コピーはモノを売るための言葉であり、広告する商品を通じて、世の中を幸せな方向に導く旗印

 「女の子の登校率が上がると、子どもの死亡率が下がる。」というキャッチコピーの日本ユニセフ協会の募金広告が、2010年度TCC(東京コピーライターズクラブ)の審査委員長賞を受賞した。コピーを担当したのは、次世代を担う若手クリエーター、電通の小郷拓良さん。広告は世の中を幸せな方向に導く旗印のような存在と語る小郷さんに、広告づくりのこだわり、考え方、仕事の面白さなどを聞いた。

小郷拓良氏 小郷拓良氏

――まず、広告業界を目指したきっかけを教えてください。

 学生時代は、理系ですが読書と映画鑑賞の毎日だったので、就職活動中は、まだ世の中に知られていない素晴らしい作品を読者に伝えるような仕事をしたいと考え、映画関係の仕事や出版社なども検討していました。最終的に広告業界に決めたのは、世の中にいいものを広めるという意味では、広告のほうが、もっと大きなことができる可能性を感じたからです。また、基本的に商品や企業をほめることしかしないというところにもひかれました。わざとネガティブな表現を取ることがあっても、目的はポジティブ。どんなに小さな商品でも、どんなに小さな広告でも、人の気持ちを明るくするものが作れれば成功なんです。コピーライターは、商品を目立たせるために、毎日原稿用紙と向かい合う裏方職人のようなものですが、ボクはもともと裏方志向。学園祭でもバンドをやるより、実行委員になって、いかに盛り上げるかを考えるタイプ。人前で何かするのは、苦手です。

――現在、ユニセフの広告制作を手がけていますが、いつごろから担当しているのですか?

 電通に入社して3年目に、最初は先輩のコピーライターの下についてコピーを書いていました。それからずっと担当させていただいているので、今年で4年目です。具体的には日本ユニセフ協会からオリエンテーションがあり、伝えるべきテーマについての説明を受けます。たとえば、5歳未満乳幼児の死亡率の話や、最貧困層の子どもたちへの支援の話、安全な水やワクチンの重要性といった開発途上国の悲惨な状況と、それに対するユニセフの具体的な支援活動など、テーマは多岐にわたります。いつも大きなテーマをいただくので、その思いに応えなければ、と毎回身が引き締まる思いです。コピーを提案するときも、様々なディスカッションをチームのみんなで行い、メッセージの方向性を絞っていきます。コピーが決まったら、その言葉の力をもっとも強く伝えるビジュアルを考えます。ユニセフのデータベースに膨大な写真があるので、その中から選んでいます。

※画像は拡大します。 2009年6月22日付 朝刊

2009年6月22日付 朝刊

――TCCを受賞した女子教育に関する広告は印象的でした。

 これは私にとっても印象深い仕事のひとつです。募金広告の多くは、厳しい環境にいる子どもたちの悲惨な状況を知ってもらうという内容です。けれども、このときは女子教育がテーマだったので、募金がいかに子どもたちの未来を守る力になるかをポジティブに伝えられないか考えました。一人の女の子が学校で勉強をできるようになることで、家族や社会、さらには国まで変えていく力になるんです。「かわいそうな子どもを救ってあげたい」という動機とは違う、ポジティブな動機の募金の集め方をしようと作りました。とはいえ、募金広告なので、募金が集まらないと意味がありません。新聞広告が掲載される日は、いつも緊張して早起きしてしまいます。

――この広告はどのような反響がありましたか?

 ユニセフにはたくさんの反響があったそうです。今まで募金に関心がなかった人たちにも、募金の必要性などを知ってもらえる機会にもなったようです。今まで世の中にあまり知られていなかった「女子教育」がもたらすポジティブな波及力を伝えられたのが良かったんだと思います。私の母の友人も、ずっとユニセフ募金をしていたそうですが、女子教育がテーマの広告を通じて自分の募金がどのように使われて、それがどれだけの子どもたちの力になっているのか理解できて、すごく感動したと話してくれました。そのときの経験もあって、最近のユニセフの広告では寄付がどのように使われているかを可視化させるために「○○円の募金で、現地のこどもたちに○○が届きます」といった情報を伝える「いのちを守る具体策」というコーナーをつくっています。

――コピーを書く上で、こだわっていることなどはありますか。

 コピーは、オーダーメード。広告する商品のことを徹底的に研究して、商品のいいところを発見し、それを伝えるのにもっともいい表現方法を考えます。ユニセフの広告では、子どもたちを取り巻く厳しい環境を抽象的に伝えるのではなく、現地のリアリティー、深刻度、緊急性を感じてもらえるように心がけています。

――スマトラ沖で地震が発生した後にも、募金広告が出稿されました。

 この時は、とにかく早く広告を作らなければならない、という使命がありました。いつもは心に訴えかけるキャッチコピーがあり、ボディーコピーで理由を解説するという設計の広告なのですが、それとはまったく逆。直球で「緊急募金にご協力ください」というコピーで訴えかけ、おさえに「一刻も早く、一人でも多くの子どもの命を守るために」というコピーを書きました。このとき、ものすごく募金が集まったと聞いて、世論をつくりだす場所としての新聞の力を再認識しました。新聞は社会的な大きなメッセージを伝える場所として最適だと思います。

