三菱地所のマンション第1号として、1969年に赤坂で分譲を開始した「パークハウス」。堅牢な建物構造、充実の設備、自由設計などを強みとし、首都圏を中心に物件数を拡大しました。2011年の会社統合を機に「ザ・パークハウス」として新たなスタートを切ったブランドの取り組みについて、ブランド・CS推進部 ブランド推進グループ グループ長の三浦康広氏にうかがいました。
暮らしの価値を約束する「5つのアイズ」
金森氏 パークハウスの第1号「赤坂パークハウス」は、当時どのような点が特徴的だったのですか。
三浦氏 三菱地所は、もともとビルをつくってきた会社なので、その流れに基づく建物構造は堅牢で、セントラル式冷暖房や屋内消防設備など、設備面でもビル施工のノウハウが生かされました。1戸あたりの面積は最大189m²のプランと、都心においてもゆとりがあり、お客様のご要望に応じて間取りをカスタマイズできるのも大きな特徴でした。
金森氏 特にハード面の充実が際立っていたわけですね。
三浦氏 そうです。国土交通省の住宅性能表示制度が2000年に誕生する以前から、独自の基準を設けていました。設計、施工、入居後の共用部分の点検まで、品質や性能を第三者や専門技術者が徹底的にチェックするのです。
金森氏 そうした取り組みについて、どのように認知を高めていったのでしょう。
三浦氏 消費者に取り組みを知っていただこうと、独自のマンション品質管理や性能表示システムを「チェックアイズ」と称し、冊子などにまとめて情報公開を行うようになりました。
金森氏 マンションの入居者は、仕上がった物件を見ることはできますが、構造の部分はそうはいきません。でも、本当は目に見えない部分がどうなっているのかを知りたいはずで、そのニーズにもきちんと応えていこうと。
三浦氏 その通りです。
金森氏 パークハウスシリーズは、マンションに対する信頼醸成を先導してきたイメージがあります。その一方で、競合他社も様々な物件を打ち出してくるので、差別化が難しくなっていったのではないでしょうか。潜在ニーズの訴求に着目したのは、とても意味のあることだったと思います。
三浦氏 2011年1月に三菱地所、三菱地所リアルエステートサービス、藤和不動産の3社の住宅事業を統合し、三菱地所レジデンスを発足させました。そして、「パークハウス」ブランドは、「ザ・パークハウス」として新たなスタートを切りました。これにともない、「チェックアイズ」をはじめとした「5つのアイズ」を掲げました。マンションに求められる、様々な「安心」と「クオリティー」を五つの視点とテーマでご提案するものです。
金森氏 「チェックアイズ」と、あとの四つとは。
三浦氏 「エコアイズ」「カスタムアイズ」「ライフアイズ」「コミュニティアイズ」です。“アイズ”という言葉には、「お客様目線」「品質を徹底的にチェックする厳しいプロの目線」という意味を込めています。これらは今に始まった取り組みではなく、ブランド誕生当時から徹底してきたことですが、新社化を機に明確にしました。「5つのアイズ」の取り組みは、昨年、グッドデザイン賞を受賞しています。
金森氏 環境に関連する「エコアイズ」というのは、これからの時代はますます注目されるでしょうね。
三浦氏 そう思います。新社立ち上げにあたり、私はブランドの方向性を策定する統合準備室にいました。ここで主眼としていたのが、「ザ・パークハウスを、未来を見つめたブランドに育てたい」ということで、中でも「環境」と「コミュニティ」がキーワードになるのではないかと議論にのぼりました。
金森氏 従来の取り組みの延長にあるものといえるのではないでしょうか。
三浦氏 そうなんです。エコ対策でいえば、パークハウスは以前から、断熱効果のある複層ガラスの標準装備や、東京ガスの給湯器「エコジョーズ」の標準採用など、先進的な取り組みをしてきました。またザ・パークハウスにおいては、原則40戸以上のマンションに太陽光発電と高圧一括受電を組み合わせた独自システム「ソレッコ」を導入しています。しかも、いずれもお客様にご負担のないエコ対策です。
金森氏 住むだけで環境負荷を減らせると。
三浦氏 はい。しかも、「ソレッコ」システムのコスト負担は原則お客様にかかりません。管理とメンテナンスは、グループ会社のメックecoライフが引き受けています。そのうえで電気代が節約できるのです。
