ボトムアップの精神で各方面と結びメディア発でムーブメントを起こす

 京都議定書の発行を受け、2005年4月より始動した「チーム・マイナス6%」。CO2などの温室効果ガス排出量を2008年から12年にかけて、1990年に比べ6%削減することを目指した国民的プロジェクトだ。始動から博報堂が受託し、メディアコンテンツを担当している博報堂DYメディアパートナーズの取り組みの進捗(しんちょく)状況や今後の展望について、メディアビジネスプロデュース局 環境コミュニケーショングループ グループマネージャーの川廷昌弘氏にうかがった。

啓発活動を通じてネットワークが充実

川廷昌弘氏 川廷昌弘氏

――これまでの活動の成果は。

 2005年より3年間を啓発期間とし、

(1)危機意識の自分事化(地球温暖化の現状を把握してもらう)
(2)CO2削減のための具体的なアクションを促す(エアコンの温度調節、エコドライブなど6つの削減行動を提示)
(3)環境行動の可視化(削減行動をエネルギー換算し明確に伝える)

 という3つの戦略を柱にコミュニケーションしてきました。活動を通じて積み重ねてきた資産は、メディアや得意先とのパートナーシップによって築き上げてきたものです。ネットワークの広がりは当初の予想以上で、昨年アル・ゴア氏がIPCC(気候変動に関する政府間パネル)とともにノーベル平和賞を受賞したことも、契機になったと感じています。

――印象的な賛同者の活動は。

 昨年の夏、メガバンクの3頭取がそろって都内の打ち水イベントにノーネクタイで参加して、温暖化防止に協力する「クールビズ・バンク」を宣言しました。これで特に地方への推進に弾みがつきました。流通の現場では家電量販店が環境技術を積極的にアピールしたり、スーパー・コンビニではレジ袋の削減アクションがとても目に付くようになってきています。最近の動きとしては、NPOやNGOの方々と会う機会が増えてきました。彼らのネットワーク、行動力、知見はとても貴重で、企業・メディアと一体となった連携は欠かせないと考えていましたので、とてもありがたい流れです。

―― 環境行動を加速させるために何が必要だと考えますか。

 急がば回れで地に足のついた行動が大切だと思います。トップダウンではなくボトムアップ、メディアの方々であれば情報発信できる地球市民として、未来の子どもたちのために何ができるかを考え、セクショナリズムを越えて連携を図っていくことが重要だと考えます。例えば新聞社であれば、編集局と広告局が情報を共有して、環境コミュニケーションのあり方について柔軟な対応が求められていると思います。

削減行動につながる企画を繰り出す

―― 新聞広告を活用してどのような展開を試みていますか。

 新聞広告は、意気込みを「宣言するメディア」。活字で「本気度」を伝えることで、人々を巻き込む渦が大きく成長していくと考えています。省エネ製品への買いかえを呼びかけた昨年11月の広告にもそうした意味合いがありました。

 12月には、日本郵便と協力し、朝日新聞掲載の報道写真を刷った「カーボンオフセット年賀はがき」を作成。10,000名のプレゼント告知を新聞広告で行い、3日間で22,000件を超える応募を集めました。

 今年3月は、「チーム・マイナス6%」主催で子どもたちから「温暖化防止」をテーマとするリポートを募集。朝日新聞社の地球環境プロジェクトリーダー・荻野博司氏らが審査を担当し、受賞者を広告特集で発表。さらに受賞者を沖縄に招き、同紙記者による環境教室を実施しました。編集局と広告局が一体となった画期的な企画で、こうした取り組みは新聞メディアの強みになっていくと思います。

―― 4月1日、京都議定書の約束期間に突入しました。今後は。

 「啓発の3年間」の次は「実行の5年間」です。実施すればするほどCO2が削減されていくような企画を繰り出していきます。例えば、日本野球機構と取り組む「グリーン・ベースボール・プロジェクト」。その第一歩はスリリングな試合運びとエネルギー削減を目指した「試合時間マイナス6%」。今シーズンからルールを変えて監督、選手の全員が行動しています。スポーツの中でも最も影響力の大きい野球界が動くことで、多くの市民の削減行動を呼び起こすことが狙いです。またNPO・NGOの方々が推進する「グリーンウィーク」キャンペーンも連携していきます。これはゴールデンウイークの呼び方を変えるだけでなく、「わたしの休日をカーボンオフ」というメッセージで環境にやさしい休日の過ごし方を考える企画。エコドライブや公共交通機関の利用、また個人で排出権を利用することなど提案。メディア、スポーツ団体、企業、学生、NPO、NGOなどと連携し年間を通した活動を展開していきます。こうした連携を「グリーンコミュニケーションアライアンス」とネーミングしました。これまでの広告の慣習にとらわれず、「環境元年」である今年を環境コミュニケーション新時代のスタートととらえ、、連携したプラットホームから多重に発信された情報によってムーブメントが起こり、受け止めた市民が自分事化できる。それぞれの立場で「私にできること」を考える「チーム」作りを続けていきたいと思います。7月のサミット以降をきちんと見据え、世界に対して環境技術も精神も先進国・日本をアピールできるような、メディア企画をサポートしていくつもりです。

2007年 11/30 朝刊
2007年 12/17 朝刊
3/26 朝刊