ロマンとビジョンを掲げ、意欲と執念と好奇心をもって攻め進む

 29期連続で過去最高益を更新、躍進を続けるニトリホールディングス。住空間をトータルにコーディネートする「ホームファニシング」というコンセプトのもと、家具を始め、インテリア雑貨や調理器具など、多種多彩な商品を展開している。来年は創業50周年。今後の展望について、代表取締役会長兼CEOの似鳥昭雄氏に聞いた。

──ヒット商品が続々と生まれています。商品開発のこつについて聞かせてください。

似鳥昭雄氏似鳥昭雄氏

 ニトリは、生活者の不平、不満、不便を調査し、それを解決する商品を開発しています。そのアイデアはどれも、社員自身が不満や不便を感じたことが出発点となっています。私もどんどんアイデアを出します。好きなんです、既存にないものを作ることが。

 例えば、「Nクール」シリーズは、私が10年前に札幌から東京に引っ越してきた時に、「東京の夏の夜はなんて暑いんだ」と不快に思い、なんとか解決できる商品を作れないかということから商品開発が始まりました。試行錯誤の末に生まれたのが、冷たさを感じる特殊な繊維で作った寝具です。

 ソファやベッドマットレスの快適性を追求した「ポケットコイル」という技術も自社開発し、低価格・高品質を実現するため、自社工場を建てて昨年からフル稼働で生産しています。マットレスの「Nスリープ」シリーズは、本格販売を始めた昨年は23万本、今年は30万本を目標にしています。ソファは、昨年7万本、今年14万本と、こちらも倍近く伸びました。

──常々社員に語りかけていることは。

 20代で実務を身につけ、30代で改善ができて、40代で改革ができないとダメだとよく言っています。「20年でスペシャルになれ」と。

──近年、都心部への出店が増えています。

 都心への出店は、時を待つ必要がありました。というのも、地価の高い都心では、利益と家賃とのバランスを考えると採算性が悪い。知名度も資金もない中でそのリスクを負い、失敗すれば、経営の命取りになります。

 もともと当社は、地価が安く広い売り場が確保できる郊外エリアに注目し、5年後、10年後、20年後にどのような人口動態になるかを調査・把握した上で有望なエリアに出店していく手法を取ってきました。その実績を地道に積み重ねることで、利益と知名度がついてきました。そうした中で、10年くらい前からでしょうか、「田舎の実家に帰ると、近所のニトリで買い物ができる。あんな店が都心にもあったらいいのに」という声が方々から聞こえてくるようになりました。

 おかげさまで今ではニトリの知名度は全国区になっています。今ならリスクがあっても挑戦できる、機は熟したと考えています。昨年はプランタン銀座や池袋サンシャインシティなどに出店、今年は上野マルイ、新宿タカシマヤタイムズスクエアなど、来年は東武百貨店池袋などに出店予定です。

 首都圏のお客様のニーズは、車での来店が多い郊外店とはまた違うので、品ぞろえも店づくりも新しいタイプのプレゼンテーションを展開しています。私が提唱したのは、「売らない店づくり」です。売ろうとすると、できるだけ多くの商品をそろえて、天井まで届くような棚にギッシリ並べたくなりますが、そうではなく、品質もセンスもいいなと感じてもらえる商品を、低めの棚に見やすく並べています。その結果、店はにぎわい、商品は売れています。デパートの「シャワー効果」や男性客の増加につながっていると、うれしい報告も入っています。

──海外展開の展望について聞かせてください。

 当社の精鋭役員を各国に派遣し、店舗運営や物流にあたってもらっています。ニトリの商品には、様々な国の材料や技術が結集しています。当社は2032年に世界3千店というビジョンを掲げていますが、その内訳は、国内1千店、海外2千店です。海外は、アジアを中心に店舗数を拡大していきたいと考えています。特に中国は、人口14億人の国で、労働賃金も上がっています。中国経済の減速を懸念する声もありますが、私は楽観しています。途中で浮き沈みはあっても、10年も経てば、労働賃金は日本を上回るのではないでしょうか。