入居者同士の交流を促す「三菱地所のレジデンスクラブ」
金森氏 「コミュニティアイズ」については、どんな特徴がありますか。
三浦氏 これからの時代は、高齢者の独り住まいなどが増えることが予想され、ご高齢になれば在宅時間も長くなるでしょう。マンションの入居者同士でコミュニティが築かれていると、何かと安心です。そうした意図も含めて、契約者様、入居者様の会員組織「三菱地所のレジデンスクラブ」を立ち上げました。19万戸に及ぶお客様に会報誌を発行し、ウェブ上の情報交換やイベントなどを推進しています。
金森氏 イベントというのは。
三浦氏 いろいろな形があります。例えば、入居前に「どんな人が住むのですか?住んでいるのですか?」という質問をされるお客様がとても多いのですが、個人情報の保護という点で、当然ながらその質問にはお答えできません。そこで、ご契約者様同士の顔合わせ会を開くなど、ご入居前からのネットワークづくりをサポートしています。三菱地所が地域のNPOと連携して農山村の保護活動を展開している山梨県北杜市の「空土ファーム」における農場体験ツアーや、丸の内にある三菱一号館美術館を、学芸員の案内とともに閉館後に回っていただくツアーなども開催しています。
金森氏 「売って終わり」ではなく、契約成立後もお客様とのコミュニケーションを継続しているんですね。
三浦氏 そうです。コミュニケーションを絶やさないことで、リフォームや住み替えといったニーズが生まれたときにもきちんと対応していきたいと考えています。
金森氏 マンション売買において、今の時代はクチコミがとても大きな影響力を持っています。入居後の手厚いサービスやコミュニケーションというのは、とても大事ですよね。
三浦氏 大事だと思います。お客様のロイヤルティーをいかに高めていくかという意味で、最優先事項といえますね。
金森氏 「三菱地所のレジデンスクラブ」が顧客満足の器となり、クチコミを促進し、売れ続けるいい循環を生み出すものになると。
三浦氏 そうなればいいと思っています。マンションは高い買い物ですが、招かれたお宅がたまたまザ・パークハウスで、「このマンションいいね」「いいでしょう?実はこんなメリットもあって……」という会話が、購入の決定打になったりしますから。
金森氏 クチコミを促す一方で、ブランドコミュニケーションも重要だと思いますが、新社化にあたって「パークハウス」と、藤和不動産のマンションブランド「ベリスタ」を一本化させましたよね。
三浦氏 はい。三菱地所の「パークハウス」は、都心高額物件を中心に展開してきたブランドです。一方、藤和不動産の「ベリスタ」は、初めて住宅を購入されるファミリーのお客様を中心としてきました。この二つを統合して誕生したのが「ザ・パークハウス」です。
金森氏 顧客層もポジショニングも違う二つのブランドを統合させる難しさもあったのではないでしょうか。
三浦氏 「プレミアム感」と「スケール」という両ブランドの特性を両立していくことが重要だと思っています。それから、やはりお客様のロイヤルティーを高く保つということですね。
三浦氏、金森氏
顧客ロイヤルティーを高める会社軸、ヒト軸、モノ軸
金森氏 顧客のロイヤルティーを高めつつ供給量も求めていくという戦略は、競合他社にも見られるのではないでしょうか。そのポジショニングについてもうかがいたいのですが、ブランドイメージ調査などは行っていますか。
三浦氏 実施しています。調査によれば、年間約5,000戸規模の供給量があり、ロイヤルティーも高い会社は、当社のほかにも数社あります。さらに分析していくと、当ブランドのロイヤルティーを支えている三つの軸があることがわかりました。会社軸、ヒト軸、モノ軸です。
金森氏 会社軸というのは、「三菱」のネームバリューということですね。
三浦氏 そうです。「ザ・パークハウス」のロゴの隣にスリーダイヤのマークがあると、やはり認知のスピードが早く、「安心」「信頼」というイメージで見てくださる方が非常に多いのです。モノ軸とは、チェックアイズを徹底した建物や設備です。モノ軸については、さらに強化を進めています。
金森氏 その具体的な内容とは
