カップ型スナックの先がけ、じゃがりこ。アウトドアや車の中など、場所を選ばず楽しめるお菓子として大ヒット。ふかしたじゃがいもをフライにする独自の製法によって実現した、カリカリとした食感、じゃがいも本来のシンプルなおいしさも、ファンの心をわしづかみにしました。マーケティング本部 じゃがりこ・Jagabee事業部 じゃがりこチーム ブランド・マネージャーの小泉貴紀氏に聞きました。
「カップ型」「食感」という新しい価値
金森氏 「「じゃがりこ」が発売されたのは1995年ですが、当時のニーズをどのようにとらえ、企画がスタートしたのでしょう。
小泉氏 当時のスナック市場は、弊社の「ポテトチップス」に代表されるように、袋菓子が全盛でした。袋が枕の形をしているので、「ピロータイプ」と呼んでいますが、ピローラインしかなかったのです。しかし、ピローラインは成熟期を迎えていて、スナック市場で成長を続けるためには、何か新しい提案が必要でした。そうした中、社内の企画会議で出てきたキーワードが、「屋外消費型商品」です。
金森氏 まずは、持ち歩いて屋外で食べられるスナックというコンセプトが生まれたのですね。「少子化」「個食化」という時代背景は意識しましたか?
小泉氏 むしろ複数で食べるシーンを想定しました。開発にあたっては、消費者調査を実施。「いつでもどこでも食べられる」「おいしい」「手が汚れない」「楽しい」という4つのニーズに着目し、開発のとっかかりとなる持ち運び便利な容器のアイデアが生まれました。
金森氏 製法にもこだわりを感じます。
小泉氏 生のじゃがいもをふかして具材を練り込んでいます。練り込みで味付けがされているので、スパイスなどの「上がけ」が最小限に抑えられ、あまり手が汚れることもありません。さらに、カリカリとした楽しい食感にこだわりました。
金森氏 4つの要素を満たすための製法は、いろんな可能性があったと思いますが。
小泉氏 製法のいちばんの決め手となったのは、「食感」です。生の食材を使ったおいしさは他の製法でも実現可能ですが、理想の食感はこの製法でなければなりませんでした。
金森氏 「食感」というのが商品開発における中核的な価値だったんですね。
小泉氏 そうです。当時は口溶けのいいスナックが人気でしたが、心地よい食感を追求しました。
金森氏 よくわかります。私も「じゃがりこ」の食感にハマり、仕事のデスクに何個も積んで食べていました。
小泉氏 ありがとうございます。食感がヒットの一要因だったことは間違いないと思います。消費者調査も行いましたが、プロダクトのどこに真の価値があるかを自分たちで見極めることが大切です。「じゃがりこ」の開発メンバーは、「食感」と考えたということです。
ターゲットは女子高生
金森氏 ターゲットはどのあたりに設定していましたか。
小泉氏 スナックの購買層は、一般的に30~40代の主婦が多く、当社の「ポテトチップス」もその層をターゲットとしていますが、「じゃがりこ」は、女子高生をターゲットとしました。
金森氏 95年といえば女子高生ブームのさなかです。ルーズソックス全盛の時代でした。
小泉氏 当時の女子高生は、世の中に対して大きな影響力を持っていて、彼女たちに受け入れられれば市場全体への波及効果がねらえると考えました。人口比率は約3%にすぎませんが、スナックを食べる頻度は多い層です。また、彼女たちが結婚して 30~40代になった時、青春時代に食べた「じゃがりこ」を子供たちに薦めてくれれば、新しいサイクルが生まれます。そうした期待もありました。
金森氏 女子高生は屋外で友達と遊ぶことが多いので、「屋外消費型商品」「複数で食べる」というコンセプトがぴたりとはまります。
小泉氏 容器も、女子高生が学校に持っていくカバンにポンと入れやすいサイズ、という視点で形状を詰めていきました。ただ、すぐに現在の形に行き着いたわけではありません。テスト販売は箱形のパッケージで、思うように売れませんでした。
金森氏 それはどうしてでしょう。
