コア事業と成長事業の両輪でサステナビリティ経営を推進

 昨年、中長期事業戦略構想を発表したブリヂストン。「2050年 サステナブルなソリューションカンパニーとして社会価値・顧客価値を持続的に提供している会社へ」というビジョンを掲げ、コア事業であるタイヤ事業の強化や成長事業であるソリューション事業の価値増幅に邁進している。取締役 代表執行役 Global CEOの石橋秀一氏に聞いた。

──今年3月に創業90年を迎えました。現在の市場環境をどのように捉え、ビジネスに反映させていますか。

石橋秀一氏石橋秀一氏

 ブリヂストンは、創業者が社是として掲げた「最高の品質で社会に貢献」を不変の使命としています。“最高の品質”は、時代のニーズやテクノロジーの進化によって変わります。主力のタイヤの現在で言うと、売って終わりではなく、1次寿命が終了したタイヤの表面を新しく張り替えてリユースするリトレッドタイヤの提案などを行っています。1本の新品タイヤを2度張り替えた場合、新品を3本使う場合に比べ、原材料やCO2排出量はほぼ半減できます。こうした社会価値と、安全性や経済性といったお客様にとっての価値の両立を目指しています。

 “社会に貢献”の形も時代とともに変わります。創業者の石橋正二郎は、寄付活動などを積極的に行いました。私はたまたま名字も出身地も創業者と同じですが、地元福岡には創業者の寄付で建てられた施設や美術館が各所にあり、それらを見て育ちました。90年の間にグローバル化が進んだ現在の当社は、業界のリーダーとして未来に対する責任を果たしていくための行動指針「Our Way to Serve」を国内外のグループで共有し、Mobility(モビリティの進化に貢献する)、People(一人ひとりの生活と地域社会を支える)、Environment(環境負荷を低減し、より良い環境を残す)という3領域を柱に、SDGsを始めとする社会課題に取り組んでいます。

──昨年、サステナビリティを経営の中核に据えた中長期事業戦略構想を発表しました。

 1931年の創業、1988年の米・ファイアストン社買収を契機とした第二の創業に続き、2020年を「第三の創業」と位置づけ、「2050年 サステナブルなソリューションカンパニーとして社会価値・顧客価値を持続的に提供している会社へ」というビジョンを掲げました。

 中長期事業戦略構想は、先に述べた「社会価値・顧客価値の両立」「Our Way to Serve」の推進が核となります。また、高付加価値のタイヤ・ゴム製品の開発・提供を通じてコア事業の強化を図るとともに、お客様それぞれに異なるタイヤデータ、モビリティの運行データ、メンテナンスサービスの利用データを活用するなど、お客様と一緒に新しい価値を創造するソリューション事業の強化を進めています。開発・調達・生産・販売・使用・回収・リサイクルなど、幅広い業種と連携しながらサーキュラーエコノミー(廃棄物を減らして資源を循環させる経済の仕組み)を実現し、バリューチェーン全体で競争優位を獲得していきたいと考えています。

 同時に、将来に向けた選択的投資も行っていきます。拡大が見込まれるリサイクル事業の他、新しい技術では人工筋肉の開発などにもチャレンジしています。ゴムチューブを用いた人工筋肉は、小型軽量、高出力、高耐久性といったメリットがあり、産業用・家庭用ロボットへの展開が期待されています。こうした新事業が成長事業となりコア事業になるかもしれません。世の中の変化をふまえながら注力分野を見定め、ポートフォリオのバランスを取っていきたいと考えています。

──グローバル戦略の今後についても聞かせてください。

石橋秀一氏

 当社は1931年に創業し、60年代にアジアに進出、1988年に米・ファイアストン社を買収し、欧米に進出しました。こうして水平方向に広げてきた“モノ”を創って売るコア事業を基盤にしつつ、2007年にはリトレッド事業のリーディングカンパニー米・バンダグ社を買収、昨年はモビリティ分野のデジタルフリートソリューション事業を展開するオランダの会社を買収しました。「第三の創業」のステージでは、ソリューション事業を成長軌道に乗せ、垂直方向のビジネス拡大を目指します。