三浦氏 マンションの新しい暮らし方について意見を交換する「スマイラボ」というウェブサイトを開設しました。サイトは、マンションのR&D機能を担う会社として先にも触れたメックecoライフが運営しています。同社は、住まいに関する新規提案や、環境の取り組みの研究開発なども行っています。このサイトは、読み物として楽しめるだけでなく、住まいについてのアンケートとその結果報告も行っています。例えば、キッチンのシンクと作業台の大きさについてのアンケートでは、シンクの大きさよりも作業スペースを重視する人が多いことがわかりました。
金森氏 わが家もそうですが、今の時代は食洗機を置く家庭が多いですし、その気持ちはよくわかります。
三浦氏 そうした新しいニーズを、ウェブに寄せられたご意見やアンケートの回答から掘り起こし、実際にモノづくりに反映させていく取り組みがスマイラボです。
金森氏 ヒト軸については、接客態度などがポイントになってくると思いますが。
三浦氏 アンケートでは、「営業担当者の知識が豊富」「親身に相談にのってくれた」といった評価を多くいただいています。また、「お客様の大事な方に、ザ・パークハウスの営業担当者を薦めたいと思いますか?」といった問いに対する答えを調査・分類して導き出すロイヤルティーの指標「NPS」を導入し、その結果を営業担当者にフィードバックさせることで、顧客満足の向上に努めています。
「暮らしに、いつも新しいよろこびを。」
金森氏 会員制の「三菱地所のレジデンスクラブ」のほかに、入居者を対象とするコミュニケーションとして、どういったことがありますか。
三浦氏 マンションごとに防災セミナーを行っています。管理組合が住民同士の「助け合いシステム」を構築するサポートをしているのです。
金森氏 「管理組合で勝手にやってください」ということではなく、具体的な提案をされているんですね。
三浦氏 そうです。国の建築基準をクリアしているマンションであれば、地震後に住戸内で生活を続けることも十分考えられます。ただ、その時ガスや水道などのライフラインの復旧に時間がかかる可能性はあります。そうした非常事態にどう対処したらいいのかを、管理組合で話し合っておくことが、とても重要だと思うのです。
金森氏 一昨年に大きな震災がありましたが、その後、どんな対策をしていますか。
三浦氏 各マンションで防災訓練を実施しています。訓練を通して入居者同士の絆を深めていただくこともねらいとしています。また、首都圏を中心として管理組合の理事様や理事長様あてに防災セミナーのご案内も行っております。一定戸数以上のマンションには、災害備蓄品を整えています。
金森氏 それは特筆すべき特徴といえるのではないでしょうか。
三浦氏 三菱地所の歴史をさかのぼると、関東大震災の翌年から丸の内のビルにおいて防災訓練を行っているんです。テナントの皆さんに安全に就業していただくことを念頭に置き、毎年9月1日に「点検」と称する防災訓練を実施し、避難経路や備蓄品を確認しています。一昨年の大震災の際も、地震があった直後から、スリーダイヤのマークがついたヘルメットをかぶった三菱の社員が、丸の内周辺を点検して回っていました。ふだんの訓練のたまものといえると思います。そうした防災意識はマンション管理にも浸透しています。
金森氏 つまり、一昨年の大震災以降に始めたことではなく、昔からの取り組みだったわけですね。
三浦氏 そうなんです。
金森氏 すばらしいことですね。最後に、今後の注力ポイントについても聞かせてください。
三浦氏 「暮らしに、いつも新しいよろこびを。」という経営ビジョンにあるように、ハード面だけでなく、「暮らし」にスポットを当て、「ザ・パークハウス」の価値を伝えていきたいと思っています。昨年から朝日新聞紙上で展開した広告特集シリーズもその一環でした。
金森氏 私は以前、生命保険会社の営業担当者の成績を分析したことがあるのですが、「保険を売ります」という態度の人は往々にして営業成績が低く、「安心を売ります」という態度の人ほど営業成績がいいことがわかりました。マンション販売もそれと似ていて、「箱を売ります」ということではなく、「暮らしを売ります」ということが大事なのでしょうね。
三浦氏 そう思います。加えて今後は、「新しさ」も印象づけていきたいと考えています。
金森氏 例えばどんなことでしょう。
