で、実際の服作りの現場でどんな労働条件が満たされているのか、糸や布などの素材が公正な仕方で調達されているか?ということがきちんとしていること。そして、それが消費者にも分かるようにすることなどが必要だ。企業がリスクを回避するためには、そうした「誠実さ」が求められていると思うからだ。

 

◇上間常正氏は、朝日新聞デジタルのウェブマガジン「&」でもコラムを執筆しています。

上間常正(うえま・つねまさ)

1947年東京都生まれ。東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。学芸部記者として教育、文化などを取材し、後半はファッション担当として海外コレクションなどを取材。定年退職後は文化女子大学客員教授としてメディア論やファッションの表象文化論などを講義する傍ら、フリーのジャーナリストとしても活動。また一方で、沖縄の伝統染め織を基盤にした「沖縄ファッションプロジェクト」に取り組んでいる。