(※ドライバーや運行状況に関する様々なデータの管理・提供を通じて、ドライバーや運送業者の安全性・効率性・生産性の向上を図る事業)

 ちなみにタイヤ事業で圧倒的なシェアを獲得しているのは、日本、北米、南米、アジア、中近東で、今後はソリューション事業と両輪で競争優位を維持していきます。一方、ヨーロッパや中国におけるタイヤ事業はまだ成長の余地があるので、その価値を確実に増幅させ、さらにソリューション事業を展開していきたいと考えています。

 中長期事業戦略構想の策定に際しては、11名のメンバーから成るグローバル経営執行会議で議論を重ねました。メンバーのうち半数が日本人、半数が外国人です。コロナ以前は3カ月に1度のペースで対面の意見交換を行っていましたが、コロナ下ではもっぱらオンラインミーティングです。でもかえって頻度が上がり、コミュニケーションは以前より密になっています。工場や販売の課題はエリアごとに異なるので、基本的な理念やビジョンを共有しつつ、現場の判断を大事にするグローカル(グローバル+ローカル)経営に努めています。

──心に残っている職務経験や、リーダーを務めるうえで糧になっている経験は。

 新入社員時代の勤務地は広島でした。自由な職場だったので、自主的に地元の販売会社を回って接客を手伝ったり、ガソリンスタンドでタイヤ点検を手伝ったりしていました。すると様々な課題が見えてきて、改善点をまとめてセールスやタイヤ管理の現場担当者にフィードバックしていました。これがとてもいい経験になりましたね。時には商品戦略の担当者にも厳しい指摘をしたので、「そんなに言うなら本社でやれ」ということにもなって(笑)。

 32歳の時には、ヨーロッパとアメリカの市場視察を任され、1カ月かけて現地を見て歩きました。帰ると経営企画室に入り、また生意気にいろいろと提案しました。ちょうどその頃にファイアストン社の買収があり、買収の翌1989年に同社に赴任、以後14年もの間現地で働きました。

 買収時のファイアストン社は大赤字でしたから、建て直しには大変な苦労がありましたが、当時の海崎洋一郎社長の経営手腕の下、黒字化に成功しました。アメリカでは2000年にも危機的な状況に見舞われました。タイヤのリコール問題です。この時はリコール対応の責任者だったので、昼夜仕事に追われ、1日3時間睡眠が1年ほど続きました。買収時と2000年のピンチは精神的にも体力的にもきつかったですが、この2つの修羅場を耐え抜いた経験は、リーダーを務めるうえで大きな糧になっています。

──リーダーとしての信条は。

 信条は「進取独創」と「熟慮断行」。これは創業者が心構えとして提唱した言葉で、リーダーに欠かせない資質だと思っています。

 リコール問題があった時には、ある友人からもらった「受け抜く」という言葉に救われました。「人から何か言われたら、ニコニコ笑って全部聞きなさい。その日にできることを一生懸命やる。できないことはスーっと受け抜く、受け止めちゃいけない」と。非常に役立つアドバイスだったので、危機に直面している人を見ると、よくこの話をしています。

──愛読書は。

石橋秀一氏

 私は好きな人の著作をまとめて読むたちで、最近は『哲学と宗教全史』などを書いた出口治明氏の著書や、『ニュータイプの時代─新時代を生き抜く24の思考・行動様式』などを書いた山口周氏の著書を片っ端から読みました。サステナブル経営の指針としているのは『持続可能な未来へ』。人生の指針としているのは、稲盛和夫氏の『心。』。この2冊は何度も読み返しています。

石橋秀一(いしばし・しゅういち)

ブリヂストン 取締役 代表執行役 Global CEO

1954年福岡県生まれ。77年静岡大学人文学部卒。同年ブリヂストン入社。89年から約14年間、同社傘下の米・ファイアストン社に勤務し、役員を歴任。2003年に帰国、執行役員、副社長などを経て203月から現職。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、石橋秀一氏が登場しました。
(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.132(2021年3月20日付朝刊 東京本社版)600KB


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