「甲子園」初出場の女子高校野球に紙面でエール
女性がさらに活躍する社会へ 女子大学の姿勢を広く発信

 第25回全国高校女子硬式野球選手権大会が初めて阪神甲子園球場で開かれた今年8月。
 球場の至近にある武庫川女子大学(兵庫県西宮市)は、女子高校野球の選手たちにエールを送る全5段広告を編集記事と連動する形で掲載しました。「夏の甲子園」という大舞台に女子が初めて立つ機会を、女性活躍をめざす社会の一つの契機ととらえ、「一生を描ききる女性力を。」をビジョンに、女性の可能性と挑戦を応援する女子総合大学としての姿勢を広く発信しました。
 この企画の狙いや反響、新聞広告の意義について、武庫川女子大学広報室長の米田浩子氏にお話を伺いました。

全国トップの規模
「大舞台」に一番近い大学として

 「あなたたちは、どんな歴史を見せてくれるんだろう。」――
 阪神甲子園球場で史上初となる高校女子硬式野球の決勝が2日後に迫った8月21日、全国の朝日新聞朝刊に、武庫川女子大学の全5段カラー広告が、女子選手たちの背中を押す力強い言葉とともに紙面を飾った。広告の上段には「甲子園でいざ、頂上決戦」の見出しとともに、女子高校野球の決勝の見どころを伝える特集記事。100年以上にわたって時間を重ねてきた高校野球の聖地「甲子園」で、女性として新しい扉を開く選手たちにエールを送るものとなった。

mukogawa_womensuniv01 武庫川女子大学 米田浩子氏

 学校法人武庫川学院は教育者・公江喜市郎氏によって1939(昭和14)年に創設され、前身となる武庫川高等女学校が生まれた。1949(昭和24)年には武庫川女子大学が開学。保育園、幼稚園、中学校、高校、短期大学、大学院を有する女子総合学園に発展してきた。今では、文学、教育、健康・スポーツ科学、生活環境、食物栄養科学、建築、音楽、薬学、看護、経営の計10学部に17学科を備え、学生数は大学と短期大学部を合わせて約1万人と、全国の女子大学でトップの規模を誇る。
 武庫川女子大学は阪神甲子園球場の最も近くに位置する大学だ。最寄りの阪神電車「鳴尾・武庫川女子大前」駅は、「甲子園」駅の東隣り。大学から球場へは徒歩でも約15分と極めて至近にある。
 米田氏は「私たちにとって、甲子園球場も高校野球も常に身近な存在です。その大舞台で今年は女子がプレーすると聞いて、女性活躍を目指す当大学としても関心を寄せずにはいられませんでした。かつては、女子マネジャーのベンチ入りさえ難しかった場所で試合ができることは、女性活躍が『見える化』されるという点でも、とても意義深いことです。女子選手たちを応援すると同時に、社会にメッセージを発信できないかと考えました」と、広告を掲載した動機を振り返る。

青空と土 高校野球にこだわり
価値観の転換に強い手応え

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2021年8月21日付 朝刊1.3MB

 「女子だから」とあきらめた。「女子なのに」と驚かれた。「女子だって」できるとみんなが気づいた、特別な夏――。女子高校野球の記事に合わせて掲載した全5段広告には、冒頭で紹介したコピーの他にも、女性活躍に対する同大学の強い思いを投影したメッセージが掲載された。メッセージの原稿は米田氏をはじめ、広報室のメンバーで練り上げたもの。ビジュアルには夏の甲子園のシンボルでもある青空と“土”の写真を使い、憧れの“甲子園の土”が遠かった女子野球のこれまでの道のりの重みと、未来への希望を表現した。広告の中央で、笑顔でバットを構えるのは、武庫川女子大学情報メディア学科の1年生。講堂の屋上で撮影し、制服風の衣装に身を包むなど、高校生と高校野球のイメージに徹底的にこだわった。

 また、決勝の模様を放送するABCテレビの番組にも協賛。「MUKOJO ACTION」(action編・vision編)のCMを番組内で流した。また、試合の無料ライブ中継がスマホやパソコンで見られる「バーチャル高校野球」でも武庫川女子大学のCMを放映。生中継を予定していたABCテレビの番組は雨天順延の影響で試合開始時間が遅くなり、中継録画での放送となったものの、高校野球ファンに向けて大学の心意気を強く印象付けた。