2010年6月22日付 朝刊 2010年6月22日付 朝刊
2010年12月14日付 朝刊 2010年12月14日付 朝刊

「今」が求められる時代にこそ、ニュースになるような広告を作りたい

朝日広告賞 小型広告賞受賞作品

朝日広告賞
小型広告賞受賞作品

――2008年に朝日広告賞の小型広告賞を受賞していますね。

 コピーライター2年目に作った、小学館の『小学一年生』の小枠広告シリーズです。「クラスのくうきがよめません。」という小学生の素朴な悩みに、「空気が読めないなら、作っちゃおう。」と『小学一年生』の相談教室が大人向けの回答をするというシリーズです。小学生の手書き文字は同期のアートディレクターが左手で書いたものなんですよ(笑)。このとき、コピーをつくる楽しさに目覚めたんです。それまではCMプランナーとコピーライター、どちらもやっていたのですが、コピーライターをメーンに仕事をしていこうと決めたきっかけにもなりました。

――新聞広告とそれ以外のメディア(テレビCMやウェブのバナー広告など)では、コピーの作り方や考え方などは違いますか。

 新聞は活字媒体なので、まずはハッとさせて読み込んでもらえるように、キャッチコピーでひきつけるような言葉の設計をすることが多いです。テレビの場合は、言葉が音になるので、言葉の響きのかわいさや面白さなども計算して、コピーの設計をします。バナー広告はウェブサイトへの入り口なので、その先のページに興味を持ってもらえるような言葉の設計をします。たとえば、ユニセフの女子教育がテーマのときは「女の子の登校率が上がると、子どもの死亡率が下がる。なぜでしょう?」というコピーで、クリックするとその説明が書かれたページに飛ぶという言葉の導線を設計しました。

――コピーライターという仕事の面白みを、どういったときに感じますか。

 コピーはモノを売るための言葉であることはもちろんですが、広告する商品を通じて、たくさんの人の心を動かし、世の中を幸せな方向に導くための旗印でもあると思っています。決して簡単なことではありませんが、やりがいを感じています。世の中を動かす広告を作るためにも、コピーライターは「時代の空気を読む力」が必要で、私もいろいろな人やモノ、出来事にアンテナを張るようにしています。クリエーティブディレクターやアートディレクターと一緒に作った広告を通じて、商品が売れたり話題になったりしたときは、我が子の成長を喜ぶような気分です。

――では、最後に激変している今のメディアについて、若手クリエーターとして思うこと、感じていることなどがあれば教えてください。

 新聞は社会的なメッセージを伝えることに適している媒体なので、その特性を生かし、社会問題と連携した広告を制作したら面白いんじゃないかと思います。たとえば、就職氷河期の今なら、広告面すべてを求人広告にしてしまうとか。求人している企業が実はたくさんあることが示せるし、就職難を嘆く世論に対してもメッセージを発信できると思います。一つ二つの枠ではなく、全部の枠を使うことがポイントです。そのくらいインパクトがあることをすると、ツイッターやSNSなどを通じて、新聞を読まない世代にも「新聞って面白いかも?」と思わせることができるかもしれません。

 どんなにメディアが変わっても、人の心が動く動機は変わらないと思うんです。もちろん、時代は変化しているので、やり方は変えていかなければいけない。新しいメディアがたくさん生まれたことで、広告の表現を考えるだけでなく、広告を流す場所を自由に考えられるようになったことは、すごくチャンスだと思います。いくらウェブやケータイが発達しても、それだけで展開するのでは、大きな流れを作ることはなかなかできません。新聞やテレビで大きなメッセージを発信して、それを広げていくときにウェブやケータイを使うなど、いろいろうまく連携していくのがいいと思っています。今は、なにしろ「今」起きていることに、みんな興味があるんです。ライブなものが受けている。たとえば「今、自分が居酒屋で飲んでいるこの瞬間に、世界には水が飲めないで困っている子どもがいる」なんて聞いたら、なんとかしてあげたい、と思いますよね。最近、広告が効かなくなったなんて記事をたまに見ますが、ニュースになるような広告をつくれば、ものすごく効くと思っています。

愛用品は、革のペンケースとLIFEのノート

革のペンケースとLIFEのノート 革のペンケースとLIFEのノート

 職業柄、ペンは常に持ち歩いています。ペンケースは革製の巻き型タイプ。愛用の理由は、ペンを何本も差して収納する感じが、弾丸ベルトのイメージと重なるところ(笑)。A5サイズのLIFEのノート。セレクトの理由は見た目のデザインにひかれて。思いついた言葉を書き留めたり、コピーを書いたり、メモ帳として使用しています。

小郷拓良(こごう・たける)

電通 コピーライター

1980年生まれ。2005年慶應義塾大学大学院卒業後、同年電通に入社。コピーライターとなる。日本ユニセフ協会の広告には入社3年目から携わり、今では1番の古株に。主な受賞歴は、TCC審査委員長賞、OCC新人賞、朝日広告賞小型広告賞、東京インタラクティブ・アド・アワード銀賞、消費者のためになった広告コンクール銅賞、モバイル広告大賞、タイムズアジア・パシフィック広告賞入賞など多数。

※新聞広告を手がけるクリエーターにインタビューする、朝日新聞夕刊連載の広告特集「新聞広告仕事人」に、小郷拓良さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「新聞広告仕事人」Vol.18(2011年2月7日付夕刊 東京本社版)