21_21 DESIGN SIGHTの企画展が示すデザイン、モノ作りの新しい方向性

三宅一生の新ブランド「132 5. ISSEY MIYAKE」 三宅一生の新ブランド「132 5. ISSEY MIYAKE」

 地球環境や資源の問題が深刻化し、世界経済の閉塞(へいそく)感も進む中で、モノ作りの現場は混迷の危機に立たされている。多くの分野では今、コスト削減を最優先しながら、首をすくめてもう来ないかもしれない本格的な「景気回復」を待ち望んでいるように見える。もっと違うやり方はないのか? 東京・六本木の東京ミッドタウン内のデザイン施設「21_21 DESIGN SIGHT」(トゥーワン・トゥーワン・デザインサイト)で始まった(12月26日まで)「REALITY LAB(リアリティー・ラボ) 再生・再創造」展は、こうした状況を少しでも打開していくためのモノ作りやデザインの今後のあり方について注目すべき積極的な提案をしている。

 「21_21 DESIGN SIGHT」は、デザイナーと職人・企業、そして使い手をつなぐ場として、モノを展示するだけのこれまでのミュージアムとは異なる施設として2007年にオープン。デザイナー・三宅一生を中心に、プロダクトデザイナー・深澤直人とグラフィックデザイナー・佐藤卓がディレクターを務め、日常的な出来事や物事にデザインの視点から改めて目を向けた多角的な発信を続けている。

畳むと1枚の布に 畳むと1枚の布に

 今回の企画展では、会場の冒頭に「われわれはどこから来て、どこに行くのか――。」と題した、アートディレクター・浅葉克己がコーディネートしたコーナーに、宇宙の遠くからやってきた隕石(いんせき)や太古の化石、小惑星探査機「はやぶさ」の2分の1大モデルなどが展示されている。ここで示されていることは、松井孝典・千葉工業大学惑星探査研究センター所長らが提起している「地球システムの中で、生態系を形づくる生物圏といまの人間圏が別物になっている」との指摘を受けたもの。20世紀的な大量生産・消費を続けていくと、今世紀半ばにはエネルギーや資源・食糧が枯渇して人間圏が破綻(はたん)してしまう、との警鐘だ。

小惑星探査機「はやぶさ」の2分の1大模型の展示 小惑星探査機「はやぶさ」の2分の1大模型の展示

 展示の各コーナーは、そうした危機感を共有するデザイナーや科学者、写真家、生産場の技術者らのコラボレーションによって、製品のプロトタイプだけではなくドキュメンタリー映像やインスタレーションなどが多様な形で分かりやすく表現されている。

 筑波大学の三谷純・システム情報工学研究科准教授の立体折り紙の研究を展示したコーナーでは、コンピューターで製図し一枚の紙に落としこんで折ると、予想もしなかったような複雑で新しい立体形の折り紙が誕生するプロセスが現物と映像で表現される。

 生きたままの状態で細胞を凍結する新技術で処理されたイカやタコ、ダイコンなどありふれた食材の写真は、生命の瞬間を切り取ったようなつかの間の淡い輝きを見せる。この展示は21世紀の新しい写真表現の可能性と同時に、添加物を加える必要のない食品の新たな流通への可能性も示している。印刷時の廃液量を圧倒的に少なくできる東レが開発した「水なし印刷」の新技術、リサイクルした素材を分子レベルまで分解して高い純度で何度も再生できる帝人ファイバーの循環型リサイクル技術を用いた繊維素材の展示なども見ることができる。

企画展のプレオープンで三宅一生氏(左)と浅葉克己氏 企画展のプレオープンで三宅一生氏(左)と浅葉克己氏

 そうした中でも、三宅一生の新ブランド「132 5. ISSEY MIYAKE」の服の展示はとりわけの存在感があった。極薄の座布団のように折り畳まれた一枚の布の真ん中を持ちあげると、複雑なプリーツをもつドレスになり、それを二つ組み合わせるとジャケットにもなる。服のシェイプは着る人の体形や着方によってさまざまに変化し、脱げばまた一枚の布にすぐ戻る。折り畳んだ状態で施された箔(はく)プリントは、服の動きと当たる光の具合によって美しい昆虫のようなグラデーションに富んだ不思議な輝きを見せる。

 この新ブランドの服は、会場でも展示された三谷准教授の複雑立体造形のプログラミング技術や、帝人ファイバーの循環型新ポリエステル素材、そして服の制作にかかわる日本の織物や染織の産地のさまざまな伝統的職人技とのコラボレーションから生まれたものだという。三宅は「時代の現状に目を向け、ファンタジーやサンプルではなくて、使いたくなるような、そして作る側にも喜びをもたらすような製品を作りだすことがいま求められている」と語った。

 この企画展は、デザイナーやモノの作り手と使い手を、時代について同じ問題意識や想像力で結びつけること、作る楽しみと使う楽しみを一つの製品を通じて共有すること、そんなこれからのモノ作りのあり方への方法論を生き生きと示しているように思えた。そしてそれは、消費者(使い手)を合理的、効率的な考え方でセグメントするマーケティングとは全く違う方向性も示しているようだ。

 

◇上間常正氏は、朝日新聞デジタルのウェブマガジン「&」でもコラムを執筆しています。

上間常正(うえま・つねまさ)

1947年東京都生まれ。東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。学芸部記者として教育、文化などを取材し、後半はファッション担当として海外コレクションなどを取材。定年退職後は文化女子大学客員教授としてメディア論やファッションの表象文化論などを講義する傍ら、フリーのジャーナリストとしても活動。また一方で、沖縄の伝統染め織を基盤にした「沖縄ファッションプロジェクト」に取り組んでいる。