小泉氏 箱を開け、もう1回中袋を開ける手間があったのと、製品自体にも問題がありました。スティックが長さのある角柱型で、箱の中で折れやすいうえ、食べる時にボロボロこぼれやすかったのです。そこで、スティックを円柱型に変え、パッケージも箱形からカップへと変えました。さらに、車のドリンクホルダーにも入るサイズにしました。
金森氏 車のドリンクホルダーに入るというのは、実に新しい提案でした。パッケージが丸形になってからも少しずつ変化していますね。小さくなっています。
小泉氏 箱形の時からは改善したものの、流通過程でスティックが底に沈み、「中身が少ない」という、クレームの原因となっていました。これを解決するため、スティックを整列充填(じゅうてん)できる製造ラインを取り入れました。整列して充填できるので、2009年にはさらなるコンパクト化も実現。紙、アルミ使用量約8%削減、流通効率の向上と、エコ対策にも成果がありました。
金森氏 従来にないパッケージが誕生したわけですが、流通の反応はいかがでしたか。
小泉氏 ピロータイプ1つ分の高さに2つ積めるので、在庫管理のメリットを感じてもらえたようです。また、「じゃがりこ」の販促活動とは別に、弊社では90年代から流通対策の転換をはかっていました。それまでのスナック市場は、小売店に大量購入をお願いしてリベートをつけるという販売方法が主流で、回転の悪い店では製造年月日が古い商品がいつまでも棚にあるという状況がありました。弊社はいち早く、消費者との接点である店頭を重視し、棚のスペースを獲得していく方向へと変換しました。そうした活動を続けていく中での「じゃがりこ」の登場だったので、流通への働きかけが十分にできたわけです。
小泉氏、金森氏
ファンと双方向のコミュニケーションをはかる
金森氏 「じゃがりこ」が発売された時、スナック業界では「じゃがりこショック」という言葉が行き交ったと聞きます。カップ型スナックの追随商品も数多く発売されました。そうした動きをどのように見ていましたか。
小泉氏 カップ型スナックが増え、一つのカテゴリーとして店舗の棚を占めるようになり、市場拡大につながったと思っています。市場競争の対策としては、お客様との直接的なコミュニケーションを大事にしました。手紙で感想を送ってくれる方もいるので、私たちも手書きでお返事しています。
金森氏 どんな声が寄せられているのですか?
小泉氏 「おいしかった」「期間限定のあの味は復活しないのですか」といった声が多いですね。最近は、「孫と一緒に食べておいしかった」などシニア層からの声も多く、マーケットの大きい層だけにうれしい反響です。
金森氏 広告コミュニケーションについても聞かせてください。
小泉氏 発売当初は、テレビCMを中心に展開しました。「じゃがりこ、じゃがりこ」と商品を連呼するCMでしたが、それが多くの人の耳に残って認知獲得につながりました。さらに、「じゃがりこ」らしい「楽しさ」を言葉遊びで演出しました。ダジャレ好きの商品開発担当者が「食べだしたらキリンがない」と言ったのを、キャッチフレーズにしたのです。弊社の「かっぱえびせん」が長く使っている「やめられない、とまらない」のように、愛され続けるといいなと思っています。
金森氏 「食べだしたらキリンがない」は、社内発のアイデアでしたか。
小泉氏 そうなんです。ダジャレは今や「じゃがりこ」の看板で、社員たちのアイデアを随時パッケージに反映しています。発売10周年には、デザインバーコード(R)を採用し、これにキリンをあしらうようになりました。
金森氏 デザインバーコード(R)を最初に見た時はびっくりしました。
小泉氏 「楽しさ」を追求した一つの答えです。ウェブサイトとモバイルサイトの充実化もはかり、会員限定のファンサイトも作りました。消費者と双方向のコミュニケーションから生まれた商品もあります。
金森氏 期間限定商品がそれにあたりますか?
小泉氏 そうですね。期間限定商品に関しては、お客様のニーズをかなり反映しています。定番商品は「サラダ」「チーズ」「じゃがバター」の3点ですが、定番商品は4品目の定着が難しいという判断から、思い切って4品目は期間限定品としました。
金森氏 おみやげ用の地域限定品はどのような経緯で生まれたのですか?
