昔の「シニア」観を捨て コミュニケーションを刷新

 JR東日本が運営する会員組織「大人の休日倶楽部」は、2005年に発足。男性50~64歳、女性50~59歳を対象とした「ミドル」と、男性65歳以上、女性60歳以上の「ジパング」の2つに区分されている。いずれも数千円の年会費で、乗車券や旅行商品の割引、会員限定の旅行やイベント参加などの特典がある。

50代を中心とした「ミドル会員」の志向を把握

清水佳代子氏 清水佳代子氏

 「50代からの旅と暮らしを応援する」とのコンセプトで2005年に発足した、JR東日本の会員組織「大人の休日倶楽部」。会員限定のツアーを楽しんだり、さらには多彩な講座をそろえた「趣味の会」へ参加したりと、その会員の姿はとてもアクティブだ。ちょうど10周年を迎える現在、累計会員数は180万人に上っている。

 会員区分は年齢によって2層あり、男性50~64歳、女性50~59歳は「ミドル」会員、それを超えると「ジパング」会員となる。年齢区分は国鉄時代から存在する国内JR6社による会員組織「ジパング倶楽部」に準じており、「大人の休日倶楽部」ジパング会員は、「ジパング倶楽部」の全国的な乗車券割引などの特典も受けられる。201km以上の乗車が最大3割引となるため、帰省や出張などの利用も多い。

 ミドルという区分は、大人の休日倶楽部独自の設定だ。これがまさに「発足当時に50代だった団塊世代を捉えるために設けたもの」と、鉄道事業本部営業部課長で、大人の休日グループリーダーを務める清水佳代子氏は語る。単に割引乗車券を販売して終わりではなく、会員の趣味・嗜好(しこう)を把握してツアーを提案したり、会員同士の交流を図ったりすることで、鉄道利用や旅行の需要を喚起している。

ライフステージの変化を捉え One to Oneアプローチ目指す

 会員の定着に寄与しているのが、仲間づくりを目的とした「趣味の会」。継続年数の長い講座群では毎年発表会があり、数百人規模で団体臨時列車を仕立て、旅行を兼ねて楽しまれている。趣味の会への参加者は、会員全体と比較して旅行商品の利用も頻繁でロイヤルティーが高いが、課題は参加者の高齢化だ。そこで新しい講座や単発の講座を増やし、新規の参加を促している。旅行については、一人参加や男性向けにも注力しているという。

 今、団塊世代はジパング会員へ移行し、その下の世代がミドル会員を構成している。彼らのニーズを捉える上で大事なのは、「本人と家族のライフステージの変化」だと清水氏。「退職や子育て、介護の終了などライフスタイルの変化のタイミングや記念日、誕生日などのハレの旅行など、人それぞれ異なる旅のきっかけづくりをお手伝いしたい。今しかできない、ここでしか味わえない、記憶に残るものを提案できればうれしい」という。

 一人ひとりのタイミングに合わせた提案の一環として、例えば毎月郵送している会員誌に添える各種パンフレットは人によって変えており、居住地域別の出し分けも合わせるとその数は数十通り。比較的高額な「カシオペアクルーズ」や夫婦向けの「フルムーン」シリーズなども、消費欲が高まるタイミングでの提案は受け入れられやすい。また、ウェブサイトでは、ログインした後のマイページで個別のレコメンドを始めている。「究極的にはOne to Oneの提案を目指しています」と清水氏。

思い込みを見直し より喜ばれる提案へ

今年10周年を迎えた「大人の休日倶楽部」 今年10周年を迎えた「大人の休日倶楽部」

 年齢は同じでも、変わる嗜好性を踏まえて、前述の会員誌を昨年大きく変更。ミドル会員は比較的若々しく、ジパング会員は年齢相応にといった意識で分けて制作していた会員誌を一冊に統合した。シニア世代のタレントを表紙にしていたのも改め、世間一般に注目を集める旬のタレントやスポーツ選手なども起用。「若い感性をお持ちになる団塊世代に合わせてもいいのではないかと。これまでの思い込みを捨てました」

 一方、対外的なコミュニケーションとして展開しているテレビCMや交通広告は、10年で築き上げたブランドの維持を考えて、会員にも潜在会員層にも絶大な人気を誇る吉永小百合さんのままで。ポスターの撮影場所では、同じポーズで写真を撮るのが人気だそうだ。

2014年6月5日付 朝刊 2014年6月5日付 朝刊

 この世代には、やはり新聞やテレビの影響力が高い。「会員への調査でも、新聞は特にジパング会員の世代でよく読まれ、信頼性があると出ています。詳しい情報を伝えられるメディアとして重視しています」と清水氏。一方で、進むネット利用を踏まえ、昨年10月にフェイスブックの公式アカウントを開設。50代男性から「土日の『趣味の会』を開催してほしい」と書き込みがあるなど、反応は上々だという。

 昔の感覚で「シニア」と決めつけず、年齢を問わず楽しいこと、知らなかったことを知る新鮮さに目を向けていく。加えて清水氏は「この世代の方々は、人生の苦労を乗り越えてきた方々。地元の人とのふれあいや、スタッフの心づくしのおもてなしもとても喜ばれます」とも指摘。情緒的な価値も加味しながら、10周年を機にますます発展させる意向だ。