プライベートブランドに新たな可能性 子供のいる家庭の日常をより豊かに

ベビー・子供用品チェーン最大手の西松屋チェーン。少子化という厳しい環境下においても業績好調で、今年度は20期連続の増収を達成できる見通しだ。近年は、電機メーカーや半導体メーカーなど製造業出身の人材を積極的に採用し、技術者発のプライベートブランド(PB)に注力。ヒット商品も生まれている。

 

大村禎史氏 大村禎史氏

──西松屋チェーンの商品ポリシーは。

 当社が目指すのは、日常的に使えるベビー・子供用品を数多くそろえて、子供やその家族の日々の暮らしを豊かにすること。例えば衣類は、よそゆきではなく普段着に特化し、デザインやカラーのバリエーションを豊富に用意。子供はよく動くので、簡単に型くずれしたり破損したりしない品質を重視しています。その一方で、よく汚し、成長が早いのも子供の特徴で、ワンシーズン着て翌年には着られなくなることも多いのです。こうした観点からより良い商品、より手頃な価格を追求しています。

──店舗展開のポイントは。

 10万人の商圏人口に1店、という出店目標を設定しています。日本の人口は約1億3千万人ですから、単純計算で1,300店。現在は870店余りなので、さらに数を増やし、北海道でも、東京でも、沖縄の島々でも、同じ品質の商品を同じ価格で買える環境を整えていきたいと思っています。
  出店は、人口増加エリアでの車によるアクセスを前提とし、賃料が高い幹線道路沿いでなく、かつ便利な立地を選んでいます。最近は、オープンモール型ショッピングセンターへの出店にも力を入れています。

──チェーンストア展開において心がけていることは。

 できるだけ店舗での作業を標準化、単純化、マニュアル化し、運営コストを下げる工夫をしています。店舗のレイアウトは、通路幅が2.5~2.7メートルと広く、ベビーカーやショッピングカートが楽にすれ違うことができ、ゆったりと品物を選ぶことができます。衣料は全品ハンガーにかけて陳列し、ワゴン売りはしていません。その方が商品のデザインが一目でわかる上、広げたりたたんだりする手間がかかりません。店員が服をたたみ直す作業も省けます。また、等間隔で「商品取り棒」を配置し、手の届かない上段の商品は、お客様自ら棒を使って手に取っていただいています。さらに、全店の商品の発注業務や管理業務などを本部に集約し、1店につき2名の店員がいれば運営できるように現場作業をマニュアル化しています。このように、お客様の利便性を追求しつつ、合理化を進めることで、手頃な価格を実現しています。

──同業他社との差別化をどのように図っていますか。

 手頃な価格も差別化の一つですが、他社の追随がある中で、安さだけでは勝ち残れません。ネックは品質で、しかも単に「良い商品」ではなく、お客様の立場から考えた商品づくりによって差別化を図っていくことが重要だと考えています。そこで力を入れているのがPBです。ここ数年は、大手電機メーカーや半導体メーカーの技術部門で働いた定年退職者や早期退職者を積極採用し、PBの商品企画や生産管理を任せています。現在、技術者の数は約80名、平均年齢は57 歳です。

 彼らに最初にお願いしているのは、お客様目線のものづくりと、余計な機能のそぎ落としです。電機メーカーなどでは、機能を付加することで商品価値を高めることを技術者に求めますが、当社では本当に必要な機能だけを残して手頃な価格に抑えることにこだわっています。

 技術者発のヒット商品も生まれています。三洋電機出身の技術者が開発した2,999円のベビーバギー「バギーfanネオ」は年間約3万台、パナソニック電工出身の技術者が開発した489円のクッション性マット「くみあわせマット(9枚入り)」は発売開始から2年半で190万個を売り上げています。富士通テン出身の技術者が開発した12本組259円の子供服用ハンガー「キッズハンガー」も大変好評です。
  現在、技術者が手がけたPB商品の売り上げに占める比率は3%ほどですが、5年後には30%まで引き上げたいと思っています。

──今後の課題は。

 多店舗展開が進んだ今、商品の供給体制の見直しを図っています。現在、当社の繊維製品の製造拠点は中国の山東省、プラスチック製品は中国の広州や深センが中心ですが、生産ラインの一国偏在は、天災や政治的トラブルがあると供給が滞るリスクがあるので、今後は、東南アジア、バングラデシュ、インドなどに生産拠点を分散していく計画です。そのため、現地の事情を知る商社出身の人材採用も進めています。

   

──eコマースも始めました。

 eコマースを始めるにあたって留意したのは、売れ筋も品切れなく継続的に提供できるサプライシステムの整備で、リアル店舗でも課題としてきたことです。こういった点においても技術者発のPB商品は有望です。というのも、企画者が生産・品質・納期・数量管理のノウハウを持つ人たちなので、品質も価格も供給数も安定した商品が作れるのです。PBのアイテムが増えれば、eコマースはもとより、海外展開の可能性も広がると見ています。成長に合わせて物流センターの拡充なども進めていく計画です。

──リーダーとして心がけていることは。

 「日常のくらし用品を、気軽に、自由に、そしてお客様に満足される品質の商品を、どこよりも低価格で最も便利に提供することによって、社会生活の向上に寄与する」という経営理念を、ことあるごとに社員と共有し、社員への年賀状にもしたためています。また、チェーンストアの存在意義を全社員に理解してもらうための教育プログラムも作り、意識啓発を図っています。

──愛読書は。

 チェーンストア経営専門のコンサルタントとして活躍した渥美俊一先生の著書『21 世紀のチェーンストア チェーンストア経営の目的と現状』と『チェーンストア経営の原則と展望』は、私の教科書です。また、尊敬する稲盛和夫さんの著書『生き方』、渋沢栄一さんの著書『渋沢栄一 徳育と実業 錬金に流されず』、中国古典からえりすぐりの言葉をまとめた『中国古典 一日一言』なども心に残っています。

 

大村禎史(おおむら よしふみ)

西松屋チェーン 代表取締役社長

1955年兵庫県生まれ。79年京都大学大学院工学研究科修士課程修了。同年山陽特殊製鋼入社。85年西松屋チェーン入社・取締役。90年専務取締役。96年副社長。2000年から現職。

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