「カスタマーサクセス」

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カスタマーサクセスとは「顧客に伴走し顧客を成功に導くことで、顧客との継続的な関係性を構築する営み」。具体的には、モノやサービスを「より良く買っていただく」活動ではなく、「より良く使っていただく」活動。

 カスタマーサクセスとは、主にクラウド型サービスを提供するB2B企業が契約した顧客企業の事業成功に向けて共に伴走する活動の事を指す。具体的には、例えば顧客企業の契約サービス利用状況を定期的にログ分析しながら、顧客の成功に向けてより良い使い方を支援する活動である。これらのB2B企業内にはカスタマーサクセス専門の組織も存在している。

 最近では、このカスタマーサクセス志向がB2C企業でも取り組まれている。B2B企業における考え方と同じく、顧客に伴走しながら顧客との「信頼のベース」を築く活動である。この活動は、下図のようにより良く売る事を目的とした活動の管理フレームである「ファネル」では表現しきれない活動と言える。

 では今、なぜB2C企業はカスタマーサクセスに取り組んでいるのか。

 一つには、事業指標の変化である。事業指標として「顧客との長期関係性(Life Time Value=LTV)」が重視され始めている。これは加速化する人口減や商品機能のみによる競合差別化が難しくなり新規客の獲得効率に限界が見え始めた中で、既存客との関係を強化して顧客一人あたりの生涯利益を増やす事が重要になってきたことが理由である。

 二つ目には、デジタル化がある。モノがインターネットにつながるコネクティッドやIoTの時代において、企業側で顧客のモノの利用状況を把握する事が可能となり、より良い使い方の示唆を提示する事が可能になった。ある自動車会社では、顧客の走行データをコネクティッドデータとして分析する事で、より安全かつエコな運転のアドバイスを定期的に顧客に提示する事で「信頼のベース」を築く活動をしている。

 三つ目には、生活者の価値観変化だ。生活者の求める価値が「所有」から「利用」にシフトする中、企業はサブスクリプションサービスなどの事業モデル変革に乗り出している。利用いただくサービスを長期継続してもらう為には、顧客の日常の中に多くの接点を創り、得られたデータから様々な予兆を捉え、適切に働きかける事が必要だ。このサイクルが競争力となる。今、顧客の日常の中に接点を創る為、カスタマーサクセス志向による顧客への寄り添い活動こそが必要だと考えられ始めている。

 これらカスタマーサクセス活動は時に組織変革の必要性も伴う。なぜならば、特にメーカー企業においては、LTVを指標に設定されている組織や顧客に直接寄り添う組織の存在が少ないためだ。あるメーカー企業では、唯一顧客との直接接点を持つ業務を担っていたコールセンターをカスタマーサクセス組織へと変革させている。これまでのコールセンターは主に顧客にフリクションが発生した時にインバウンドで対応を行っていたが、カスタマーサクセス組織においては顧客のフリクション発生をデータで察知し、デジタル接点も駆使し事前に防ぐといったようなアウトバウンドな顧客対応の変革が求められている。

 カスタマーサクセスは、これまでの企業と顧客の関係さえも変えるかもしれない。企業と顧客が一体となりながら、顧客の成功をゴールに、企業が提供するサービスを共により良いものにしていくといった「主客一体」の発想をベースとした事業変革やマーケティング変革が必要となる日も近いと感じる。

魚住高志(うおずみ・たかし)
魚住高志氏

電通デジタル サービスプロセスデザイン事業部長

マーケティング領域における「ビッグデータ」と「クラウド」の可能性に早期から着目し、それらを活用したソリューション開発やクライアントの事業変革コンサルティングに従事。それらをテーマとした記事執筆や講演も多数。現在は主に自動車や保険、エネルギー業界を中心に「顧客との関係を維持し続ける仕組みづくり」の支援を行っている。