西日本を中心に、食肉小売業のダイリキと、外食事業のワン・ダイニングを展開する1&Dホールディングス。近年は九州エリア、さらに関東エリアに出店し、チェーン網を拡大している。その施策について、代表取締役社長の髙橋 淳氏に聞いた。
──会社の歩みについて、聞かせてください。
義父・髙橋健次(現・会長)の実家は、もとは魚屋でした。義父は9人兄弟の末っ子。最初は家業を手伝っていましたが、1965年に独立。鯨肉を扱う商店を大阪・庄内に開きました。しかし1967年の捕鯨禁止によって業態の変更を迫られます。そこで着目したのが、おいしく栄養価が高いホルモンです。義父は店頭での試食販売や、タレの開発、肉のカット技術、丁寧な対面販売などによってお客様の支持を広げていきました。
1971年、事業が軌道に乗ると、義父はヨーロッパ訪問の機会を得ました。この時、パリで明るく清潔でファッショナブルな2階建ての総合食肉店を見て衝撃を受け、品ぞろえが豊富で清潔感あふれる店舗のチェーン展開を構想。牛・豚・鶏・ハムなどを一手に扱う総合食肉店を、商店街を中心に展開していきました。
義父はさらなる手を打ちます。大規模小売店舗法改正と牛肉の自由化を見据え、1989年に出店先をスーパーなどの量販店へ移行。牛肉といえば高価な和牛・国産牛が主流の時代に、輸入牛肉を手頃な価格で販売しました。
1992年には売上高100億円を突破。安定的な成長のために、外食事業、中でも焼き肉業態に着目し、1993年に「炙屋曾根崎店」を大阪にオープン。当時焼き肉店といえば、客単価は7,000〜8,000円。当社は2,500円の価格帯でおいしい焼き肉を提供し、行列ができるほどの人気となりました。
私は1995年に入社しました。配属先は店舗開発部。都心部では煙を排出するダクトなど設備改修の問題があったため、出店戦略を郊外へとシフト。1998年の「あぶりや伊川谷店」のオープンを契機に、積極的に出店を推進しました。拡大路線の一方で、やめたこともありました。肉の店内調理です。新鮮な肉を店内で調理できる人材の育成には4、5年かかる。出店のスピードに合わせるために肉のカットを外部に委託し、カットずみの冷凍肉を使用することにしたのです。
転機は2001年、2003年と立て続いたBSE問題です。この騒動で売り上げが半減。試行錯誤の末に行き着いた答えが「原点回帰」でした。肉のカットの外部委託をやめ、小売り経験がある社員を転籍させて、外食の店舗社員への技術指導を実施。また、新しい食べ放題業態を作るべく、お客様自らが商品を取りに行く形式ではなく、テーブルにいながらメニューを注文する「フルサービスバイキング」を導入しました。コストと時間がかかる非効率なやり方ですが、これが独自の価値につながっていきました。
そして今では、牛焼き肉だけでなく、豚肉のしゃぶしゃぶ「きんのぶた」、とり焼やとり鍋の「いちばん地鶏」「鶏の力」なども展開。東日本にも店舗を拡大しています。
──経営において、心がけていることは。
当社は、「価値ある経営」という理念を掲げています。お客様、従業員、社会から必要とされる会社、必要とされる店であり続ける、ということです。その原動力となっているのが「人」です。当社は一貫して、お客様のため、チームのために情熱を燃やせる人材の育成に力を入れています。インナー採用も積極的に進めており、年間採用する5,000人のアルバイトの4割が友人の紹介、社員の6割がアルバイト出身。こうしたロイヤルティーの高い人材の採用・育成に、今後も努めていきたいと思います。
──店舗展開の展望は。
店舗展開においては、フランチャイズでもM&Aでもなく、直営店を増やしていきたいと考えています。九州地区では、福岡と北九州を中心に13店舗を展開。関東では、昨年4月には関東地区第1号店となる焼肉ダイニング「ワンカルビ」花小金井店を出店。今後、東は武蔵野、西は八王子、北は浦和、南は藤沢という十字形のエリアに集中的に出店します。日本の外食産業は飽和状態だという説もありますが、この十字エリアだけでも人口約1,500万人。ポテンシャルは十分にあると考えています。
──CSR活動にも積極的に取り組んでいます。
当社は20年以上前から地域や社会への貢献を継続して行ってきました。地域への寄付や物資支援は国内だけでなく、近隣の東南アジアの支援活動も実施しています。これまでに、カンボジア、ラオス、ベトナムにおいて、学校建設などの支援を展開。学校の落成式にアルバイトを10人近く連れて行き、アジアの子どもたちを笑顔に触れてもらい、その様子をドキュメンタリー動画にして社員で共有するなどしています。
また、当社の店では合わせて250人ものベトナム人のアルバイトが働いています。この4月にはアルバイトから3人を社員として採用しました。ベトナム人のアルバイトの教育、外国のお客様の対応、さらに将来的には、ベトナムでの店舗展開のマネジメント、あるいはその人材育成の役割を期待しています。ベトナム人は焼肉が大好きなんです。平均年齢が若く人口の多い国なので、ビジネスチャンスは大いにあると思っています。
──愛読書は。
『上杉鷹山』はリーダーとしてのあり方、『ドラッカー 365の金言』はマネジメント理論、『ストーリーとしての競争戦略』は差別化戦略の教科書。何度も読み返しています。
1&Dホールディングス 代表取締役社長
1961年東京都生まれ。84年成蹊大学経済学部卒。同年三井物産入社。繊維部門に11年半在籍。95年ダイリキ入社。2008年ワン・ダイニング代表取締役社長。16年2月ダイリキ社長を兼任。同年11月ホールディングス体制へ移行し、両社を傘下に持つ1&Dホールディングスの代表取締役社長に就任。
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(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)
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