蓮舫大臣の国会ファッション写真騒動が示した、議員の自己表現レベル

掲載された蓮舫・行政刷新担当大臣の装い (いずれも『VOGUE NIPPON』11月号より) 掲載された蓮舫・行政刷新担当大臣の装い (いずれも『VOGUE NIPPON』11月号より)

 『VOGUE NIPPON』11月号に掲載された蓮舫行政刷新担当相のインタビュー記事、というよりも国会議事堂内で撮った写真が話題になった。こういうあまり前例のないケースでは、誰かが何か言いがかりをつけるもので、粗雑な論理で「辞職すべきだ」と息巻いた女性議員もいたらしい。そんな低レベルで極端な反応は別としても、いったい何が問題だったというのだろうか。

 問題の記事は6ページにわたるもので、7枚の写真と作家・重松清さんによるインタビューで構成されている。質問はしごくまっとうに政治や議員活動などについてたずねていて、蓮舫大臣も丁寧に答えている。撮影で彼女が着ていたのはヴァレンティノの白いジャケットとスカート、ジョルジオ・アルマーニの赤いジャケット、ランバンやヴィクター&ロルフといったところ。どれも特別派手でもないし、日頃の彼女らしさを生かしてうまく着こなしている。

 撮影は、「議員活動の記録のため」として事前に許可を取った上で、議会警務部の衛視の立ち会いのもとで行われたという。議会は休会中で撮影も短時間だったため、ヴォーグの編集者のブログによると、国会の見学者もほとんど気づかなかったとのこと。

掲載された蓮舫・行政刷新担当大臣の装い (いずれも「VOGUE NIPPON」11月号より) 掲載された蓮舫・行政刷新担当大臣の装い (いずれも「VOGUE NIPPON」11月号より)

 ファッション記者としての目で言えば、蓮舫大臣のファッション度がそれほど高いとは思えない。しかし今回の撮影写真はヴォーグの企画ということもあってか、そうとうオシャレにきまっていたことは事実。少なくとも他の多くの女性議員(の少なくとも登院服姿)と比べたら、格段のレベルの差を感じさせるものだった。それが、国会で通用している暗黙のルールを支えてきた偏見や嫉妬(しっと)を刺激したのではないか、という気がする。

 参議院の議院運営委員会では、「ファッションのモデルのような撮影に違和感がある」などの意見が出たようだ。院内の撮影については「私的な宣伝、営業活動」の目的では許可しないとの規則があるそうだが、こんなあいまいな「違和感」などで適否を判断できるはずはない。これは多分、ファッションなどとは無縁でそれをむしろ誇りと勘違いしている男性議員の確固たる本音なのに違いない。そういう本音が支えている暗黙のルールを、今回の撮影がさらりと破ってしまったことが許せないのだろう。

 批判の声では、どちらかといえば女性議員の方が強烈だった。自分も以前に同じことをしていたのにそれを棚に上げて本会議で追求しようとした議員や、おしゃれ度では負けないはずの女優出身議員の声も強かった。このような女性議員らは、前述した「私的な宣伝、営利活動」禁止を、具体的な根拠を説明しないで批判の理由に挙げていた。「国会でことさら女らしく装う必要はない」とのベテラン女性議員の声もあったという。

掲載された蓮舫・行政刷新担当大臣の装い (いずれも『VOGUE NIPPON』11月号より) 掲載された蓮舫・行政刷新担当大臣の装い (いずれも『VOGUE NIPPON』11月号より)

 だが、そういう女性議員はどんな服を着ているのか? その多くは妙に明るいピンクやブルー、黄色といった色使いのことさら女性をステレオタイプに強調するようなスーツだろう。それを着ていれば女性らしく見えて目立つ、という国政の場での暗黙のジェンダー観にあまり反省もなく迎合している、と疑いたくなるようなスタイルだ。そういう負い目がどこかにあるから、レベルの高いファッション的な試みに反発してしまうのではないだろうか。

 男性議員は男らしさを強調するために、エルビス・プレスリーやトム・ジョーンズが着るようなスーツを着る必要はない。それは別に彼らのファッションセンスがより高いというわけではなくて、国会という場は伝統的に男性中心のジェンダー意識がまかり通っているので、ことさら男性を意識させる装い方をしなくてもいいというだけなのだ。

 そんな訳で、国会でのファッション度は男女とも一般的に言って、諸外国と比べてもかなり低いレベルにとどまっている。ファッション度が高いともいえない、かつて「鉄の女」といわれたイギリスのサッチャー元首相でも、バッグや靴にいたるまでかなりファッションに気を使っていた。アメリカのヒラリー・クリントンやライスといった現、前国務長官も米ヴォーグ誌に登場しているし、ペロン米下院議長は議会内のバルコニーでの撮影にも応じている。

 「私的宣伝、営業活動」の件でいえば、政治家は常に何らかの自己宣伝をしているもので、そこに公的-私的の境界を区別することは難しいしあまり意味もないだろう。営業活動についていえば、メディアというのは何らかの意味で常に営業活動にかかわっているわけだし、蓮舫議員が別にブランド物の販売促進を目的としてインタビューや撮影に応じたわけでもないことは確かなことだろう。

 むしろ考えなくてはいけないのは、政治家とは常に公に自己表現をしなければいけない存在だとすれば、ファッションはそのためには最も基本的で有力な手段だということだ。今回の騒ぎに対して、「そんな暇があったらもっと大事なことを議論しろ」との声もあるが、むしろ議員たちの自己表現のレベルが低いから大事な議論がうまく進まないのだ、と反省を迫るべきなのだ。蓮舫議員の写真が示した問題の本質はそこにあるのだと思う。

 

◇上間常正氏は、朝日新聞デジタルのウェブマガジン「&」でもコラムを執筆しています。

上間常正(うえま・つねまさ)

1947年東京都生まれ。東京大学文学部社会学科卒業後、朝日新聞社入社。学芸部記者として教育、文化などを取材し、後半はファッション担当として海外コレクションなどを取材。定年退職後は文化女子大学客員教授としてメディア論やファッションの表象文化論などを講義する傍ら、フリーのジャーナリストとしても活動。また一方で、沖縄の伝統染め織を基盤にした「沖縄ファッションプロジェクト」に取り組んでいる。