環境負荷の低減や、滋養や健康の源という付加価値で、日本の米のブランド化をはかりたい

1961年創業の米の総合メーカー、東洋ライス。独自の技術によって、「BG無洗米」「金芽米」「金芽ロウカット玄米」などのヒット商品を生んでいる。米に関する数々の機器の発明者で代表取締役社長の雜賀慶二氏に聞いた。

──今年、「BG無洗米による米のとぎ汁公害及びCO2排出の削減活動」が評価され、「地球環境大賞 環境大臣賞」を受賞されました。BG無洗米の開発の経緯について聞かせてください。

雜賀慶二氏 雜賀慶二氏

 無洗米の開発のきっかけは、淡路島への家族旅行でした。船で紀淡海峡を渡る際、海が黄土色に変色しているのを見て、米のとぎ汁が汚染の一因であることに気がつきました。精米した米の表面には、「肌ヌカ」が残っているので、研ぎ洗いが必要になります。これを取り除いて無洗米にすれば、とぎ汁による環境汚染を避けられるだけでなく、節水にも貢献できる。こうした考えをもとに、肌ヌカを取り除く機械を開発しました。

 しかし、発売当初は、ゼロからの出発どころか、マイナスからの出発でした。肌ヌカがついた米よりも白いので「薬でさらしているのではないか」と誤解されたり、「無精者のための米を作るなんてけしからん」と文句を言われたり。「環境のため」と言っても変わり者扱いされるだけでした。それが今では広く認められ、環境大臣賞までいただきました。感慨深いものがあります。

 ちなみに、無洗米を製造する際に回収される肌ヌカは、「米の精」という商品になり、有機質肥料や飼料として循環型農業に有効利用されています。有機質肥料は微生物の増殖を助ける作用があり、おいしい作物ができると評判です。飼料も栄養価が高いので、「家畜の豚が元気になった」「牛の乳の出が良くなった」といった感想をもらっています。

──新商品「金芽ロウカット玄米」の特徴は。

 金芽ロウカット玄米は、当社が生み出した「金芽米」の延長線上にある商品です。まず金芽米から紹介すると、その特徴は精米方法にあります。もともと玄米には、栄養やおいしさが詰まっている「亜糊粉層」という層がありますが、従来の精米方法では、精米する際にその層がヌカと一緒に取れてしまっていました。この亜糊粉層を当社が開発した精米機で残すことに成功したのが金芽米です。

 そもそもなぜヌカを除くかというと、おいしくないからです。ただ、ヌカは食物繊維や栄養価に富み、体にはとてもいい。その特性を残しつつ、おいしくない部分を除けないかと考案したのが、金芽ロウカット玄米です。玄米がおいしくない原因は、米の表面を覆う「ロウ層」にあります。ロウ層は防水性が高く、吸水性が悪いため、炊飯しても食感が悪く、消化吸収性も悪い。

 これを均等に除去することで、玄米の栄養そのままに、白米のように手軽に炊けて、食べやすく消化のいい玄米ができました。「均等に除去」というのがポイントで、実はこれまでロウ層を除去した玄米はありましたが、均等に剥離(はくり)されていなかったので、吸水して膨張すると米が割れておいしく炊けませんでした。金芽ロウカット玄米は、割れることなくふっくらと炊きあがるので、白米の感覚で食べることができます。

──日本では米の消費量が減り、TPPが締結されれば厳しい価格競争が予想されます。

 米を主食としている国々では、「食べ慣れた米をより安価に」という消費者心理があるはずです。「おいしさ」の訴求だけでは、日本の米の輸出拡大はなかなか難しいのではないでしょうか。私は、環境負荷を低減する米として、あるいは、滋養や健康面の源として、日本の米のブランド化をはかるべきだと思っています。健康ニーズは万国共通で、富裕層を中心にシェアを広げられる可能性はおおいにある。無洗米のような、環境負荷の低減という付加価値、金芽米や金芽ロウカット玄米のような、滋養や健康面の源という付加価値があれば、恐れることはない。ブランド化によって海外でも高く売れ、そうすれば休耕地の問題も解消されるのでは。悲観することはないと思います。

──新しい技術を追い求め続ける理由は?

 私は、無石米、無洗米、金芽米、金芽ロウカット玄米と、様々な米の革命にかかわってきました。日本の米文化の発展に貢献し、人々を健康にする商品を生み医療費の削減などに貢献することは、天が私に与えた使命だと思っています。例え私がこの世からいなくなっても、技術や機械は残る。これは大変な生きがいです。新しい技術を今後も追い求めていきたいですね。

──愛読書は。

 読む本はお米に関する本がほとんど。最近では、お米のパワーを紹介する『見えてきた がんを治す免疫 アレルギーとがんの治療最前線』『新発見! 免疫をパワーアップさせる夢の物質「LPS」「病」になる人、ならない人を分けるもの』などを読みました。

雜賀慶二(さいか・けいじ)

東洋ライス 代表取締役社長

1934年和歌山県生まれ。中学卒業後、精米機の販売・修理を行う家業に従事。1961年東洋精米機製作所を設立。63年財団法人雑賀技術研究所を設立し会長に就任。85年東洋精米機製作所社長に就任。2005年トーヨーライス社長に就任。13年3月、両社を合併し東洋ライスを設立、同社社長に就任。

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広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.76(2015年8月26日付朝刊 東京本社版)