小泉氏 「じゃがりこ」のヒットの背景には、コンビニの成長にうまく乗ったことがあります。それと同じく有望な販路としておみやげ市場に着目しました。
ファンが離れない絆づくりを継続的に
金森氏 2006年に「Jagabee(じゃがビー)」を発売しました。商品の形状はかなり似ていますが、どのように住み分けていますか。
小泉氏 「じゃがりこ」の情緒的価値は「楽しさ」、「Jagabee」は「幸せ」です。「じゃがりこ」の機能的価値は「食感」、「Jagabee」は「素材感」です。「じゃがりこ」のターゲットは「台東区浅草出身のお祭り好きで好奇心旺盛な女子高生」、「Jagabee」は「文京区在住の20代OL」です。
金森氏 なるほど! わかる気がします。
小泉氏 また、昨年から「お・と・な じゃがりこ」を発売しています。ターゲットである女子高生が卒業し、家庭を持つまでの独身期間も商品とつながってもらうための施策です。20代の女性は、いちばんスナック菓子を食べない層なのです。折しもおつまみ系スナックの人気の高まりがあり、その波に乗ってファン層を広げるねらいもありました。
金森氏 2008年に「メタボ検診」が法制化されました。何か影響はありましたか?
小泉氏 健康志向は年々強まっており、間食を控える方が増えているのは事実です。今の時代は、商品の内容量が多くても不満の材料になります。昔の価値観とは変わってきているので、それをきちんととらえていきたいですね。
金森氏 今後の課題について、聞かせてください。
小泉氏 今は成長の踊り場といった状況で、攻めの戦略を考えていく必要があります。一つは、カップ型以外の商品開発です。昨今は小分けタイプの商品ニーズが高く、小袋が連なっていてミシン目で切り離せる「カレンダータイプ」のお菓子など、子供に分け与えやすいとして主婦に人気です。それを答えとするかは別として、時代に合った商品を模索していきたいと思っています。コミュニケーションも15年ぶりに刷新し、女子高生を応援する「じゃがりこ応援団」というコマーシャルを展開しています。ブランドと消費者の絆を強める取り組みを今後も続けていきます。
カルビー マーケティング本部 じゃがりこ・Jagabee事業部 じゃがりこチーム ブランド・マネージャー
1997年入社。営業職で青森に配属。1999年仙台に異動。2002年本社広域量販部に異動。8年の営業経験を経て2005年商品企画に異動、じゃがりこブランドを担当。2010年現職、現在に至る。
インタビューを終えて
「じゃがりこショック」を業界に巻き起こした画期的な製品は、それまでになかった新商品の開発のポイントとして「食感」にこだわりました。事前に行った消費者調査の回答には直接ニーズとして挙げられていなかったにもかかわらずです。しかし、「いつでもどこでも食べられる」「おいしい」「手が汚れない」「楽しい」という4つのニーズのうち、「おいしい」「楽しい」は、ほどよくカリカリと口中で砕けて食べていて楽しくなり、おいしさも増すような「食感」に対する「潜在ニーズ」であったと解釈できます。
消費者はまだ見ぬ商品に対する潜在ニーズを明確に示すことはできません。消費者の顕在ニーズに応えるだけなら、誰にでもできます。また、ニーズに対応しない、自社の技術だけが先行したシーズからヒットが生まれることもありません。
自社独自の技術を生かすことと、消費者の内なる声を聴き出すことの双方が愛されるロングセラー商品となる第一歩なのです。(金森 努氏)
金森 努(かなもり・つとむ)
有限会社金森マーケティング事務所取締役社長 東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道20年。コンサルティング事務所、電通ワンダーマンを経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師(ベンチャー・マーケティング論)、グロービス経営大学院客員准教授(マーケティング・経営戦略)、日本消費者行動研究学会学術会員
金森氏ブログ「 Kanamori Marketing Office 」
HISTORY
1994年 コンビニでテスト販売開始当時の初代じゃがりこ。
名前は「じゃがスティック」。箱型で、スティックも四角かった。
1994年 箱型と同時期に実験的に発売されたカップタイプ。
歴代カップタイプの中では、スティックが一番長い。
1994年 スティックが丸になり、パッケージデザインも変更。
1994年 箱型と同時に発売した、カップタイプの第2弾。
前作に比べて中のスティックもかなり短くなり、一口サイズだった
(現在のスティックよりも短かった)。名前を「じゃがりこ」に変更。
1995年 現在の「じゃがりこ」の原型が誕生。
新潟から発売開始し、約3年かけて全国へと広げた
2005年 発売10周年を迎えたのを機に、デザインバーコード(R)を採用
2008年 表はそのままだが、デザインバーコード(R)や
コミュニケーションスペース(逆台形)のところで、バリエーションを豊富に展開
2009年 カップサイズが、よりコンパクトになった。
カップが小さくなることで、紙・アルミの使用量が8%減に。