長所、短所を生かす戦略を-東京スタイルとサンエー・インターナショナルの経営統合

経営統合の発表後、握手をかわす東京スタイルの中島芳樹社長(左)とサンエー・インターナショナルの三宅正彦会長(10月14日、 東京都千代田区) 経営統合の発表後、握手をかわす東京スタイルの中島芳樹社長(左)とサンエー・インターナショナルの三宅正彦会長(10月14日、 東京都千代田区)

 国内大手アパレルの東京スタイルとサンエー・インターナショナルが経営統合することになった。2011年6月に共同持ち株会社(TSIホールディングス)を設立する予定で、5年後には売上高(連結)を今年度の両社合計1,525億円の水準からすると倍増となる3,000億円を目指すのだという。目標はポジティブな方がいいに決まっているが、はたしてうまくいくのかどうか。

 この二つのアパレルのマッチングは確かに悪くはない。東京スタイルの服はやや地味だが、物作りの確かさには定評があり、企業としての財政基盤もしっかりしている。一方、サンエー・インターナショナルはブランドポートフォリオの経営の実績に立った強みがある。ナチュラルビューティーやピンキー&ダイアン、ボディードレッシングといった一世を風靡(ふうび)した独自ブランドや、ダイアン フォン ファステンバーグ、ヴィヴィアン タムなどインポートブランドも多く擁して、トップファッションの世界でも活躍してきた。

 経営統合を発表した記者会見によると、統合により高収益体制の構築と、中国をはじめとするアジア各国など早急な展開を図ることが大きな目的だという。そのために、東京スタイルの直営工場の生産技術やオリジナル素材開発のノウハウ、そしてサンエーのブランド開発と企画能力を効果的に生かすとのこと。言ってみれば、堅実さと華麗さの結婚ということになるのだが、それぞれの長所が生かせるような具体的な戦略はあるのだろうか?

 経営統合の背景には、少子高齢化による客数減や不況下の衣料マーケットの縮小などが挙げられている。総務省の家計調査報告によれば、名目家計消費支出は1993年からほぼ一貫して減り続けていて、その中でも被服・履物消費は93年度と比べて09年度は53.8%にまで落ち込んでいる。これはアパレル業界にとっては危機的ともいえる厳しい状況なのだが、長期低落というべき傾向が続いた中で、大手アパレルが腰を据えた対策をとってきたかどうかは疑問だ。むしろ、素材や輸入品単価の下落で調達コストが下がり、粗利益率を上げることで何とかその場しのぎをしてきたのではないかとの印象を受ける。

 ファッションをめぐる状況の変化は、このような計量的な面だけではない。現代の産業社会は、次々と新しい形を打ち出すことで消費者の買い替え意欲を促してきた。資源や環境の限界が見えてきた中で、その成長モデルの旗振り役でもあったファッションへの消費者の目は確実に変わりつつある。低価格で着回しのきくファストファッションの隆盛もその現れの一つだ。トップファッションの側からも、消費者の生活意識の変化に対応し、これまでのファッションのあり方を自省するような表現の試みも出始めている。

 こうした状況で考えなければいけないのは、東京スタイルとサンエー・インターナショナルのそれぞれの長所がこれからも長所であり続けるのかどうか、ということだろう。少なくとも、お互いが過去の成功体験を持ち寄っても、それは逆シナジー効果となって状況への適応力をより損なうことにしかならない。それよりも例えば、東京スタイルは、結局は単独でトップに肉薄できなかった攻めの弱さ、サンエーは時に調子に乗り過ぎる軽さといった弱点を統合効果で克服できるかどうか自己批判的に検討すべきだろう。

 売り上げ目標を単純に倍にしている点も気になる。経営統合によって、新会社はワールド、オンワード樫山に次いで業界第3位の規模になるという。スケールメリットによる売り上げ増やコスト削減効果を狙うのは、もう時代遅れの発想だ。不況やデフレ下に企業統合が行われたのは、その次にまた好況が必ずやってきた過去の時代の話なのだから。

 とはいえ、両社はどちらも戦後間もない昭和24年の設立で、激動の時代をそれぞれ異なるやり方で生き抜いてきた歴史をもっている。日本のアパレル産業のためには、今回の企業統合でそうした体験を踏まえた少しでも新しいタイプのアパレルができることに期待したい。日本はもうすでに経済的には成長が望めない成熟期に入っていて、そうした時代にふさわしい新たなファッションのあり方が求められているからだ。

 前回に国会でのファッション写真撮影問題に触れたが、今週の参議院予算委員会での質疑で、蓮舫大臣は「反省している」と答えていた。事業仕分けという大事を前に、追求を続けられるよりは謝っておこうということかもしれない。しかし、彼女は「あくまで議員活動の一環だ。国会でのあの撮影のどこに問題があるのか」ときちんと反論すべきだったと思う。謝る必要のないことを謝るのは、往々にして後に禍根を残すものなのだ。

 

◇上間常正氏は、朝日新聞デジタルのウェブマガジン「&」でもコラムを執筆しています。

上間常正(うえま・つねまさ)

1947年東京都生まれ。東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。学芸部記者として教育、文化などを取材し、後半はファッション担当として海外コレクションなどを取材。定年退職後は文化女子大学客員教授としてメディア論やファッションの表象文化論などを講義する傍ら、フリーのジャーナリストとしても活動。また一方で、沖縄の伝統染め織を基盤にした「沖縄ファッションプロジェクト」に取り組んでいる。