三浦氏 他社に先がけ、戸別に光熱費の年間シミュレーションを行い、情報提供をする準備をしています。マンションは、最上階や角部屋が人気ですが、他の部屋に比べて冷暖房効率は下がります。生活様式にもよりますが、一律条件で比較して「このくらいの光熱費」ということがわかるので、「自分のライフスタイルを考慮すると、角部屋ではない方がいいかもしれない」などと判断しやすくなるわけです。
金森氏 まさに「暮らし」につながる新しい取り組みといえますね。ハードの充実、ニーズのくみ上げ、環境対応、入居者のコミュニティづくり、防災、新しいサービス提案と、多彩なアプローチによって「ザ・パークハウス」が高いロイヤルティーを維持していることがよくわかりました。
三菱地所レジデンス ブランド・CS推進部 ブランド推進グループ グループ長
1990年三菱地所住宅販売に入社。2010年三菱地所の住宅事業統合に際し、統合準備室に在籍。2011年1月よりブランド・CS推進部に在籍。2011月4月より現職。
インタビューを終えて
「自らが顧客に販売しているものは何か?」という問いに本質的に答えられる担当者は案外と多くない。インタビュー中にあるように、マンションは「ハコ」ではなく、そこでの「暮らし」を売っている。そして、長く住み「暮らしの味わい」を楽しむためには顧客に「安心感」を提供することが欠かせない。「ザ・パークハウス」は建物の構造などの目に見えない部分へのこだわりをはじめとして、販売後のフォローなどに至るまで、顧客への「安心感」を総合的に提供していることがわかる。
顧客との関係性のゴールはどこにあるのか。それは、顧客に「Peace of mind(心の平穏)」を提供し続け、「やっぱり選んでよかった」と常に思ってもらうことだ。その意味では、ゴールというものは正確には存在しない。しかし、ゴールをきちんと認識してそこに向かっているか否かで結果は大きく異なる。「ザ・パークハウス」の売れ続ける理由は、「5つのアイズ」が示す通り、そのゴールの明確さにあるといえるだろう。 (金森努氏)
金森 努(かなもり・つとむ)
有限会社金森マーケティング事務所取締役社長 東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道20年。コンサルティング事務所、電通ワンダーマンを経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師(ベンチャー・マーケティング論)、グロービス経営大学院客員准教授(マーケティング・経営戦略)、日本消費者行動研究学会学術会員
金森氏ブログ「 Kanamori Marketing Office 」
HISTORY
1937年
「三菱地所」設立
1957年
「藤和不動産」設立
1968年
藤和不動産のハイタウンシリーズ「湯島ハイタウン」分譲
1969年
「パークハウス」の第1号物件「赤坂パークハウス」分譲
1972年
三菱地所の住宅販売部門を担う「三菱地所住宅販売」を設立
1986年
現在もステータス的な存在であり続け、ヴィンテージマンションの代表格となった「広尾ガーデンヒルズ」竣工
1993年
大規模開発の「パークハウス多摩川」竣工
2003年
みなとみらい21地区の超高層マンション「M.M.TOWERS」竣工
2005年
大規模な保有林を残し、65%の緑地率を実現した大規模マンション「フォートンヒルズ」分譲
2007年
三菱地所住宅販売が「三菱地所リアルエステートサービス」へ社名変更
2008年
免震工法を採用した大規模マンション「M.M.TOWERS FORESIS」竣工
2009年
三菱地所が藤和不動産を完全子会社化
2010年
2011年度グッドデザイン賞を受賞した「パークハウス吉祥寺OIKOS」竣工。エコマンションの新たなライフスタイルを提案。
2011年
三菱地所、三菱地所リアルエステートサービス、藤和不動産の住宅事業を統合して「三菱地所レジデンス」が誕生。
新ブランド「ザ・パークハウス」の第1弾として「ザ・パークハウス 大崎」ほか18物件を発表。
マンションの契約者、入居者を対象とした新たな会員組織「三菱地所のレジデンスクラブ」発足。
2012年
美しい町並みと融合した「ザ・パークハウス 六番町」、希望のプランを自由に選択できるスマートセレクト構想の第1弾プロジェクト「ザ・パークハウス茅ヶ崎東海岸南」竣工。ほか、「5つのアイズ」「スマイラボ」の計4件が2012年度グッドデザイン賞受賞。