Vol.18 ロッテ「ガーナミルクチョコレート」

 チョコレート事業50年目を迎えたロッテの主力商品「ガーナミルクチョコレート」。スイス仕込みのなめらかな口どけとコクのある味わいが特徴で、5月の「母の日ガーナ」キャンペーンでもおなじみです。ロッテ商品開発部 ブランド担当 チョコレート企画室主査の天野寛之氏に、これまでの歩みや新しい取り組みについて聞きました。

スイス式のおいしさで、アメリカ式の先発商品に対抗

金森氏 ガーナミルクチョコレートは50年の歴史を持ちますが、発売当時、すでにいくつかの国産チョコレートが市場に存在していたと思います。どのように先行商品と差別化を図ったのでしょう。

天野氏 当社はチューインガムから事業をスタートしました。総合菓子メーカーとして飛躍するためにチョコレート市場への参入は必須と考え、商品開発に着手しました。その上で当社が最もこだわったのは、品質です。

  ガーナミルクチョコレートが誕生する以前の国産チョコは、アメリカ式の軽い味わいが主流でした。これに対し、ヨーロッパで実績のある技術者、マックス・ブラック氏を開発責任者として招き、ミルクチョコレート発祥の地スイスの味わいを追求しました。

金森氏 具体的にどんな味を目指したのですか。

天野氏 スイスのチョコは、コクがあって口どけがまろやかです。あっさりとしたアメリカ式のチョコよりも、「ミルクチョコを食べた」という満足感が高いのが特徴です。スイス以上の味、日本人の味覚に合う味を目指しました。

金森氏 コミュニケーションにおいてもその点を中心に訴求したのでしょうか。

1964年2月12日付 朝刊 1964年2月12日付 朝刊

天野氏 そうです。発売当初の新聞広告でも、「スイスの味」というコピーを大きく打ち出しています。また、競合他社は商品に企業名を冠していましたが、当社は高品質カカオ豆の原産地の国名を冠して「ガーナミルクチョコレート」としました。これも新しい切り口でした。

金森氏 参入後、市場の反応はどうでしたか。

天野氏 発売と同時に爆発的なヒットとなり、生産が注文に追いつかなくなるほどだったそうです。販売店から、「人気のガーナミルクチョコを多く店頭に並べたいので、早く届けてほしい」と当社に矢のような催促があったという記録も残っています。ただ、当時は温度管理された倉庫で一定期間熟成させる期間が必要で、「どんなに催促されても熟成前のチョコを出荷してはならない」というブラック氏の指示に従ったといいます。最高の品質を守るというブラック氏の精神は、今もしっかりと受け継がれています。

金森氏 これはお世辞ではなく、私の周りには「ガーナ派」と言う人が多いんです。

天野氏 そういう方が本当にたくさんいらっしゃるんです。記憶に残る味だと。やはり「ミルクチョコを食べた」という満足感が大きく関わっているかもしれませんね。

金森氏 ガーナのもうひとつの独自性といえば、赤いパッケージです。もちろん販売戦略の一つだったと思いますが。

天野氏 はい。それまで売り場を占めていた商品は、どれもチョコレート色のパッケージでした。これに対し、やさしさや、食べて元気になるおいしさ、品質にこだわる情熱などを想起させる鮮やかな赤色を打ち出し、見た目にも明らかな差別化を図りました。

金森氏 パッケージは、これまでどのように変わってきたのですか。

天野氏 包装形態やデザインレイアウトなどは時代とともに必要に応じて調整してきましたが、ガーナレッドや金色のロゴ、カカオのイラストは発売時から変わらない要素です。もともと完成度の高いデザインなので、全体の印象は変えないようにしています。

金森氏 味についてはどうですか。

天野氏 ガーナのレシピは、ある意味“聖域”で、変えてもほんの微調整のレベルです。人々のし好の変化に合わせて、「変わった」とわからない範囲内で行っています。改良に際しては、消費者調査を徹底しているので、お客様の期待を裏切るようなことはないと自負しています。

