検索ワードから新聞閲読者のインサイトを探る
前回は、ウェブサイトの接触履歴や検索履歴と、マスメディアの接触をシングルソースデータとして分析できるシステムである「dentsu-CONNECT MEDIA®」(※1)から、新聞閲読者の検索行動の概況や目的の特徴についてのデータを紹介した。
今回も同様に、朝日・読売・日経新聞の朝刊閲読者である「全国紙閲読者」(n=2,767)と「非閲読者」(n=686)との比較データを中心に報告していく。(分析対象期間=2009年8月1日~9月30日。対象検索履歴=代表的な8つのポータルサイト)
全国紙閲読者は「ヘッド型」、非閲読者は「ロングテール型」
新聞閲読者と非閲読者では、検索ワードの数や種類などに違いがあるだろうか。ここでは、パソコンでの検索行動が活発なM1層(20~34歳・男性)を例に、検索ワードについての分析を行った。図1―1は、全国紙閲読者と非閲読者ごとに、ワードに対する検索者の数を降順に分布させたグラフである。つまり、左には検索人数が多い「ビッグワード」が並び、右に行くほど検索頻度が少ないワードということになる。上位ワードでは全国紙閲読者の検索人数が非常に多いことから、「ヘッド型」ともいえるだろう。
一方非閲読者では、少人数にしか検索されないワードが多く、分布が右側に長く伸びる「ロングテール型」(Anderson 2004)が特徴的である。全国紙閲読者では、約3,700超なのに対し、7,000を超えるワードが検索されている(図1―2)。非閲読者は、個人の興味や関心が分散し、とらえどころがない層だといえるだろう。
この結果から、全国紙閲読者はマスボリューム(人気ワード)で検索することが多く、比較的同傾向のワードを検索していることが分かった。「その時々で調べておくべき情報」や、「世間一般で話題となっている(であろうと自分なりに考えられる)情報」を、インターネットから検索している傾向が読み取れる。メディア特性の観点から見ると、新聞が世論形成や議題設定の機能を有し、それが検索行動にも表れていると考えられる。
検索行動におけるメディアインサイト「ソーシャルイシュー」
では、全国紙閲読者と非閲読者の検索ワードにおいて、量のみならず内容面での違いがあるだろうか。引き続きM1層(20〜34歳・男性)を例に、分析対象期間内で共通に関心があると思われる「選挙」(※2)と「コミュニケーション型ネットサービス」を取り上げ、のべ検索者数の割合を比較した(図2―1)。全国紙閲読者では非閲読者に比べ、「衆議院選挙」「選挙速報」などのほか、具体的な政党名での検索者数の割合が多くなっている。
一方、「コミュニケーション型ネットサービス」で見ると、非閲読者の検索者数が全国紙閲読者を上回った(図2―2)。新聞の閲読有無という属性の違いが、検索の内容にも反映されているようだ。すなわち、新聞閲読者は、日ごろから社会的なできごと(ソーシャルイシュー)に関心が高く、その価値観が検索行動にも反映しているのかもしれない。
近年、企業の環境への取り組みやCSRなどが、消費者のブランド選好や企業評価、購買行動に影響を与えているといわれている。企業が社会的なテーマにそってコミュニケーション活動を展開する際には、新聞閲読者のこうした性質は見逃せない特徴と言えるのではないだろうか。
新聞閲読有無による検索内容の質的差
これまでの2回にわたる分析結果の報告より、検索行動分析におけるいくつかの示唆を得た。
まず、全国紙閲読者と非閲読者を問わず、インターネットによる検索行動はコモディティ化していた。検索ワードの質的アプローチからの特徴を見ると、新聞閲読者は「ヘッド型」、非閲読者は「ロングテール型」の傾向があり、両者を「興味の社会性」や「興味の分散」という側面でとらえることができそうだ。
また、企業のコミュニケーションの側面から見ると、こうした新聞閲読者のヘッド型検索行動の特徴を生かし、新聞メディアが世論形成や議題設定の機能を発揮すれば、マーケットに占める多くの消費者を効率的に情報収集へと向かわせる有効な装置と位置づけることができそうだ。さらに、メッセージに新聞閲読者の関心事を盛り込むことで、検索行動が促進される可能性もある。そのひとつの要素として、新聞閲読者のソーシャルイシューへの関心は有力ではないかという仮説が成り立つ。
次回は、具体的な広告事例と検索の反響データを通じ、どのようなメッセージが検索行動に影響を与えるのかなど、検索導線を効果的に行う新聞広告活用のための分析結果について、報告していきたい。 (第3回に続く)
(※1)全国1万数千人パネルの自宅パソコンにソフトをインストールし、ウェブ行動を24時間365日追跡可能なビデオリサーチインタラクティブの「WebReport/WebPac」をデータソースとして、インターネットでのサイト接触や検索履歴データを基点とした分析が可能
(※2)分析対象期間内中に、第45回衆議院選挙が行われた
(電通 ビジネス統括局 プラットフォーム・ビジネス開発室
マーケティング・スーパーバイザー 春田英明/チーフアナリスト 魚住高志/リサーチャー 廣田周作)
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