21世紀の言語生活に対応し広辞苑が10年ぶりに改訂

 岩波書店は2008年1月、『広辞苑』の第六版を出版。10年ぶりの改訂で、目標を超える34万部を売り上げた。編集局副部長の田中正明氏にお話をうかがった。

田中正明氏 田中正明氏

── 改訂ポイントは。

 日本語の移り変わりや社会情勢の変化に対応するため、既存項目を見直し、解説の修正やデータの更新を行いました。新収録語は、カタカナ語、経済、情報通信、環境などの分野が増えているのが特徴です。また、『広辞苑』は用例の豊富さで定評がありますが、第六版からは古典作品に加え、夏目漱石や森鷗外など明治期以降の作品も収録の対象としています。当社発行の『ことわざ辞典』『四字熟語辞典』などの経験を反映させているところもポイントです。なお、重量のある机上版は、高齢の読者にも配慮し2分冊にしました。

── 紙の辞書ならではの魅力は。また、圧倒的な部数と人気の理由をどう分析されますか

 紙の辞書は、調べたい言葉以外の情報も目に入り、知識の広がりを楽しむことができます。字数に制限がないネット百科などは、解説が長く散漫になりがちですが、『広辞苑』は1語につき2行半程度と簡潔でわかりやすいのが魅力です。また、言葉が生まれた背景や原義の解説がまずあって、次に派生した意味や新しい用法が続く構成も特徴的で、言葉の本質や多義性を知ることができるという点でも広く支持されています。

── 販売戦略は。

 昨年10月に刊行発表を行い、2カ月かけて事前予約を募りました。読者対象は買い替え客が多い実績をふまえ、小社出版物の愛読者及び団塊世代から上の年代にターゲットを想定し、当社の雑誌『図書』と読者層が重なる新聞で広告を展開しました。また、お子さんを持つ30~40代からの予約も多く、この動きを見て予約数を増やす書店さんもありました。

 ── 各方面の反響は。

 3月末の段階で読者カードが約1万通返信され「待ってました」との声を多数いただきました。また、「新聞で発売を知った」との回答が多く、広告戦略が奏功したことも確認できました。低迷している出版業界にあって関係者からも「出版界の牽引(けんいん)役になって」とご声援をいただきました。

 ── 今後の抱負は。

 発売翌日から次の版の準備にかかるというのが『広辞苑』編集部の伝統です。第六版に寄せられた読者の要望に真摯(しんし)に耳を傾け、次回に反映していくつもりです。

1/11 朝刊
『広辞苑第六版』 普通版、机上版と DVD-ROM版