トップブランドゆえの大胆な挑戦 一人の夢をみんなでかなえる「のどごし 夢のドリーム」キャンペーン

 「新ジャンル(第3のビール)」として、8年連続トップシェア(課税数量)を誇るキリンビールの「のどごし<生>」。今年1月から新聞広告、テレビCM、ウェブサイトなどを通じてコミュニケーションを展開する「のどごし 夢のドリーム」キャンペーンがスタートした。第1弾では、「プロレスラーになって長州力と対戦したい!」という30代男性の夢を実現。この3月からは第2弾、「もう一度バンドを組んでステージで演奏したい!」という40代女性の夢をかなえるバージョンが展開中。キリンビール マーケティング部長の林田昌也氏と、キャンペーンを担当している電通第3クリエーティブ局アート・ディレクターの正親 篤(おおぎあつし)氏に、この企画が生まれた背景や、制作エピソードなどについて聞いた。

トップブランドとして新機軸を開拓 ポイントは双方向性と共有感

林田昌也氏(左)、正親 篤氏 林田昌也氏(左)、正親 篤氏

林田氏 のどごし<生>は、2005年に発売を開始して以来、“グッさん”こと、山口智充さんをイメージキャラクターに起用しています。この3月も商品がリニューアルされ、よりおいしくなったことを、ブランドのいわばセールスマンとして山口さんが伝えていきます。この“グッさんバージョン”と並行して、「のどごし 夢のドリーム」キャンペーンを、今年1月から開始しました。最初の宣言として打ち出したのが、1月6日付朝日新聞朝刊の全30段広告です。

 おかげさまでのどごし<生>は、発売から9年目に入る今も、最も売れている新ジャンルの地位を保っています。ただ、競合商品が次々と生まれ、新成人をはじめとする新しい飲酒層も加わる中で特徴が埋没しないような施策が重要だと考えました。ブランドイメージがいつまでも古びないために、「のどごし<生>は、昨日も今日も明日もいいよね」と言っていただくために、これまでとは違ったお客様との接点を探りたかったのです。
  ポイントは「一方的なメッセージにならない」ということでした。ソーシャルメディアなどを介した双方向の盛り上がりが今の時代は大事です。「新ジャンルの商品にできるのは、のどを潤すことだけではない。一日を精いっぱい過ごしたあとに飲んだとき、ある種の達成感や幸福感も一緒に味わっていただきたい。そして、その気持ちは多くの人と共有できる。その共有感を、キリンビールとして、のどごし<生>として、皆さんと一緒に楽しんでいきたい」。電通さんに依頼する際にこんなこともお話しました。
  担当クリエーターを指名したわけではありませんが、「九州新幹線開業キャンペーン」で、「みんなで一緒に楽しむ企画」を成功させた正親さんの名前は、頭の片隅にはありました。

正親氏 企画の趣旨をうかがった時、大変な仕事になると思いました。世の中の人と一緒に何かを楽しみながら、商品を売らなければならないのだと。広告ですから当たり前のことかもしれませんが、「九州新幹線開業キャンペーン」のとき以上に、「売り」を意識する必要がありました。「面白くて売れる何か」を発明しなければなりません。成果にたどりつくまでに、この先も何段階か必要だと思っています。キリンビールがすごいのは、僕たち制作チームを信じてくださり、林田さんが「第1弾、第2弾、第3弾と続けていきましょう」と言ってくださる。これは大きなことです。

2013年1月6日付 朝刊 全30段

2013年1月6日付 朝刊 全30段

  企画のきっかけは、当社の営業担当者の「のどごし<生>を飲んでいる人って、みんないい人なんですよ」という一言でした。グループインタビューなどで出会う “キリンファン”や“のどごし<生>ファン”が、そろって感じがいい人が多いと言うのです。どうしてかなと思い、「のどごし<生>が売れている理由を詳しく調べてほしい」と頼みました。すると、「安価においしく楽しく酔えることを提供している商品で、一般生活者にとってそれがとてもプラスに作用している」という内容が上がってきました。これを聞いて、「気軽に楽しく酔う」ことを通して多くの人に幸せになってほしいと願うキリンビールの心意気と、のどごし<生>という商品を心から支持している“いい人たち”をつなぎ、肯定するような企画にしようと思いました。

