「広告の印象」を「共感」などの5因子に分類
J-MONITORの個別定型調査では、新聞に掲載された広告の印象とその広告を見た後の購入意向などの態度変容について尋ねている。
そこで本稿では、どのような広告の印象がその商品ブランドに対する購買意欲を高め、態度変容につながるのかを、J-MONITORの個別定型調査の蓄積データを使って探った。
使用したのは、朝日新聞東京本社版(2012年3月〜2017年12月)に掲載された商品広告11,046件の個別定型調査データで、個別の広告について女性ベースで算出したスコアを使って分析した。
まずは、広告の印象について見てみよう。選択肢が「よい広告を出している」など13項目に及ぶので、因子分析という統計的手法を使って分類したところ、5つの因子を抽出できた(表)。
※対象:2012年3月~ 2017年12月 朝日新聞東京本社版 総広告件数(n)=11,046
※因子分析によって「広告の印象(13項目)」から5因子を抽出
※因子抽出法:最尤法
※回転法:Kaiserの正規化を伴うバリマックス法
5因子の名前は、因子負荷量の大小によって解釈し命名したものである。第1因子「共感」は「よい広告を出している」「共感できる」「説得力がある」の負荷量が大きいので、「共感」因子と名付けた。以下「読みやすさ」「有用性」「オリジナリティ」「話題性」因子と名付けた。
「共感」「有用性」因子が購買意欲に影響
この5因子を説明変数として、「購入意向」など態度変容との関係を重回帰分析という統計的手法を使って分析し、標準化係数を比較したのが図である。標準化係数が大きい因子ほど、それぞれの「態度変容」に対する影響力が大きいことを表している。
※対象:2012年3月~ 2017年12月 朝日新聞東京本社版 総広告件数(n)=11,046
※「広告の印象」の5因子を説明変数、「態度変容」の4項目をそれぞれ従属変数として重回帰分析
※標準化係数はいずれも有意水準1%で有意
※決定係数は左から順に0.28、0.17、0.10、0.29
「購入意向」に対しては「共感」「有用性」因子の標準化係数が大きいことから、購買意欲を高めるには、「共感」「有用性」を高めることが重要であることが分かる。
「共感」からつながる情報の拡散
「ホームページを見たい」に対しては「共感」の標準化係数が、「ネットで比較したり、調べてみたい」に対しては「有用性」の標準化係数が大きいことから、読者は、広告に共感することでその企業のホームページを見たり、広告の商品の有用性(「役に立つ」「自分たち向けの」)を感じることでネット検索したりする。そんな情報行動が推測される。
また、「まわりの人と話題にしたい」に対しては「話題性」だけでなく、「共感」の標準化係数が大きいことから、情報を拡散するためには「共感」が大切な働きをしていることが分かる。
以上の結果から、「共感」が読者の購買意欲を高め、情報の共有や拡散を引き起こす重要な役割を果たしていることが分かった。
読者が最も「共感」した広告は
最後に「共感」因子の得点が最も高かった、つまり女性読者が最も共感した広告を紹介しよう。ある衣料品専門店の広告で、「世界中の難民・避難民に寄贈するため不要になった服を近くの店舗に届けてください」と訴求している。新聞読者の社会貢献や環境など社会課題に対する関心の高さをうかがわせる事例と言えよう。
「役に立つ」「自分たち向けの」といった有用性だけでなく、「共感」というキーワードでいかに女性の心をつかみ消費行動につなげるか。「共感」を呼ぶマーケティングの重要性がますます高まることを予感させる分析結果となった。
(朝日新聞東京本社 メディアビジネス局 マーケティング・ディレクター 真板 誠)
◆特集「顧客に寄り添う─ 共感コミュニケーションのいま」はこちら
■J-MONITOR
調査地域: 首都圏【東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県】
調査対象: 調査対象地域に居住し、朝日新聞を朝夕刊セットで定期購読する
15~69歳の男女個人
抽出方法: 新聞広告及びインターネット調査モニターパネルからの公募
応募者をJ-READの当該地域・対象者の性×年齢・職業・家族人数等の属性に従い割付
調査方法: パソコンを利用したウェブ調査
標本サイズ: 1パネルあたり約300人の複数パネルを交互に運用
実査機関・レターヘッド: ビデオリサーチ
※J-MONITORの定型調査項目などの詳細はJ-MONITORオフィシャルサイトに掲載されています。
◆PDFでもご覧いただけます
冊子『広告朝日』19号掲載 Data&Analysis(659KB)