──アメリカにも出店しました。

 私は、28歳の時に、アメリカの家具店を視察するセミナーに参加しました。近所に大型家具店ができたことで売り上げが急降下し、苦境を脱出する方法はないものかと、わらにもすがる思いで参加したのです。アメリカでまず驚いたのは、家具の値段の安さ。しかも品質や機能は日本のものよりずっといい。住空間をトータルにコーディネートする「ホームファニシング」という概念も新鮮でした。そんなカルチャーショックを受けたアメリカに出店し、新たな挑戦を始めています。

 かつての日本と似た道を歩んでいるアジアでは、当社のこれまでのやり方で通用しますが、アメリカではそうはいかないなと実感しています。人を1人雇うにしても、履歴書を提出する文化がなく、年齢や、未婚・既婚などについて雇用主に言う義務もない。日本人の感覚とは随分違います。難しさはありますが、だからこそ挑戦のしがいがある。成功を目指していきたいですね。

──事業のかたわら、2005年に公益財団法人似鳥国際奨学財団を設立されました。

 私は、チェーンストア経営のコンサルタント・渥美俊一先生から、「経営者はロマンチストたれ」と教わりました。ロマンとは、日本語でいう「志」のことです。渥美先生は、「世のため人のために行動する人こそがロマンチストだ」とおっしゃっていました。これに加えるなら、ロマンを持つ経営者の真価が明らかになるのは、現在ではなく何十年も先の未来だと私は考えています。

 似鳥国際奨学財団は、世界各国の学生のうち、志操堅実、学力優秀でありながら、経済的理由により修学が困難な人に対して、奨学援助と住宅補助などの事業を行い、世界各国の友好親善と人材育成に寄与することを目的に設立しました。特にアジア諸国には経済難によって修学の機会を得られない若者が多く、力になれたらと思っています。

──ニトリの第1期30年ビジョン「100店売上高1千億」は、渥美氏の後押しがあったそうですね。

 そうです。低い目標を掲げるなと言われて掲げた数字です。ところが100店売上高1千億を達成した時、「まだ半人前」と言われました。なんでほめてくれないんですかと聞いたら、「ほめたら安心して課題探しを怠る」とのこと。先生に倣って、私は社員をほめません(笑)。先生には「どのくらいで一人前ですか」とも聞きました。すると、「300店3千億。日本人の暮らしを豊かにするために必要な店舗数は500店以上」との答え。先生が亡くなる前に300店3千億の達成を見届けてもらったのは幸いでした。さかのぼって私の父は、「札幌で一番になれ」と言い、一番になったと報告したら、「次は日本一だ」と言いました。父にも見届けてほしかったですね。

──リーダー信条は。

 リーダーはロマンを抱き、実現に向けた具体的なビジョンを持つ必要があります。さらに太陽のように明るい性格であることも大切だと思います。あとは即断・即決・速攻。私のモットーです。挑戦と失敗を恐れないで攻め進む意欲と執念と好奇心こそが未来を開くと思っています。また、「男は度胸、女は愛嬌(あいきょう)」という言葉がありますが、リーダーには、度胸と愛嬌の両方が必要だと思います。

──愛読書は。

 『21世紀のチェーンストア チェーンストア経営の目的と現状』を始めとする、人生の師・渥美俊一先生の著書群です。「アメリカの豊かな暮らしの鍵はチェーンストアにある。チェーンストアこそ国民の生活を守る基幹産業である」という渥美先生の言葉によって、「住まいの豊かさを世界の人々に提供する。」というロマン(志)を見つけることができました。

似鳥昭雄(にとり・あきお)

ニトリホールディングス 代表取締役会長兼CEO

1944年樺太生まれ。66年北海学園大学経済学部卒。広告会社などを経て67年似鳥家具店を札幌で創業。72年似鳥家具卸センターを設立。同年米国視察ツアーに参加。85年社名をニトリに変更。白井俊之代表取締役社長兼COO就任にともない、今年2月から現職。著書に『ニトリ 成功の5原則』(朝日新聞出版)など。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、似鳥昭雄氏が登場しました。
(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.91(2016年11月29日付朝刊 東京本社版)280kb


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