TPOに合ったさまざまな姉妹商品を展開

金森氏金森氏

金森氏 姉妹商品も出していますね。その狙いについて教えてもらえますか。

天野氏 カバンに入れて持ち歩いて外で食べたり、複数で分け合って食べたり、職場の机に置いて仕事の合間に食べたり……と、チョコを食べるシーンは多様化しています。そこで、ひと口サイズに包装したタイプや、個包装が大袋に入ったシェアタイプ、ボトル入りのタイプ、手に付きにくいキューブ型タイプなど、シーンに合わせた商品をそろえています。

金森氏 板チョコの売り上げがベースにあって、派生商品で積み増していく。そんな成長イメージでしょうか。

天野氏 そうですね。基幹商品はあくまでも板チョコで、姉妹商品は板チョコを手に取っていただくためのステップという捉え方をしています。例えば、最近は会議中に気持ちを集中させるためにチョコを食べる方が増えています。ただ、さすがに板チョコの包装紙をむいてバリバリ食べるわけにはいきませんよね。そうしたニーズにきめ細かく対応していくことで、お客様との新しい接点が生まれます。その結果、「ガーナミルクチョコレートってこんなにおいしいんだ。会議中はひと口サイズをこっそり食べて、家に帰ったら思う存分板チョコをかじろう」というマインドになってもらえたらいいなと思っています。

金森氏 なるほど。それに、流通のあり方も時代とともに変わっていますから、お店の棚をどう取るかという意味でも、姉妹商品が果たしている役割は大きいのではないでしょうか。

天野氏 おっしゃる通りです。コンビニでも、スーパーでも、家でも、職場でも、通学や通勤途中も、「いつでもどこでも赤いパッケージのガーナミルクチョコ」という環境を作っていきたいと考えています。

金森氏 ところで、現在の購買層のメーンボリュームは。

天野氏 子どもから大人まで幅広いですが、いちばん多いのは40代の女性です。

金森氏 ガーナミルクチョコを使ったお菓子作りなども提案されていますが、そうした需要も高そうな層ですね。

天野氏 そうですね。ただ、小さな頃からガーナの板チョコに親しんでくださっている世代なので、1枚をかじって楽しまれる方も多いと思います。

金森氏 なるほど。

天野氏、金森氏

シンボルカラーを前面に打ち出し、「ハレ」のシーンを華やかに演出

金森氏 これまで、いわゆる“モノ訴求”についてお話をうかがってきましたが、溶かして食べる「ガーナフォンデュ」や、「母の日ガーナ」など、“コト訴求”にも力を入れています。

天野氏 はい。食べておいしいだけでなく、楽しいシーンに「使える」ということを積極的にコミュニケーションしています。

金森氏 マーケティング用語で言う「プロダクト・ライフサイクル」の成熟期には、より情緒的な“コト訴求”が有効だといわれますが、そうした段階に入っているということでしょうか。

天野氏 ご指摘の通りです。チョコレート市場は、ここのところ3,000億円規模にとどまり、踊り場状態が続いています。その一方で、甘い物の選択肢はどんどん増えています。チョコケーキやチョコビスケットなど、ほかのジャンルのチョコ関連商品も無数にあります。気分転換のために口に運ぶという点では、缶コーヒーなどまったく別の市場とも戦わなければなりません。

金森氏 ダイエットブーム、健康志向など、外部環境は逆風といってもいいのではないでしょうか。

天野氏 ただ、確実に固定層は存在します。おいしさという機能面でそこをがっちりと押さえ、さらに「愛着」や「思い出」など、気持ちに寄り添ったアプローチが重要だと考えています。

金森氏 例えば、チョコを使った手作り菓子の提案は、競合他社も行っています。どう差別化を図っていますか。

天野氏 口どけがなめらかなガーナは、溶かして他の食材と合わせてもおいしいんです。これは自信を持って言えることなので、コミュニケーションでも強調しています。さらに、シンボルカラーの赤を前面に打ち出し、「ハレ」のシーンを華やかに演出できるチョコであることをアピールしています。

金森氏 機能面でも、情緒面でも、ブランドの資産を最大限に生かしているのですね。

天野氏 ブランドの資産ということでいえば、紙で巻いた包装ではなく、箱包装であることも大手他社にない特徴です。メッセージが書き込めるギフト用のパッケージを作ったりもしています。

