「ウェザーマーケティング」

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天候や気温等(気象データ)を、商品やサービスのマーケティング活動に活かしていく手法。企業の事業成果に大きな影響を与える天候や気温などのデータを用いて、事業のマーケティング戦略の立案及び活動を行うこと。

 気象データをビジネスに活用して、事業成果を拡大させようとする動きが活発になってきている。

 そもそも天気予報は、様々な生活者の心理・行動に影響を与え変化を生じさせる情報の一つだ。その変化によって、企業はある時は多大な好影響を受けたり、またある時は甚大な損害を被ったりと、事業を展開する企業にとって無視できない事象といえる。

 さらに近年頻発している異常気象によって、生活者の天気予報への関心は年々高まっており、日常生活の中でもかなり注目度が高い情報の一つとなりつつある。

 気象データは、これまでマーケティングに活用されることはそれほど多くなかった。しかし、ビックデータが注目され、企業の事業成果向上に活用され始めた今、天気予測の精度の向上や生活者の関心の高まりなどから、気象データをマーケティングに活用し、事業成果を向上させようという動きが活発になってきている。

 飲料・アルコール飲料業界であれば、気温の上昇と連動させたキャンペーンを展開したり、外食業界であれば、自社で配信するメルマガと天候を連動させた情報配信により集客を行ったり、その他日用雑貨、アパレル、医薬品など、気象データを活用した取り組みを行っている企業が増えている。

 また、広告やメディアを運営する側も、屋外サイネージで気象連動広告を展開したり、アプリ内で気象連動型広告を出したりといった動きも出てきており、今後も活性化しそうだ。



 気象データをマーケティングに活用する例はいくつかあるが、代表的な例としては、商品やサービスの需要予測、生活者の心理・行動変容を捉えた的確な情報配信などが挙げられよう。

 需要予測は、過去の気象データと商品やサービスの相関分析から、気象条件によって商品の売れ行きに変化があったかどうかを分析するもの。これがわかれば、気象データを使って需要が高まるタイミングを予測でき、適切な施策が打つことができる。こうした気象データによる需要予測効果は、年間1,800億円にもなるという(図1)。具体的には、POS(販売時点情報管理)データの過去データと気象データを掛け合わせて統計を取り、気象と商品の売れ行きの相関関係を読み取ることで、次の打ち手を提案できるようになった。さらには、商品の仕入れや人材投資の最適化、生産管理に及ぶまで、様々な対策を講じることが可能となる。

【 図1 】日本気象協会のニュースリリースより

 一方、天気予報は生活者の心理・行動にも影響を与える。この予測データを使えば、心理・行動変容が起きるタイミングを捉えることができると同時に、的確なタイミングで情報を届けることができる。これにより、狙った行動に導ける確率は格段に上がるだろう。これまで行ってきた年代や性別などの属性データに加え、気象データの活用により、よりパーソナライズされた情報配信が可能となる。

 当社でも、この気象データとクライアントの顧客の居住データを掛け合わせ、心理・行動変容を起こさせる気象予測情報と共に、その気象時に最適な情報を自動で配信し、狙った行動に導く確率を上げていく「ウェザー&モーメントキャプチャー」を開発、提供を開始した。まだ検証段階だが、気象条件をトリガーにその気象にマッチする情報を自動で配信することで、顧客のモーメントを捉えながら、パーソナライズされた情報を届けることができるソリューションとなっている。

 本来広告やプロモーション等の目的は、接触することにより、心理や行動に変化をもたらそうというもの。天気予報も、心理や行動に変化を起こす情報という意味では同様の効果があり、広告やプロモーションといった企業のマーケティング活動に生かすことにより、さらに高度なマーケティングが可能になるだろう。

 まだまだ気象データのマーケティング活用は、発展途上である。パーソナライズ化やモーメントを捉えることが重要視されてきている今、これらをマーケティング活動の中に取り込むことによって、One to Oneマーケティングの実現に近づくことができるだろう。

田中 陽(たなか・あきら)

電通テック ビジネスディベロップメント室 パートナービジネス部 部長

食品、飲料、日用雑貨、エネルギー、公営競技など幅広い業種のプロモーションやコミュニケーションプランニングに携わる。現在は、そのノウハウを生かしてマーケティング・プロモーションのコンサルティング業務に従事。気象データ×マーケティングをテーマにした活動にも注力している。