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「ユーザーイノベーション」

博報堂ブランド・イノベーションデザイン ディレクター 岡田庄生氏
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ユーザーイノベーションとは、ユーザー(生活者)自らが、自分のために独自の製品やサービスを開発したり、既存の製品やサービスを改良したりするなどして、イノベーションを生み出すこと。BtoC領域のみならず、BtoB領域でも存在する。

ユーザーから生まれるイノベーション

 従来、イノベーションを生み出すのは企業であり、ユーザー(生活者)はそれを使用する存在という位置付けであった。こうした中、1970年代後半にMIT教授のエリック・フォン・ヒッペルらによって、ユーザーから生まれるイノベーションの存在が明らかにされた。

 例えば、サイクリングショップの店頭にならぶ「マウンテンバイク」は、自転車メーカーではなくユーザーから生まれたイノベーションの一つである。米カリフォルニアの若者たちが、起伏が激しい山道を自転車で走行するために、自らタイヤやブレーキを改造して遊んでいた。仲間内で盛り上がり、様々な「山用自転車」がユーザーによって生み出されていることを発見した自転車会社が後から製品化して、今日のようなマウンテンバイク市場へと発展していった。

 このような、高いイノベーション能力を持つ生活者(ユーザーイノベーター)の存在に着目し、企業のマーケティングや製品開発に生かそうとする動きが活発化している。ただし、ユーザーイノベーターの数は多くはなく、通常のユーザーインタビューなどで出会える確率は非常に低い。ユーザーイノベーションを活用するための代表的な二つの手法、すなわちリード・ユーザー法とクラウドソーシング法を紹介する。

企業が活用するための2つの方法

 リード・ユーザー法とは、企業がリード・ユーザーと呼ばれる先進的なユーザーを発見し、その情報からイノベーションを生み出す方法である。リード・ユーザーは、ユーザーの中でも特に市場の最先端に位置しており、生み出されたイノベーションから高い便益を得るという特徴がある。例えば、スポーツ用具を製造するメーカーが一流のアスリートの要望で新たなイノベーションを生み出す様子などは、リード・ユーザー法といえる。

 クラウドソーシング法とは、インターネットを利用して「群衆」(クラウド)の知恵を使い、玉石混交の中から有力な情報を選びイノベーションを生み出す方法である。例えば、自社のファン・コミュニティーや外部の共創プラットフォームの会員に対して、アイデアコンテストなどを通じてアイデアを募集する方法は、クラウドソーシング法にあたる。

発案者がユーザーであるという表示の効果

 さらに、ユーザーのアイデアを活用して生まれた製品を発売する際に、製品アイデアの発案者がユーザーであるという情報を表示することで、一般生活者の購買意欲を高めることも明らかになっている。

無印良品の実験で使用されたPOP。右のPOPを掲示した店舗の方は、販売量が約1.2倍であった。

 例えば、無印良品がクラウドソーシング法を用いて開発した新製品を発売する際に、「お客様の声から生まれた」と書かれたPOPを提示した店舗と、そうでない店舗の販売量を比較したところ、製品や金額などは全く同じにもかかわらず、「お客様の声から生まれた」と明示した店舗の販売量は約20%高かった。これは、「自分と同じようなユーザーが関わっているのであれば、良い品質に違いない」と生活者に推測させる効果が働いていると考えられる。

 このように、ユーザーイノベーションは製品開発から販売促進まで、マーケティングの様々なプロセスに影響を与える現象である。インターネットの発達や3Dプリンターのようなデジタル工具によって、ますますユーザーがイノベーションを生み出す機会は増えると考えられる。企業はユーザーを、自社の商品を使う人としてだけではなく、共にイノベーションを生み出すパートナーとして捉え直す必要があるのかもしれない。

<参考文献>
  • エリック・フォン・ヒッペル『民主化するイノベーションの時代:メーカー主導から脱却』ファーストプレス刊、2006年。
  • 小川進『ユーザーイノベーション:消費者から始まるものづくりの未来』 東洋経済新報社刊、2013年。
  • Hidehiko Nishikawa, Martin Schreier, Christoph Fuchs and Susumu Ogawa(2017) “The Value of Marketing Crowdsourced New Products as Such: Evidence from Two Randomized Field Experiments,” Journal of Marketing Research, 54(4), 525-539.
岡田庄生(おかだ・しょうお)
岡田庄生氏

博報堂ブランド・イノベーションデザイン ディレクター

2004年博報堂入社。ブランド・イノベーションデザイン局にて、企業のブランド戦略立案、新製品・サービスの開発、人材育成のための研修などを担当。「博報堂ユーザーイノベーションプログラム」プログラムリーダー。著書に『プロが教える アイデア練習帳』(日経文庫:日本経済新聞出版)など。経営学修士(MBA)。法政大学大学院博士後期課程在籍。多摩美術大学 非常勤講師。日本広告学会 理事。

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