「牛鍋丼」のおいしさ、安さ、歴史を訴求し、集客アップを実現

 吉野家が9月7日に販売を開始した「牛鍋丼」。同社が掲げるスローガン「うまい、やすい、はやい」の中でも最優先テーマの「うまい」を約束しつつ、マーケットプライスを意識した280円という価格と、創業111周年の歴史にちなんだ商品のストーリー性を訴求。発売1カ月足らずで1,000万食を突破するヒットとなった。企画本部・広報担当部長の吉村康仙氏と、企画本部・宣伝企画担当の清水加奈子氏に聞いた。

「牛鍋丼」を戦略商品に据え、プレゼンスの向上を目指す

吉村康仙氏 吉村康仙氏

──どのようなきっかけで「牛鍋丼」を開発したのでしょうか。

 2008年のリーマンショック以降の不況による経営環境の変化、昨年末から競合各社の価格攻勢を受けたことによる入客数の低下、現況からくるインナーの停滞ムードなど、さまざまな課題が顕在化していたことがありました。さらには、吉野家のブランドイメージが揺らいでいるのではいないかという懸念もありました。これらの課題を解決し、元気のある企業イメージを取り戻すにはどうしたらいいかと考え、てこ入れ策として新商品の開発に着手することになったのです。(吉村氏)

──「牛鍋丼」を戦略商品とした理由は。

 当社は創業以来、「うまい、やすい、はやい」というスローガンを掲げてきましたが、今回はマーケットプライスに合わせ、とりわけ「やすい」ということを追求する必要があったので、まずは価格を280円に設定しました。牛鍋丼に至ったのは、今年創業111周年を迎えたことに関係しています。明治32年、東京・日本橋にあった魚河岸で、牛肉を豆腐や野菜と一緒に煮込んだ牛鍋の具をご飯にかけて食べる「牛鍋ぶっかけ」とと呼ばれる人気の一杯がありました。吉野家の牛丼の起源ともいえるそのうまさを改めて追求したのが「牛鍋丼」です。吉野家のブランドや商品のプレゼンスの向上を目指す戦略商品には、原点といえるこのメニューこそふさわしいということになったのです。(吉村氏)

──商品開発の経緯は。また、開発段階でどのような苦労がありましたか。

 開発開始は4月で、全国導入は9月7日。課題解決を急務としていたため、かつてない短期間での商品化となりました。一方で、一般のお客さまのモニタリング調査など、クオリティーの検証は従来と変わることなく行い、味や食感や原価率を総合した結果、しらたき、豆腐、ねぎなどが入ったレシピとなりました。開発段階で一番苦労したのは、しらたきから出る水分に対し、いかに味を一定にさせるかでした。そのために牛丼とは違うタレを新たに開発し、味の濃さを何度も試行錯誤して完成させたのです。(吉村氏)

清水加奈子氏 清水加奈子氏

──マーケティング戦略について、聞かせてください。

 まず9月2日、記者を本社に招いて試食会を開き、「牛鍋丼」のコンセプトを発表するとともに、おいしさと品質を実感していただきました。おかげさまで多くのメディアで取りあげていただき、9月7日の全国導入への関心が高まりました。さらに発売に合わせてテレビCMと新聞広告を展開し、吉野家の歴史や「牛鍋丼」のルーツを重厚なトーンで打ち出しました。一方、店頭ののぼりや看板はアテンションを優先し、価格訴求をしっかり行いました。また、これまで積極的に取り組んでこなかったソーシャルメディアにも着目し、ブロガーの試食会や、ツイッターでの情報発信も行いました。(清水氏)

驚くべきペースで大ヒットに! 新聞に「御礼広告」を掲載

──発売後、どのような反響がありましたか。

 発売1カ月足らずで1,000万食を突破。10月からは周年記念の第2弾商品として「牛キムチクッパ」の販売を予定していましたが、店頭での混雑などでご迷惑をかけないように11月上旬まで発売を延期することにしました。そこで、「牛鍋丼」の1,000万食達成への感謝と「牛キムチクッパ」の販売延期のおわびを伝えるため、新聞に「御礼広告」を掲載しました。これによって掲載当日の来客数が急伸し、さらにプレゼンスを高めることができたのではないかと思っています。また、ツイッター上でも「牛鍋丼」を歓迎する声が相次ぎました。お客さまからの支持はインナーの士気アップにもつながり、プラスのスパイラル効果を感じています。(清水氏)

──ヒットの要因をどのように分析していますか。

 第1にクオリティー、第2に価格が肝だったと考えています。さらに今回は、これまで比較的個別に動いていた商品開発、広告、広報、店舗などが互いに連携し、さまざまなメディアを活用しながらプレゼンスの再構築にあたったのがよかったと思っています。(清水氏)

──今後の展開について聞かせてください。

 一度提供した商品を出しっ放しにはせず、継続的にブラッシュアップしていくというのが当社の基本スタンスで、それが長年ご支持いただいている理由だと思っています。「牛鍋丼」もしかりで、12月からはもう1品追加の具を乗せられる「追っかけ小鉢」を開始し、11%の比率でご注文いただいています。(吉村氏)

 「牛キムチクッパ」の発売も開始し、11月1~7日の1週間、朝日新聞朝刊のテレビ欄横特殊スペースで告知するなど、当社の声をお客さまに届けるため、新しいコミュニケーションへの挑戦を続けています。(清水氏)

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2010年10月9日付 朝刊 吉野家 2010年10月9日付 朝刊 全5段
2010年11月4日付 朝刊 吉野家 2010年11月4日付 朝刊