マーケティングキーワード

「動画時代のES-M-L(エス・エム・エル)」

電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 副主任研究員 天野 彬氏
Keyword

コミュニケーションの「いま」性が高まる中で、動画利用の盛んな若年層ユーザーたちが重視するトレンド。〈ES〉=「一定時間後に消える」「短い」、〈M〉=「加工機能で盛る」、〈L〉=「ソーシャルなプラットフォーム上でライブ配信」という3つの特徴を表現したキーワード。

 スマートフォンの普及で、私たちはよりビジュアルを通じたコミュニケーションにいそしむようになった。それは、最近では通信環境やスマホアプリの拡充によって、写真から動画へと広がりを見せている。電通総研では2016年第4四半期に「若年層のビジュアルコミュニケーション調査」を実施し、ユーザーたちは動画をどのように活用しシェアしているのかを明らかにした。その特性をキーワード化したものが、「動画時代のES-M-L」である。(注1)

動画時代のES-M-L

動画時代のES-M-L

〈ES〉短い時間の動画を好んでつくり消費し、〈M〉自分や体験を盛ってコンテンツ化しつつ、
〈L〉ライブでいまのことにフォーカスして発信するという特性。

 ここから、それぞれの特性について説明を加えてゆきたい。

〈ES〉Ephemeral/Short:すぐ消える、短い動画の利用が活性化

 現代のスマホユーザーは、その情報環境の特性から、アテンションが細切れになりやすく、コンテンツ尺も短い時間のものを好むようになっている。また、メールやメッセンジャーでのやりとりがスクショ(スクリーンショット)されて広まってしまうなどのリスクが知られるようになり、「消える=ログが残らない」ことの価値が根付き始めている。

 このような背景のもと、「短時間で消える」機能を持つサービスの人気が全般的に高まっており、特にSnapchatとInstagramが提供する「ストーリー機能」は注目に値する。どちらも投稿後1日経つと自動的に消滅するというフォーマットで、ユーザーの「いま」を10秒程度の短い動画として投稿・シェアするための機能だ。今後は動画広告の配信先としても注目されている。

 Snapchat Storiesの方が数年早く発表されているが、「よく使う」「たまに使う」の合計が17.1%に留まったのに対して、Instagram storiesは21.2%というスコアになった。

 この差の要因として、日本国内においては既にInstagramが普及しユーザー間のつながりが築かれており、動画をシェアするにあたっての「宛先」が多くあった。すなわち、ネットワーク外部性(あるサービスを利用する人数が増えるほど、そこから得られる便益が増加する現象)が働いた点を挙げられるだろう。

〈M〉Moru:画像や動画は加工して「盛る」

 日本のスマホユーザー、特に女性ユーザーの情報行動を読み解く上で欠かせない視点が、「M:Moru」である。10代女性においては平均して1投稿あたり3個もの写真加工アプリが使われる。フィルターをかける、文字を書き込む、絵文字やスタンプ・ステッカーで飾る……などの多様な加工技術に、プリクラから連綿と続く日本の「盛る」文化の継承線を見いだせる。

 また最近では写真だけではなく動画を「盛る」ための、動画フィルター機能(リアルタイムでユーザーの顔などに「犬の顔」などの加工を施してくれるもの)も人気を博しており、動画フィルターを使う他のユーザーのマネをして多くのユーザーが使い始めることが調査からも分かっている。

 こうした動画フィルターは、新しいタイプの「使ってもらえる広告」として機能するポテンシャルを大いに秘めている。ユーザー同士が楽しみ、そして盛り上がっているような日常のコミュニケーションの場に、ブランドがコンタクトポイントを築く機会が得られるのだ。

〈L〉Live:ライブ配信のSNSシフトへの兆し

 ライブ映像のネット配信サービスには長い歴史があるが、いま改めて注目するのはライブ配信の「SNSシフト」という要因が重要性を増しているためだ。下記チャートの「調査回答者全体」の利用率(注2)で見ると、スコア上位から順に「ニコニコ生放送」「Facebook Live」「LINE Live」となるが、「そのサービスを認知している人」を対象にした利用率(注3)スコアで見ると、1位のFacebook Liveが42.9%となっているのを筆頭に、「ソーシャルメディア上で提供されるサービス」が強さを発揮していることが分かる。

 こうしたES-M-Lが重要になる背景として、ウェブを通じたコミュニケーションの「いま」性が高まっている点を指摘したい。「ES」も「M(盛り上がるの側面)」も「L」も、ユーザーの体験する時間に関連する特性を指しているという共通性があるのだ。これは、コンテンツ過多な現代の情報環境において、ユーザーが1回性の時間/機会のリッチネスを求める機運が高まっている証しだと解釈できる。

 今後は各種SNSでES-M-Lの機能/サービスがより高度に整備され、ユーザー側もそれに合わせたコミュニケーションを行うようになっていく。「SNSのビジュアルコミュニケーション化」が推し進めるのは、生活者の自己発信やメディア化、すなわち「メディア」という概念の更なるイノベーションである。それは、そのような「生活者のメディア化」を支援することが、企業やブランドのプロモーションにより生かされる時代への転換でもある。

(注1)電通総研「若年層のビジュアルコミュニケーション」調査
(注2)「調査回答者全体」の利用率:回答者全体で対象となるサービスを現在利用している人の割合
(注3)「そのサービスを認知している人」を対象にした利用率:「対象となるサービスを知っている」と回答した人の中で、そのサービスを現在利用している人の割合

天野 彬(あまの・あきら)
天野 彬氏

電通 電通総研 メディアイノベーション研究部 副主任研究員

1986年生まれ。東京都出身。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。
2012年電通入社後、マーケティング部門、新規事業開発部門を経て、14年から現職。 共著書に『二十年先の未来はいま作られている』(2012年、日本経済新聞出版社、共著)、『情報メディア白書2016/2017』(2016/2017年、ダイヤモンド社、共著)。その他、日本マーケティング協会や宣伝会議などでのセミナー講師など経験多数。

この記事にいいね!

「動画時代のES-M-L(エス・エム・エル)」

マーケティングキーワード新着記事

PAGE TOP