金森氏 いいアイデアですね。中身を食べた後もきれいな形のまま保存しておけますし。

天野氏 「母の日ガーナ」のキャンペーンでは、メッセージを書いたチョコとカーネーションを一緒に贈ってはどうですか、という提案をしています。

金森氏 「母の日ガーナ」は、いつごろ始めたのですか。

天野氏 2001年です。

金森氏 もう10年以上続いているんですね。今や「母の日ガーナ」も大事なブランド資産の一つといえるのではないでしょうか。

天野氏 その通りです。ガーナは小さなお子様でもお母さんのために買える値段なので、そういう意味でも喜ばれ、うまく浸透したのかなと思います。

金森氏 「母の日ガーナ」のコミュニケーションは、どんな工夫をしていますか。

天野氏 お子さんに人気の当社の他のお菓子にガーナのサンプルをつけるなど、店頭展開にも力を入れています。

 また、これまでは「贈り手目線」のコミュニケーションでしたが、今年は「母親目線」のコミュニケーションも始めました。ガーナを贈ってもらったお母さんたちの喜びの声を全国から集め、ウェブCMにしたのです。CMは、ユーチューブ上に4月14日に開局した「チョコモーションTV」で見ることができます。「贈ってもらったガーナを使って家族のために手作りのお菓子を作りました」というお母さんの声もあり、「贈って終わり」ではない、新たなサイクルの提案もできているかなと思います。

金森氏 「母の日需要」の創出に成功し、その“コト”が新たな“コト”を創り出しているのですね。流れの作り方が見事だと思います。

「チョコめし」に新たな可能性

天野氏 天野氏

金森氏 今後の課題についても聞かせてください。

天野氏 「チョコめし」という言葉をご存じでしょうか。ここ数年、メディアでも取りあげられるようになりましたが、読んで字のごとくチョコを使った料理のことです。海外では、砂糖代わりにチョコを使ってお肉にかけるソースを作ったり、調味料としてチョコが活躍しています。日本でも、カレーやビーフシチューの隠し味としてチョコを入れる人は結構いますが、もっと日常の食卓でいろんな料理に使ってほしいと考えています。

金森氏 そのために、どんな取り組みをしていますか。

天野氏 レシピを研究し、料理を提供する場を外部企業の力をお借りして積極的に作っています。ここ数年のバレンタインデーには、グランドプリンスホテル高輪のフランス料理レストランでガーナミルクチョコレートを使ったフルコース料理を出していただいたり、ガーナを使ったみそラーメンを「麺屋武蔵」で出していただいたりと、「おいしいコラボレーション」を企画しました。
  社内の取り組みとしては、ホームページ内で家庭で簡単に出来るチョコめしの紹介や、今年のバレンタインデーには社食でガーナミルクチョコレートを使ったビーフシチューを初めて社員に振舞いました。

金森氏 チョコを使うシーンを、デザートのみならず主菜にまで広げる試み……。需要創造に向けた新たなチャレンジといえますね。

天野氏 振り返ると、「ガーナフォンデュ」も「母の日ガーナ」も、チャレンジから始まりました。「ガーナフォンデュ」は当初、「完成度の高い商品をなぜわざわざ溶かす必要があるのか」という声が社内であがりましたし、「母の日ガーナ」は、「どんどん暖かくなる時期に果たして需要が伸びるだろうか」という声があがりました。それでもチャレンジし、結果、需要拡大につながりました。チャレンジをやめてはいけないと思っています。

金森氏 「チョコモーションTV」も新しい挑戦の一環と言えますよね。最近では、ミュージシャンのAIさんがお母さんに「母の日ソング」をプレゼントする映像がここで流れ、大評判だったそうですが。

天野氏 そうなんです。「感動して泣けた」という反響がたくさん届き、大変盛り上がりました。この「チョコモーションTV」は、企業目線のメッセージを発信する掲示板ではなく、お客様同士が気軽に集ってコミュニケーションできる「広場」です。ここで交わされる情報を通じて商品への親しみをより深めてもらえたらいいなと思っています。

金森氏 デビュー50年をブランドの金字塔にしてしまうのではなく、消費者と一緒にさらなる成長を目指していく。その姿勢は、フィリップ・コトラーが提唱するマーケティング3.0の「共創」の概念に通じます。ユーザー発信の情報をどのように活用していくのか。今後の取り組みに期待しています。

