今年は新年早々から気候異変を示すような天気が続いている。日本の西半分は大雪なのに、東京や大阪ではほとんど雨が降らなかったり、オーストラリアでは水害が頻発していたり……。これがCO2による地球温暖化のせいなのかどうかはよく分からないのだが、新聞やテレビなどで大きく取り上げられている大相撲の八百長疑惑や小沢・民主党元代表の強制起訴などよりはよほど深刻な問題だろう。八百長はなるべくない方がいい、政治家はカネの出し入れを正しく記載した方がいい、というだけの単純な話なのだから。
温暖化やその原因とされるCO2の真偽のほどはともかくとして、現代の産業社会が地球環境に大きな負荷を与え続けていることは確かだ。このままでは、それほど遠くない時期に大きなしっぺ返しが来るのは避けられないだろう。気候異変の兆しを機に、もっと環境のことを考えなければいけない。ファッションではどうか? そんなことを考えていた矢先、イタリアのトップブランドの一つがエコ関連の新ラインを3月からネットで販売するとの知らせを聞いた。それと、東京ではエコファッションの新作ショーが開かれた。
新ラインを発表したのは、ミラノコレクションで1981年から作品を発表している「アルベルタ・フェレッティ」。同名の女性デザイナーによる独特な素材使いと繊細なディテールの服で、日本でも根強い人気が続いているブランドだ。この新ライン「ピュアスレッズ(pure threads)」は、デザイナーと映画「ハリー・ポッター」のシリーズに出演して人気を得た英国の女優エマ・ワトソンが協力して企画・製品化した。
エマは環境問題に関心が高いことでも知られ、日本発のフェアトレード・ブランドとして活動を続けている「ピープル・ツリー」のクリエーティブディレクターとして服やアクセサリーなどのデザインや広報活動、また自身がモデルとしてもかかわっている。ピュアスレッズの収益の一部は、ピープル・ツリーの活動資金として寄付する予定という。
新ラインはいずれも国際認証を得たオーガニックコットンやポプリンを使った、ドレス2種、シャツ、ロングスカート、デニムの5アイテム。どれもデザインはシンプルだが、レースの刺しゅうやしなやかな素材感がゆったりとしたロマンチックな印象を与える。「着心地がよくて、着ている意味も感じられる服。そして買える価格」がねらいだという。
日本での価格はまだ決まっていないが、イタリアでは250ユーロから850ユーロまで。ファストファッションのブランドと比べるとかなり高いのだが、コレクションブランドの服としてはかなり安い。発展途上国の人々に安価で過酷な労働を押しつけ、大量生産と大量な廃棄物を出すことで成り立っている「低価格」のことを考えれば、このような「エコ商品」のイメージは今後さらに変わってくるのではないだろうか。ネット( www.albertaferretti.com )での販売開始は今年3月下旬から。
また、東京・大手町で先月23日、エコ・ファッションブランド「エコマコ」の新作コレクションショーが開かれた。このブランドは長野市を拠点に2003年に設立、シルクなどの天然素材やトウモロコシ、大豆、ケナフなどを使って新たに開発した自然素材を使い、製造過程でのCO2排出軽減にも取り組んでいる。
今回はトウモロコシを原料にした新素材「コーンファイバー」を主体、長野の地元のシルクやコットンレース、和紙などの素材を使い、日本の季節感を表現した淡い色柄のゆったりとした作品を並べていた。フリーサイズでとても軽く、洗ってもすぐ乾いてほとんどノーアイロンで着られるのが特徴だ。ウエディングや子供服もある。ブランドの設立者でデザイナーでもある岡正子さんは「自然とともに生きる女性のサステナブルなライフスタイルファッションを目指している」という。
ファッションといえばこれまで、次々と新しいスタイルを打ち出すことで消費の欲望を喚起するという近・現代の産業社会の旗振りのような役を務めてきた。しかし、そんな産業システムが資源や地球環境の限界に直面し、世界的な大構造不況として表面化してきたいま、ファッションは時代の大きな変わり目を示す新たな表現を打ち出す可能性も秘めている。
そして、できることならイメージだけではなくて、服の製造から廃棄にいたるまでの過程での環境への影響をすべて明らかにするライフサイクルアナリシス(LCA)などを率先して示すような役割も期待したい。服に限らず、今後はすべての企業がそうした情報を開示することで消費者の信頼を得なければやっていけない時代になってきていると思うからだ。
◇上間常正氏は、朝日新聞デジタルのウェブマガジン「&」でもコラムを執筆しています。
1947年東京都生まれ。東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。学芸部記者として教育、文化などを取材し、後半はファッション担当として海外コレクションなどを取材。定年退職後は文化女子大学客員教授としてメディア論やファッションの表象文化論などを講義する傍ら、フリーのジャーナリストとしても活動。また一方で、沖縄の伝統染め織を基盤にした「沖縄ファッションプロジェクト」に取り組んでいる。