ダイバーシティ&インクルージョン経営と社員、双方向で取り組む

outline
野村グループの社員数は、約2万9千人。その約半数が外国人で、国籍は70カ国以上。世界30カ国に拠点があるグローバル企業として、ダイバーシティ&インクルージョンを推進しています。多様性を認め合うことはビジネスに有利に働くという意識を、経営側と社員側が共有し、そのための取り組みを双方向で進めています。

人材が一気にグローバル化 多様性を尊重する考え方が浸透

池田 肇氏 池田 肇氏

 野村グループは、「ダイバーシティ&インクルージョン」を推進している。積極的に取り組むようになったのは、2008年にリーマン・ブラザーズの欧州とアジアのビジネスを承継したことがきっかけだ。現在、社員数は、約2万9千人。その約半数が外国人で、国籍は70カ国以上にも及ぶ。「人材が一気にグローバル化したことで、多様性を尊重するダイバーシティ&インクルージョンの必要性が自然と高まりました。国籍や宗教の違いを認め合い、協力し合うことはビジネスを円滑に進める上でも必要不可欠だと考えています」。こう話すのは、野村ホールディングス執行役員(グループ広報・CSR担当兼東京2020オリンピック・パラリンピック推進担当)の池田 肇氏。野村證券とリーマン・ブラザーズ、それぞれの強みを生かして融合するために、まずは違いを認め合うことから始める必要があったという。

 目指しているのは、性別や国籍、年齢、性的指向など多様なバックグラウンドの違いに関わりなく、相互に価値観を尊重し、協働できる社内風土の醸成だという。「ダイバーシティがなぜ必要かと言えば、よりよい社会にしたいからです。それは、多様な価値観を認め合える社会だと考えています。多様な価値観を認め合うカルチャーが醸成されれば、社員のやる気も高まり、パフォーマンスも上がる。要するに、ダイバーシティ&インクルージョンを推進することは、会社の利益につながるのです」(池田氏)

 制度の整備も進んでいる。倫理規程の「人種の尊重」という項目に、「性的指向」と「性同一性」も追加。人材開発部が中心となり、ダイバーシティ&インクルージョン研修も実施し、パートナーを配偶者として認めるパートナーシップ制度の整備など、福利厚生も見直している。

 2016年4月には女性、シニア、外国籍社員など、多様な社員の活躍推進を審議する機関として、野村グループ・ダイバーシティ&インクルージョン推進委員会を新設。

 「障がい者支援の一環として、パラリンピックの正式種目である『シッティングバレーボール』の普及を推進する日本パラバレーボール協会をスペシャルパートナーとして支援しています。グループ会社の野村證券に、既にシッティングバレーボール日本代表選手が勤務しており、今後も国内大会への協賛などを行っていく予定です」と、池田氏。

2016年8月25日付 朝刊1.39MB

社員が自主的にボランティアで活動する三つのネットワーク

 野村ホールディングスのダイバーシティ&インクルージョンの取り組みは、もともと社員が自主的に始めたことだという。リーマン・ブラザーズのビジネスの承継と同時に、ダイバーシティ&インクルージョンのコンセプトと、社員がボランティアベースで運営する社員ネットワークも引き継がれ、それが現在も継続している。

 社員ネットワークは、カウンシル(運営委員)と呼ばれている向上心の高い社員たちが業務時間外に、自主的にネットワーク活動に参加して運営を行っている。活動のテーマは、健康や育児、介護をテーマにした「ライフ&ファミリー」、文化や障がい、LGBTアライをテーマにした「マルチカルチャー・バリュー」、女性の活躍やキャリアをテーマにした「ウーマン・イン・ノムラ」の三つ。

 社員は興味のあるネットワークのメーリングリストに登録すると、イベントやニュースレターが届く。現在は各テーマに2人の役員がエグゼクティブスポンサーとして支援し、ネットワークのリーダー経験者がアンバサダーとして協力。経営側と社員側、双方向で取り組んでいるのが特徴だ。

 ネットワークごとに講演会を開催したり、社内外の交流の場を提供したり、積極的に活動している。例えば、マルチカルチャー・バリューでは、2016年12月に「障がいについて知ることからはじめよう。“まぜこぜ”の社会に向けてアライができること」というイベントを開催した。アライとは、英語の「Ally(同盟、支援者)」が語源で、LGBTをはじめとする性的マイノリティを理解し、自分にできることは何かを考えて行動する支援者のこと。マルチカルチャー・バリューでは、社内でアライを増やすために、自らが「アライ」であることを宣言する取り組みも行っている。アライのステッカーを作り、共感する人たちに配り、デスクや電話に貼ってアピールするという方法だ。

 「多様性の原点は、いろいろな人たちと話して気づきを得ること。それが結果として共生社会へとつながっていくのです。LGBTやアライについてもマルチカルチャー・バリューの取り組みが奏功し、社内では当たり前のこととして受け入れられるようになりつつあります」(池田氏)

 シニアに向けた新たな取り組みもある。慶應義塾大学と野村ホールディングスは、「長寿・加齢が経済及び金融行動に与える影響(ファイナンシャル・ジェロントロジー)に関する研究」プロジェクトを立ちあげた。4月には書籍も発行する予定だという。

 「金融機関として高齢者の金融資産を管理・運用していく上で、どのように提案すべきか、慶應義塾大学とともに研究しています。高齢者へのサポートは金融業界が抱えている課題の一つ。共生社会を目指しているからこそ、積極的に取り組んでいきたい」と締めくくった。