がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業へ

 2016年度の医療用医薬品売上高が、国内ナンバーワンとなった第一三共。今後はがん領域の研究開発を強化し、新たな躍進を目指していくという。代表取締役社長兼COOの眞鍋 淳氏に聞いた。

──主力製品オルメサルタンの、パテントクリフ(特許切れ)を迎えています。医療ニーズの現況や将来を鑑み、どのような課題に取り組んでいきますか。

眞鍋 淳氏 眞鍋 淳氏

 重視している課題は、アンメット・メディカル・ニーズ(有効な治療法が確立していない医療ニーズ)への対応です。中でも患者数が多く治療薬のニーズが高いがんに関する創薬を強化していきたいと考えています。

──「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」という2025年ビジョンを掲げました。成長への期待について。

 三共と第一製薬が経営統合し、第一三共として新たなスタートを切った2005年以来、当社はがん領域の研究開発に注力してきました。この10年余りの間に開発品は着実に増えています。昨年は、がん領域で成功体験を持つアントワン・イヴェル氏を、がんの研究開発部門のトップとして招きました。当社の研究開発状況を有望視して招請に応じてくれたのです。さらに、がん関連の低分子化合物、バイオ、がん免疫に関する研究機能と臨床開発機能を集約し、グローバルで一元化する体制も整え、これによって迅速な意思決定が可能となりました。研究開発を加速化し、一日も早く世界の患者さんに効果的ながん治療を提供できるように尽力していきます。

──がん事業のトピックは。

 開発を進めている抗体薬物複合体の臨床データを、今月の米国臨床腫瘍(しゅよう)学会(ASCO)年次総会において発表しました。当社の期待する同製品の承認に向けて研究開発を促進していきます。

──イノベーティブ医薬品、ワクチン、ジェネリック医薬品、OTC医薬品(一般用医薬品)など幅広いニーズに応えています。そうした分野におけるトピックについて紹介してください。

 当社は2016年度の国内医療用医薬品売上高が、国内ナンバーワンとなりました(ミクスオンラインより)。その原動力は、製品の多様性です。単に売り上げでナンバーワンになるだけでなく、医療関係者から高い信頼を得て、幅広い患者さんのニーズに応えていきます。予防医療において重要なワクチン開発を始め、医療費の抑制に寄与するジェネリック医薬品にも注力しています。中でもAG(オーソライズド・ジェネリック)事業の強化を進めています。AGは、先発メーカーから許諾を得て製造した、原薬、添加物、製法すべてが先発品と同一のジェネリック医薬品です。ジェネリック全体の使用割合が高まる中、AGは、今後ジェネリック医薬品の新たな選択肢になると考えており、ラインアップの拡充を図っています。OTC医薬品にも注力し、セルフメディケーションを推進していきます。

──グローバル戦略についても聞かせてください。

眞鍋 淳氏

 世界の医療用医薬品の販売額は、全体の40%程度を占めるアメリカが第1位、第2位が中国、第3位が日本、以下、ドイツ、フランス、ブラジルと続きます。先進国では高齢者比率が高まっており、さらには新興国においても高齢化社会の到来と医薬品ニーズの拡大が予測されています。そうした中、世界市場でもがん領域で存在感を示していきたいと考えています。

 また、希少疾患の治療薬を含む次世代医薬品の領域でも新しい芽を育てていくつもりです。

 なお、国内市場は当面は10兆円規模で推移すると見られています。医療費の抑制や人口減少はありますが、がん治療を始めとする医療用医薬品への期待は大きく、貢献度を高めていきたいと考えています。

──眞鍋社長は、およそ30年にわたり研究開発部門でキャリアを重ねました。

 私は80~90年代にかけて、安全性研究所にて高脂血症治療剤「プラバスタチン」や消炎鎮痛剤「ロキソプロフェン」、降圧剤「オルメサルタン」、第一三共となってからは抗凝固剤「エドキサバン」など様々な自社開発品に関わりました。安全性研究所は、開発候補品の毒性を検証して『ゴー』『ノーゴー』を判断する機能を持っています。つまり全領域の開発品を見渡せる立場であり、運良く80~90年代には多くの自社開発品が生まれました。関わったプロジェクトの数も、デシジョンの数も、社内では私がいちばん多いと思います。

 私が安全性研究所に入ったタイミングは、自社ラボで発見した血液中のコレステロールを劇的に下げる物質「コンパクチン」の毒性試験が、『ノーゴー』の評価で開発中止になったすぐ後でした。その困難を乗り越えて開発に成功し、数年の後に製品化にこぎつけたのが「プラバスタチン」です。

 安全性研究所で私が身をもって実感したのは、若手の研究者が生意気な意見をどんどん言える雰囲気が大事だということです。さらに経験豊かなシニア研究者が目利き役を果たし、アイデアの芽を伸ばしていく。今、その役割をアントワンが担っています。

眞鍋 淳氏

──愛読書は。

 司馬遼太郎の『空海の風景』です。私は「中讃」と呼ばれる香川県の中部地域に生まれ、善通寺や満濃池など、空海ゆかりの場所に親しんで育ちました。本書は「達観した哲学者」というイメージのあった空海を、人間味たっぷりに書いているところが新鮮でした。

眞鍋 淳(まなべ・すなお)

第一三共 代表取締役社長 兼 COO

1954年香川県生まれ。77年東京大学農学部卒。78年三共(現・第一三共)入社。研究開発分野で長く実績を積む。安全性研究所長、経営戦略部長、日本カンパニープレジデントなどを歴任。今年4月から現職。

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(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

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