「インスタジェニック」

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インスタジェニックとは、インスタグラムに投稿したときに映える写真になることを意味する。センスの良さや色使い、話題性などが重要な要素となる。最近、若い世代で消費活動や情報発信のモチベーションとなっている。

 今、若い世代にもっとも活用されているSNSは何であろうか。ツイッター、フェイスブックなど、高校生や大学生の若い世代は多くのSNSを使い分けている。その中でも、特に人気なのがインスタグラムだ。全国の大学生にアンケートをとったところ、58%の人が使っていると答えた。この数字は、フェイスブックよりも多い結果となった。

電通若者研究部調べ(全国大学生男女100人)

電通若者研究部調べ(全国大学生男女100人)

 最近では、「インスタジェニック」という言葉も生まれた。若い人たちは、行った場所、買ったもの、食べている料理などいろいろなものをインスタグラムにアップする。インスタグラム(を含めたSNS)は、彼らにとって自分が住む世界・日常を、人に見てもらうもの。いわば、セルフブランディングをアピールする場である。その時、その写真を載せることで、自分の世界・日常がいかに充実している(リア充)ように見えるか、簡単に言えば、いかにイケているかを気にする。行列のできるパンケーキ、日本上陸したばかりのコーヒースタンド、カラフルな雑貨、海外発のフェスやイベント、旅先での集合写真。彼らは自分の世界や日常生活がおしゃれなものに囲まれ、充実しているものに見えるために、常にインスタグラムに載せた時におしゃれに見えるもの、つまり「インスタジェニック」なものを求めているのだ。

実際にインスタグラムに投稿された「インスタジェニック」な写真例

実際にインスタグラムに投稿された「インスタジェニック」な写真例

 この影響は消費にも現れている。モノを買わないと言われている最近の若い世代だが、人とのつながりをつくる「コミュニケーションのための消費」は盛んだ。彼らのモチベーションはSNSでどれだけ「いいね」がもらえるかどうかである。「たくさんの反応がもらえる=コミュニケーションがとれる」投稿をするための消費は積極的に行っている。その中でも、写真の投稿がメインであるインスタグラムでは、やはり、写真に写した時に映えるかどうか、インスタジェニックかどうかが重要となってくる。インスタグラムではコメントのやりとりが頻繁に行われることは少なく、他のSNSにみられるような「ネタ投稿」は少ない傾向がある。彼らはインスタジェニックな場所に行き、インスタジェニックなものにお金を払う。

 インスタグラムでは、写真の詳しい説明の代わりに#(ハッシュタグ)で区切られたいくつかのキーワードを写真と一緒に投稿する。この仕組みはSNSの使い方にも変化をもたらした。SNSが検索エンジンと同様に使われるようになってきたのだ。例えば、銀座でケーキが食べたいと思ったとき、今まではGoogleなどの検索エンジンで「銀座 ケーキ」などと検索をしていた。しかし、最近の若い人たちはインスタグラムの検索機能で「#銀座」「#ケーキ」と検索する。すると、先ほどのハッシュタグで投稿された写真が出てくる。彼らは実際に投稿されたケーキの写真を見ながら行きたいお店を探す。多くの人に投稿されているケーキこそ人気のあるケーキだと認識し、話題のお店を見つけることができる。それは、検索エンジンで検索し、大量のお店リストの中から飲食店のレビューサイトの点数を確認しながら見つけるよりも、無駄がなく、効率の良い検索手段だと思われている。もちろんここでも、そのケーキがインスタジェニックかどうかも重要な要素だ。そもそも、インスタジェニックでないものは、このインスタグラムを利用した検索上には存在せず、彼らの選択肢の中に入ってくることもないのだ。はじめから自分に関係のないものはヒットしてこないこの「SNS検索」は、デジタルネイティブでもある若い世代にとって、最も使い勝手の良い情報探索手段であるのではないだろうか。

 最近では、独自にインスタグラムのアカウントをもつ企業や、広告を配信する企業が増えてきた。従来活用されてきたしっかり情報を伝えるメディアとは異なり、インスタグラムではセンスの良さや世界観を伝えることが重要である。企業側からの発信であっても、彼らの目に留まるために、インスタジェニックな写真であることは必要不可欠な条件だ。情報洪水の中で育ってきた若い世代だからこそ、情報の取捨選択を常に意識しながら成長してきた。その中で、情報を取りに行く手段や基準が変わってきていることは自然なことだと言える。

大蔵 桃子(おおくら・ももこ)

電通 マーケティングソリューション局 プランナー/電通若者研究部(ワカモン)研究員

2008年 電通入社。化粧品メーカー、製薬会社、飲料メーカー、食品会社、金融、公社などのマーケティング、コミュニケーションプランニング、商品開発、企業ブランディングを担当。世代別の行動・価値観をテーマに、電通若者研究部(ワカモン)・10~20代女子研究「電通ギャルラボ」など、プランニング現場へ活かす研究プロジェクトにも従事。

木伏 美加(きぶし・みか)

電通 マーケティングソリューション局 プランナー/電通若者研究部(ワカモン)研究員

2013年電通入社。アウト・オブ・ホームメディア局にて、メディアプランニングやバイイングを行った後、マーケティング部門に異動。飲料・お酒メーカー、トイレタリー、出版社などのマーケティング、コミュニケーションプランニングを担当。電通若者研究部(ワカモン)メンバーとして、若年層向けコミュニケーションプランニングやワークショップも行う。