林田氏 お客様が「いい人」というのは、本当にそうだと思います。しんどいことがあっても一生懸命に働き、「子どもに自慢できる一日だった」と誇れるような方。その一日の終わりにのどごし<生>をプシュッと開けて、「明日もがんばろう」と前向きに生きていらっしゃる方に、ご支持いただいています。

正親氏 「あなたの夢をみんなでかなえる。」というキャッチフレーズに象徴されるように、企画の核は、みんなで一つのことを楽しむことにありました。ヒントは、4年前に担当したマクドナルドさんの「クオーターパウンダー」のプロモーションです。「海外で話題のバーガーブランド」と、架空の日本上陸宣言をして仮店舗をつくったところ、うわさを聞きつけた人が2,000人くらい並んでくれたんです。僕は行列に並ばない方なんですが、当時の上司が「並ぶことを遊びとして楽しんでいるんだよ」と教えてくれました。日常の何げないことを、いかに面白がれるか、面白くするか。「あなたの夢をみんなでかなえる。」企画で、それをやってみたいと考えました。
  このアイデアを、僕は絵コンテで提出したんです。絵コンテだけを見てゴーサインを出してくださったことに、改めてキリンビールのすごさを感じました。ここまで信用して委ねてくださっている林田さんを絶対に裏切れないと思いました(笑)。

林田氏 企画の概要を最初に聞いたとき、「面白い」という気持ちと、「どうやって社内を説得しようか」という気持ちがせめぎ合いました(笑)。テレビCMに通常の15秒や30秒ではなく180秒のバージョンも必要という話でしたし、予算も余分にかかる。ただ、正親さんが提示してくれた内容には、こちらから依頼した要望にすべて答えてありました。今までと全く違う切り口で、お客様と共有型のキャンペーンでもある。トップブランドであり続けるために大胆な挑戦をすべきだ、と判断してゴーサインを出しました。

ブランドと顧客との楽しい絆をどう描くか

林田昌也氏 林田昌也氏

正親氏 第1弾は、「夢」を決めるまでがいちばん大変でした。まず、「普通の人々が持つ夢」を探すため、ウェブの調査網を活用しました。対象は3万5千人。映像化したら面白そうな夢を持った人を30人程度にしぼり、インタビューに応じてくれた方は十数人。この中に、「プロレスラーになって長州力と対戦したい。」という夢を持った寺島力さんがいました。第1弾に登場していただいた方です。20歳くらいまで本気でプロレスラーになりたいと思っていた方で、奥さんも協力的で、お話を聞けば聞くほど、「この人しかいない」と思いました。
  僕はあまりプロレスには詳しくなかったのですが、当社内からは「長州力さんに出ていただいたら、すごいことだよ」「撮影なら、いいタイミングで全日本プロレスのファン感謝デーがあるよ」などという情報も入ってきました。全日本プロレスに打診したところ、非常に協力的で、「ファン感謝デー」での撮影をOKしてくださいました。
  振り返ると、寺島さんも全日本プロレスの方々もいい人ばかりで、長州力さんもすばらしい方でした。無理なお願いが多かったと思いますが、いろいろと心を配ってくださり、制作班一同、感謝の連続でした。

林田氏 長州さんと酒席を囲んだそうですね(笑)。

正親氏 はい。長州さんの周囲では、お酒を飲むことを「馬力をつける」と言うそうですが(笑)、撮影前に制作にかける思いを聞いていただきました。そうした心の交流も、少なからず本番の成功につながったのではないかと思っています。
  ちなみに、寺島さんが本番に備えて練習する風景は、当初はCM映像に入れるつもりはありませんでした。「楽しく酔える」イメージが大切で、努力や感動を打ち出す必要性を感じていなかったのです。ただ、プロセスは撮っておきたいと思い、寺島さんに密着するメイキングの演出家をつけました。
  また、本番撮影にあたって林田さんに感謝していることがあるんです。「飲むシーンを映してほしい」「商品の中身を見せてほしい」といった注文を一切されませんでした。意外であると同時に、企画への理解の深さを感じました。