天野寛之

ロッテ 商品開発部 ブランド担当 チョコレート企画室主査

1996年入社。名古屋エリアにて営業担当。1999年商品開発部へ配属。子供向け商品・キャラクター商品担当、トッポ・パイの実担当を経てガーナミルクチョコレート担当。

インタビューを終えて

 「ガーナミルクチョコレート」がロングセラーとなった成長のヒミツは、マーケティングの定石に沿った確実な展開にあるといえる。製品の導入期においては、「今までにない味わい」を中核価値として競合と差別化しつつブランドを定着させ、成長期においては「様々な場所やシーンで食べられる」という実体価値を派生商品で実現。さらに、成熟期においては単に味わうというだけでない、「コト訴求」を付随機能として展開している。今日、多くの商品は市場の成熟化と共に頭打ちの危機に瀕(ひん)している。チョコレート市場もその例に漏れていない。しかし、その中でなお成長をしていくために、「母の日需要」という「コト」を作り出し、定着させた事例は多くの企業で参考となるだろう。また、企業からの一方的な情報発信に留まらない、「顧客と共に作り上げる“情報の場”作り」が今後どのようにブランド価値を高めていくのかも目が離せないといえるだろう。(金森努氏)


金森 努氏

金森 努(かなもり・つとむ)

有限会社金森マーケティング事務所取締役社長 東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道20年。コンサルティング事務所、電通ワンダーマンを経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師(ベンチャー・マーケティング論)、グロービス経営大学院客員准教授(マーケティング・経営戦略)、日本消費者行動研究学会学術会員
金森氏ブログ「 Kanamori Marketing Office

HISTORY

1964年

1964年2月12日付朝刊 1964年2月12日付朝刊
発売当時のパッケージ 発売当時のパッケージ

「ガーナミルクチョコレート」発売。
それまでガム専業だったロッテが初めてチョコレート事業に参入。


1994年

「ガーナミルクチョコレート」 リニューアルパッケージ

ガーナミルクチョコレート発売30周年を機に紙包装から箱パッケージにリニューアル。


2001年

ガーナチョコレート 2001年当時のパッケージ

「母の日ガーナ」のキャンペーン開始。


2005年

ガーナチョコレート セット内容
ガーナチョコレート 「ガーナフォンデュセット」

「ガーナフォンデュセット」発売。
お家で簡単にチョコレートフォンデュを楽しめる専用鍋付き。


2006年

「ガーナ生チョコレート」 「ガーナ生チョコレート」

パティシエのニコラ・ブッサン氏とコラボレーションした「ガーナ生チョコレート」発売。


2008年

「モコモコとガーナで作る手作りふんわりカップケーキ」 「モコモコとガーナで作る
手作りふんわりカップケーキ」
「モコモコとガーナで作る手作りふんわりカップケーキ」 「ガーナで作る手作り
ハッピートリュフ」

「ガーナで作る手作りハッピートリュフ」
「モコモコとガーナで作る手作りふんわりカップケーキ」発売。
バレンタイン専用の手作りチョコレートキット。


2008年

「ハートフルガーナ」 「ハートフルガーナ」

「ハートフルガーナ」発売。
母の日に向けた贈答用のガーナミルクチョコレート。
タテ145mm×ヨコ300mm×厚さ18mmの大型サイズ。


2008年

「ガーナdeトッポ」 「ガーナdeトッポ」

ロッテの人気ブランド「トッポ」とコラボレーションした「ガーナdeトッポ」発売。


2009年

「ガーナdeホットショコラ」 「ガーナdeホットショコラ」

温めたミルクに溶かして簡単にホットショコラができる「ガーナdeホットショコラ」発売。


2010年

「ガーナミルクボトル」 「ガーナミルクボトル」

小粒タイプのガーナミルクチョコレートがボトルに入った「ガーナミルクボトル」発売。


2013年

ロッテチョコレート事業50年目を迎える。「チョコモーションTV」スタート。

ガーナミルクチョコレート 2013年版のパッケージ
2013年4月15日付TV面 2013年4月15日付TV面
2013年4月15日付夕刊全15段 2013年4月15日付夕刊全15段