コミュニケーションスローガン「明日は変えられる。」を核とした社内コミュニケーション

 2005年4月に山之内製薬と藤沢薬品の合併で誕生したアステラス製薬は、「先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献する」ことを経営理念(存在意義)に掲げている。同社では、社員が自らの仕事を通じ、理念の実現にむけ意識を高めていくための社内コミュニケーションに力を入れている。広報部コミュニケーショングループ課長の芦沢祐子氏に、取り組みを聞いた。

 

新薬を市場に届けるまでは「チームプレー」
社内で意識を共有・連携を図る

アステラス製薬 芦沢祐子氏 アステラス製薬 芦沢祐子氏

――インナーコミュニケーションに対する考えを聞かせてください。

 新薬をつくり、患者さんのもとへ届けるまでには、長い年月と多くのプロセスが必要です。医療用医薬品は、膨大な候補の中から薬になりそうな化合物を見つけ出す「研究」にはじまり、治験を行う「開発」、工場での「生産」を経て、患者さんの待つ医療現場へ届けられます。そして、薬を適正に使用いただくための情報を提供・収集し、医療関係者とともに薬を育てていくのがMR(医薬情報担当者)です。アステラスでは、このような高度な専門性を誇るスペシャリストたちのチームワークによって、新薬をつくり、届け続けています。
社員一人ひとりの仕事の先に、新薬を待つ患者さんがいることを常に忘れず、1日も早く、革新的な新薬を生み出していくための活動が促進されることを目標として、社内コミュニケーションを展開しています。そうした意識のもとに取る社員の行動が、会社のブランド確立につながっていくと考えています。

――具体的な取り組みについて教えてください。

 2007年から、コミュニケーションスローガン「明日は変えられる。」を軸とした社内外への情報発信をスタートしました。この言葉は、患者さんとそのご家族にとっては病気という困難を乗り越えていく勇気の言葉です。そして、アステラス社員一人ひとりにとっては、Unmet Medical Needs(いまだ満たせられていない医療ニーズ)を満たし、本当に求められる新薬づくりに挑戦し続け、病気と闘うすべての人々と勇気・希望を共有する言葉でもあります。1年目の社内コミュニケーションは、このようなスローガンにこめた思いを、社員一人ひとりに伝えていきました。

 2年目の2008年度は、「明日は変えられる。」の浸透段階として、共感してもらえるような情報発信に注力しました。冒頭で触れたとおり、アステラスは研究からMRまでが、それぞれの高い専門性をベースに1つのチームとなって連携しながら新薬を届けています。こうした社員同士の部門を越えた連携を、社内報や社内衛星放送、イントラネット、社内ポスターなどを活用しながら発信していきました。

 そして2009年度は「自分ごと化」の段階と位置づけ、社員が自分の仕事を通じて何ができるかを意識してもらえるようなコミュニケーション展開を工夫しました。具体的な取り組みとしては、昨年2月に、私たちの原点(患者さんのための新薬づくり)を再確認するための社内イベントを開催しました。このイベントはアステラスの創薬研究施設の中で行い、その内容を衛星中継で全国の事業所へライブ放送で届けるというものでした。
第1部は、企業広告に登場いただいた患者さんのご家族の講演で、闘病する家族を支えることの思いや、新薬への期待などを語っていただきました。第2部は、新薬ができるまでの紹介。直近に発売された新薬をテーマに、発売承認を受けるまでの社員の努力や部門間の連携について、研究から開発、技術、信頼性保証、営業までの各担当者に登場してもらって紹介しました。

 さらに、8月には一般生活者向けに実施した「病気が教えてくれたこと。エッセイコンテスト」を、同タイミングで社内でも開催しました。社内エッセイコンテストのテーマは、社員だからこそ感じている薬や患者さんへの思い、仕事を通じて教えられた病気のことなどで、約550通の応募作品が届きました。どの作品も、患者さんや薬に対する社員自身の強い思いが伝わってくるものばかりでした。

 

社員が「生活者」として触れるマス広告で
創薬への思いや提供価値を再認識する

――新聞広告やテレビCMなど、マスメディアを使ったコミュニケーションにも力を入れています。

2007年10月2日付 朝刊 2007年10月2日付 朝刊

 2007年より、「明日は変えられる。」を軸としたコミュニケーションをスタートしていますが、第1回の新聞広告では、このスローガンにこめたアステラスの強い決意を表現しました。赤いバトンと赤ちゃんをビジュアルに使い、赤いバトンを患者さんから託された未来への希望の象徴、赤ちゃんを未来や希望、成長の象徴として登場させました。
翌年からは、社員が登場するシリーズ広告を展開。赤いバトンに託された未来への希望に応えるために、研究者、工場の品質担当者、MRが、それぞれどのような思いでバトンをつないでいるかをメッセージとして伝えました。広告のコピーは、登場した社員本人に、仕事のやりがいや患者さんへの思いなどを取材して作成しました。そのほうが、私たちが「明日は変えられる。」という思いをどのように実践しようとしているか、どれほど強く患者さんの笑顔に貢献したいと思っているかが、ストレートに伝わると考えたためです。

――マスメディアでの広告は、インナーコミュニケーションにどのような効果がありますか。

 社内報やイントラネットも重要なツールですが、マス広告は、それをご覧になった方の感想が社員にフィードバックされます。そのため、広告を通じて発信したメッセージに対する、社員の意識を高める効果があると感じています。テレビCMを見たお子さんから「いい広告だねと」いわれてうれしかったという社員の声を聞くこともあります。

――今後の課題、展望をお聞かせください。

 「明日は変えられる。」というコミュニケーションスローガンを軸とした展開は4年目に入りますが、社内コミュニケーションでは引き続き、患者さんの明日を変えていくために挑戦を続けている具体的な社員の活動を紹介することで、ビジョン達成へ向けた取り組みを加速させていきたいと考えています。

『アステラスグループ報』
『アステラスグループ報』

『アステラスグループ報』でも、赤いバトンをつなぐ社員の写真が表紙を飾っている。