林田氏 その姿勢は、今回に限ったことではありません。飲んでいるシーンをただ見せて、「ああ、おいしい!」というだけでは、それこそ一方通行の広告になってしまいます。商品がどう見えるかではなく、ブランドと飲む人との楽しい絆をどう描くかに重点を置くべきだと考えていました。結果的に第1弾の反響はとても大きく、正親さんは狙っていなかったかもしれませんが、「感動した」「泣けた」という声もたくさん届きました。その勢いを引き継ぎ、第2弾を3月1日から開始しました。
  第1弾と同様、「応援したくなる方」をいかに探すかが、このキャンペーンのカギとなると思っていました。また、いろいろな方との双方向コミュニケーションを実現するため、今度は女性の「夢追い人」がいいと考えました。

正親 篤氏 正親 篤氏

正親氏 何もかもがうまくハマった第1弾の奇跡が再度起こるかと内心ハラハラしていましたが、「もう一度バンドを組んでステージで演奏したい!」という夢を持つ延真知子(のぶまちこ)さんを発見して、ほっとしました。THE ALFEEという強力な助っ人を得られたのも幸いでした。
  夢をかなえるライブは、中野サンプラザで開催しました。「MACHIKO BAND WITH THE ALFEE」というポスターもつくり、延さんとバンド仲間がライブ会場にピンクのバスで乗り付けるなど、第1弾にない趣向も用意しました。

林田氏 キャンペーンはまだスタートしたばかり。第1弾は成功裏に終わり、第2弾は、前回を見ている方が多いと思うので、さらに「応援の輪」が広がっていくのではないかと期待しています。第3弾、第4弾と次々打ち出していく予定なので、ぜひ楽しみにしていただきたいですね。

第2弾の夢――
「もう一度バンドを組んでステージで演奏したい!」

※画像は拡大します。

延真知子さんの演奏シーン

延真知子さんの演奏シーン

  3月からスタートした「のどごし 夢のドリーム」第2弾の主役は、学生時代にガールズバンドを組んでいた会社員の延真知子さん。延さんが再結成を呼びかけ集まった仲間1人とともに、「THE ALFEE」と一日限りの夢のスペシャルバンドを結成。中野サンプラザに集まる約2,000人の観客の前で、『星空のディスタンス』を演奏し収録した。

  仕事や家事の合間にドラムの練習を重ねてきた延さん。ライブ収録の前にその努力の軌跡が舞台上のスクリーンに映し出され、「THE ALFEE」のファンやウェブ応募で集まった観客のボルテージは一気に上昇。「MACHIKO BAND WITH THE ALFEE」をスタンディングオベーションと大声援で迎え、延さんとともに夢のスペシャルライブに酔いしれた。

  演奏後の記者会見で、「夢のよう。幸せな時間でした」と、延さん。学生時代にあこがれた「THE ALFEE」をバックバンドに従えたことについては、「まさか共演できるなんて。演奏中、メンバーの3人が何度も振り返って、目で励まして下さったおかげで安心して演奏できました」と興奮覚めやらない様子。これに対して「THE ALFEE」の高見沢俊彦さんは、「夢の実現をお手伝いできてうれしい。バックバンドをやっていた時代を懐かしく思い出した。THE ALFEEは結成40周年を迎えたが、原点に戻って春からのツアーに臨める。貴重な時間をいただいた」とコメント。桜井賢さんと坂崎幸之助さんも延さんに温かい拍手を送った。

キリンビールの専用サイトでは、第1弾と第2弾のCMフルバージョンやメイキング映像が視聴できるほか、タレントの椿鬼奴さん扮する棘有夢香(とげありゆめか)さんが「スナック夢狩人」にて新たな「夢」を募集する動画コンテンツも充実している。