接するメディアで消費者の態度は変わる クリエイターはもっと意識を

 「あしたのもと AJINOMOTO」などの企業スローガンをはじめ、1970年代から一貫して広告クリエイティブに携わっている島崎紘而氏。日本アドバタイザーズ協会のクリエイティブ委員長も務めている同氏に、昨今の広告クリエイティブの変化について話を聞いた。

「ワンビジュアル ワンメッセージ」 ターゲットを明確に

島崎紘而氏 島崎紘而氏

――昨今のクリエイティブを見て感じる変化を教えてください。

 「ワンビジュアル ワンメッセージ」で伝わる広告が減ったように感じます。以前は、「ワンビジュアル ワンメッセージ」が重視される、新聞広告をまず作り、そこからテレビCMを制作していました。今は、それほどメッセージの強い広告がなかなか見られません。最近の、味の素のCMでいえば、「クノール カップスープ」の「つけパン ひたパン」のような広告を常に作ることができたらと思っています。

 食品関連のテレビCMでは、消費者の感じる「シズル感」が変わったように思います。以前は、料理そのものの画(え)が美しく、主婦が「なんてすごい料理だろう!」と感嘆するほど手の込んだ料理や家庭ではなかなかできないシズルを見せることが喜ばれました。しかし今では、手の込んだ料理ではなく、「これなら、すぐにつくれそう!」と思えるメニューや映像を見せることが、購買を促すために必要となります。それに加えて、ドラマ仕立てで、商品とタレントが結びつくテレビCMが増えましたね。

――今の消費者に響くのは、どのようなメッセージだと思いますか。

 ターゲットを絞り込んだメッセージです。「誰」に対して言っているのか、はっきりしている広告が消費者に響いていると思います。

 例えば、「キャベツ、ピーマン、豚バラ肉」という材料で、「食べ盛りの中高生がいる家庭」がターゲットである「Cook Do」の中華シリーズの場合、ガツガツ食べている映像で訴求し、スタミナと本格感のある回鍋肉(ホイコーロー)を提案します。一方、同じ「Cook Do」でも、「香味ペースト」で作れるのは、旨みのある野菜炒めです。この場合のターゲットは、「夕方5時ごろパートから帰ってきて、息子の夕飯を慌ただしく作る忙しいお母さん」。いずれのテレビCMも、ターゲット通りのキャスティングと訴求で、売り上げを大きく伸ばしています。

良くも悪くも 反応がある広告は効果があるクリエイティブ

――今後、企業は消費者とどのようなコミュニケーションを行うべきですか。

味の素KK テレビCM
Cook Do「回鍋肉最後のひと切れ」編

 これからは、コミュニケーション全体をデザインするクリエイティブが重要になります。そもそも「なぜ広告をするのか」を考えると、「売る」ためか「好かれる」ためですね。広告すれば言いたいことが「伝わる」というのは過信です。なんの反応もない広告よりも、良い、悪い、どちらでもいいから反応があったほうがいい。なぜなら「目立つ」ためにアイデアやクリエイティビティを求められているからです。目立たない広告はコミュニケーションにつながりにくいですね。

 振り返ってみると、味の素ではこれまで40年近く、「『食』と『おいしさ』をデザイン」するコミュニケーションを展開してきました。

 「食」のデザインとは、「生きる」「身体をつくる」「家族をつなぐ」など、「食の価値」を伝えること。主に企業コミュニケーションが中心です。一方、「おいしさ」のデザインとは、主に商品広告のことで、一日三食、おいしい料理が身近に作れるという商品の存在感を伝えること。メニューや食べ方を提案したり、食欲がわくような訴求をしたりするなど、商品の価値をお客様にきちんと伝えることが求められます。

2014年3月15日付 朝刊 全15段 2014年3月15日付 朝刊 全15段

――新聞やテレビなど、伝統的なメディアの魅力はどこにあるでしょうか。

 実は、私は新聞広告がとても好きなんです。なぜなら、メディアのなかでもっとも社会性があり、世間から信頼を得ているからです。
  クリエイターは、伝統的なメディアに接する消費者の「態度・姿勢」をもっと意識すべきです。例えばテレビを見る時、人はリラックスした状態で楽しもうと思っています。一方、新聞を開く時は、理性的で、積極的に情報が欲しいという状態で接しています。リラックスしている時に伝わる広告と、積極的に情報が欲しい時に伝わる広告は違うはずです。メディアによって見る側の態度と姿勢が違うなら、それに応じてクリエイティブも、もっと練らなければならないはずです。この期待値に応えるやり方が、コミュニケーション全体をデザインするということだと思います。

 最近、テレビCMのワンシーンを切り取っただけの新聞広告が増えました。しかし、メディアによって見る側の態度と姿勢が違うなら、それに応じてクリエイティブも、もっと練らなければならないはずです。

――今、注目しているテクノロジーはありますか。

 新聞とも親和性が高いAR(拡張現実)には可能性がありそうです。今すぐにでも取り組みたいですね。ARによって、例えば、料理の写真を使った新聞広告にスマートフォンをかざすと、作り方の動画が再生されるなど、新しい試みができるようになります。

 ただ、私は、スマートフォンやタブレットを見ているユーザーが、どのような「態度・姿勢」なのか、まだ図りかねています。ユーザーは、通勤、通学、何かの待ち時間などに見ていることが多いですよね。その時ユーザーは楽しみたいのか、真面目なのか、あるいはもっと違う気持ちなのか。それを知ることによって、今後スマートデバイスを活用した広告は進化していくのではないでしょうか。

島崎紘而(しまざき・こうじ)

味の素 理事

1977年武蔵野美術大学・商業デザイン学科卒業後、味の素入社。広告部でパッケージデザインから雑誌、新聞、テレビCMと全商品のクリエイティブディレクションを担当。95年、2004年にはカルピスの広告部へも出向。味の素の「あしたのもと AJINOMOTO」、カルピスの「カラダにピース CALPIS」などの企業スローガンを開発。日本パッケージデザイン協会理事、日本アドバタイザーズ協会でクリエイティブ委員長なども務める。