  決勝をテレビで見た米田氏は、「真剣でありつつも、明るく楽しそうにプレーしていて素晴らしかった。女子が甲子園のグラウンドを駆け回る姿に違和感はなく、私たちの固定観念は簡単に変えられることを教えてくれたと思います。新型コロナで暗い話題が多い中、女性が活躍する社会は、すべての人を幸せにすることを改めて感じさせてくれました」と称賛する。全5段広告には、「言葉にドキッとさせられた」「皆が心の中にあるものを代弁してくれた」などの声が多数寄せられたと言い、「甲子園に一番近く、女性を応援する大学としての存在感と価値観を打ち出せたのではないでしょうか」と手応えを話す。

創立100周年へビジョン策定
女子大学の存在意義を更新する

 武庫川女子大学は創立80周年を迎えた2019年、創立100周年を見据え、大学をさらに飛躍させるプロジェクト「MUKOJO ACTION 2019-2039」をスタートした。女性の活躍が望まれる時代を迎えた今、個性輝く女性を社会に送り出すことが女子総合大学の使命ととらえ、自らの意志と行動力で可能性を広げ、生涯を切り拓(ひら)いていく女性力を育む教育に挑戦することを宣言。その中心に据えるMUKOJO Visionに「一生を描ききる女性力を。」との言葉を掲げた。ビジョンの実現に向けて、ミッションやアクションプロジェクトの具体化に取り組む一方、広告や広報などのコミュニケーション活動では「目力のある女性」や「伸び伸びと活動する女性」など、洗練されつつもインパクトのある女性の表情や動作を象徴的に使い、イメージの統一を図っている。

mukogawa_campusguide_2022 【画像】キャンパスガイド2022画像

  米田氏はビジョンと広報活動の関連について、「女子大学は『お嬢さま』が通うところと今でも思っている方がいらっしゃるかもしれません。実際の女子大学は、高度な教育・研究を有し、企業や他大学から連携のパートナーに期待される、優れてユニークな存在です。そんな女子大学のイメージを、もう一段上に、更新していきたいと考えています」と強調する。男女共同参画社会やジェンダーギャップの解消が久しく言われながらも、知らず知らずの間に旧来の価値観が再生産されていくことが多い日本社会。社会の複雑な課題を洞察し、時代をリードする気概を持つ女性を育てるには、女性だけという環境を生かし、なりふり構わず学業や研究に没頭できる女子大学の存在意義が、今後もますます大きくなっていくとの考えが背景にある。
 武庫川女子大学が力を注ぐのは、幅広い教養と豊かな人間性を育み、主体性・論理性・実行力を備えた人材の育成だ。一人ひとりが自らの意思で生涯を切り拓く力を得た時、個性が社会を動かす原動力となることをめざす。米田氏は「当大学には10学部17学科のとても幅の広い学びがあります。自由で開かれた雰囲気の中、約1万人の学生の取り組みと学科の学びが相互に作用し、いろんな考えが混ざり合って、多様な力と個性が花開いていく。自分自身のポテンシャルに気づき、社会に出てからの軸を持つためにも、女性たちが自らを高め合う場としての女子大学の役割はさらに高まっていくと信じています」と力を込める。

社会や地域から信頼される大学に
大きなストーリーを共有する

  米田氏は、今後も社会や地域から大学が信頼される存在であるように活動を続けたいと明かす。その上で、新聞メディアが持つ信頼性に期待を寄せる。「情報発信ツールは多様化していますが、新聞の信頼感は依然として全メディアの中で優位にあります。今回は女子高校野球の記事と同じページに広告を掲載しました。記事と連動して読んでいただくことで、私たちのメッセージをより深く社会に発信できます。紙は長く形として残るので、資料としての価値も高いと感じます」と米田氏。朝日新聞がジェンダー問題に早くから取り組み、国際女性デーに関連した企画も長年実施してきた点もあげ、「女性が転換点に立ったときに、話題の取っ掛かりを提供するには最適な媒体の一つだと思います」と評価する。

mukogawa_womensuniv02 武庫川女子大学 広報室のみなさん

  大学広報は年度ごとの短期的な入試広報と並行して、大学のブランディングを図るためにも長期的な視点からの展開が重要だとも指摘する。米田氏は「大学広報と言えば、まずは高校生や保護者の皆様が思い浮かびますが、就職や連携活動でお世話になる企業や自治体、学生を見守ってくださる地域の方、メディア、卒業生まで幅広い方々と直接・間接問わずコミュニケーションを取っています」と話す。「誰に何を知らせるのかを明確にし、SNS、WEB、動画、CM、新聞、紙媒体などを的確に使い分けながら、それぞれのメッセージがひとつの大きなストーリーでつながっていくように、これからも学内全体でビジョンを共有しながら、積極的に社会や地域に情報発信していきたい」と結んだ。