「道」を第3のパブリックに-アスファルトの塊をみんなで育てる

 2018年11月22日、東京・天王洲アイルにギャラリー「ANOMALY」がオープン。それを記念して、同日から2019年1月26日まで、アーティスト集団Chim↑Pomの「グランドオープン」展が開催された。Chim↑Pomがこれまで発表してきた「都市論」にまつわるプロジェクトの集大成を結実させる展覧会として、注目を集めた。Chim↑Pomのメンバーのひとり、エリイさんに話を聞いた。

──ANOMALYでの「グランドオープン」展では、「アジア アート ビエンナーレ 2017」で発表した「道」も作品として展示されていました。

2017年「Sukurappu ando Birudoプロジェクト 道が拓ける」
Photo by Kenji Morita
(※画像はすべて拡大表示できます)

 道をテーマにしたインスタレーション作品を最初に発表したのは、2017年7月から約1カ月月間、高円寺のキタコレビルで開催した展覧会「Sukurappu ando Birudoプロジェクト 道が拓ける」でした。キタコレビルは築70年ほどの建物で、古着屋やアパレルショップのほか、Chim↑Pomが運営するアーティストランスペース(ギャラリー)もあります。

 キタコレビルで展覧会を開催することになり、あらためて地図を見たら、2つの棟の間に「道」が存在していたことが分かりました。キタコレビルは入居者が増改築を繰り返してきた歴史があり、いつの間にか道の上に屋根ができて1つの建物のようになっていたのです。そこで、建築家の周防貴之さんに協力してもらい、キタコレビル内に道を再生しました。展覧会は有料でしたが、道はプライベート空間内にある公共空間として24時間、無料で開放しました。道を育てていくために、会期終了後も継続して開放しています。そうした経験を踏まえ、台湾でのビエンナーレで道をつくりました。

──国立美術館の中から公道へアスファルトの道を通し、話題となりました。

 ビエンナーレに参加するために台湾をリサーチしていたとき、2014年に立法院(国会)を占拠した学生運動「サンフラワームーブメント」の参加者たちに出会いました。学生たちは、立法院という「公的な場所」の中に入り、議会を動かした。そんな彼らのムーブメントは、「パブリックとは誰のものか」を考えさせられる出来事だったと思います。そこから着想を得て、公的な場所である国立美術館に、公共のものである「道」をつくりました。すべての道は繫(つな)がっているため、美術館内から公道へと続くその道をたどっていけば、立法院にたどり着きます。

Photo by Yuki Maeda
Photo by Yuki Maeda

 その「道」を、公道とも美術館とも違う「第3のパブリック」にするために、美術館と交渉を重ねて、新たなレギュレーションを構築しました。たとえば通常、美術館内ではいかなるデモも禁止ですが、Chim↑Pomの「道」の上では許可されました。飲食についても同様です。ただのアスファルトの塊を本当の意味での自由な道にするためには、道を育てないといけない。そのために必要なことを美術館と交渉し、実現できることを増やしていったのです。あきらめず対話や交渉を続け、相互の理解を深めていきました。展示期間中には、台南で道をつくることに反対している若者たちとイベントを開催したり、来場者が道にグラフィティを描いたり、ブロックパーティーを開催したりするなど、様々なコラボレーションを行い、道が育っていきました。

Photo by Yuki Maeda
Photo by Jason Waite
Photo by Yu en Lin & jia-zhen Lee

──Chim↑Pomのメンバーはエリイさんを含めて6名です。どうやって作品はつくられるのでしょうか。

 2005年に結成して、今年で15年目となります。結成当初からChim↑Pom会議というのを開いていて、それぞれがやりたいことをディスカッションしながら決めていきます。役割分担は緩やかにあって、映像を撮るのは林靖高だったり、絵を描いたりするのは岡田将孝だったり。ANOMALYで展示した「ビルバーガー」という作品は、歌舞伎町で開催した「にんげんレストラン」で制作した新作です。総重量が7トン以上あるのですが、業者などを頼まず、自分たちでなんとか運び入れました。

──思い入れのある作品は。

 いくつもありますが、ひとつ挙げるとしたら2008年に制作した「ヒロシマの空をピカッとさせる」という作品です。広島の原爆ドームの上空に、飛行機雲で「ピカッ」という文字を描いたのですが、スケールも大きく、挑戦したことには価値があり、10年前に発表したことにも意味があったと思っています。

2008年「ヒロシマの空をピカッとさせる」Photo by Cactsu Nakao

──広島に届く千羽鶴をつかったインスタレーション「The history of human」も印象的です。

 広島に届く大量の折り鶴をもらい、それを私が一羽ずつ一枚の折り紙に戻し、観客が再び鶴を折る、というパフォーマンスをしました。そして折り鶴はまた広島市に送る、ということを繰り返す。それをイギリスや韓国の展覧会でも開催しました。広島市に保存されている大量の千羽鶴をリサイクルすることで、祈りを込めて折るという「行為」だけを増やすことができます。

Chim↑Pom エリイ氏 Photo by Taisuke Koyama
Photo by Taisuke Koyama

──現代アートは敷居が高いイメージがあります。どうやって楽しんだら分からない、という人もいると思います。

 アートは、全員が楽しめるものではないと思います。Chim↑Pomの作品も、ほかのアーティストの作品や違う時代の作品、亡くなったアーティストが残した作品など、ある程度の作品を見た上で真の理解が成立するか元々アートを嗜む才能を持ち合わせているかです。

 日本で私が美術をしていると話すと、「絵はドラえもんも描けない」とか「自分は絵が下手です」と言われることも多く、対話になりにくいです。美術は絵を描くものという事しか教育がなく知識基盤が無いからです。アートは概念でもあるという事を意識上でも無意識でも体得したときに初めて自分のものとして取り込む事ができます。

──最後に、今後、エリイさん個人が制作したい作品などあれば教えてください。

 ANOMALYで展示した作品「Piss Building」は、今後もつくっていきたい。コンクリートに私の1回分の尿を混ぜてつくった立体作品なのですが、つくるたびに形が違います。私を媒介した作品でありながら、私の采配ではない。そこが面白い。今後も、形の追求にトライしていきたいと思っています。

Chim↑Pom エリイ(チンポム・エリイ)

2005年、東京にて、卯城竜太、林靖高、岡田将孝、稲岡求、水野俊紀とともに、アートコレクティブ「Chim↑Pom」結成。都市問題、広島、原発事故、移民などのテーマを扱いながら、時代の「リアリティ」に反応し、現代社会に介入したメッセージ性の強い作品を発表。ときに賛否両論を呼ぶ過激な表現となることもある作品で、社会現象化するほどの注目を集める。また高円寺のキタコレビルでアーティスト・ラン・スペースの運営や、企画展のキュレーション活動も行う。2015年、Prudential Eye AwardsでEmerging Artist of the Year およびデジタル・ビデオ部門の最優秀賞を受賞。
著書に、2009年『なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか』、2017年『都市は人なり Sukurappu ando Birudoプロジェクト全記録』。
http://chimpom.jp/