広告の態度変容からみた新聞広告の役割 ~情報感度に合わせたアプローチを考える~

生活者の広告への反応は低下しているにもかかわらず、情報感度は上がっている-。今の生活者の情報への欲求に応えるメディアプランニングや、広告の受容性を高めるために必要な考え方について、広告出稿配分や広告効果検証の分析、コンサルティング業務に従事するビデオリサーチの吉田正寛氏に話を聞きました。

 「広告が効きづらい」という声をよく聞くようになって久しくなりました。受け手である生活者は様々なメディア/コンテンツから膨大な量の情報を得るようになり、いわゆる情報疲れのような状態になっていることも一因と考えることができます。
 この点について、ビデオリサーチの生活者データベース「ACR/ex(エーシーアール・エクス)」で生活者の情報感度と広告への態度を時系列で比較すると、興味深いことが見えてきました。

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 図表1:生活者の広告への反応と情報感度の推移(%)

 図表1は、コロナ禍前後である2019年と2024年の情報感度と広告への態度を確認した結果です。広告への反応は低下しているにもかかわらず、情報感度は上がっていることがわかります。生活者は自分の興味関心事についてより情報を求める傾向が強まっているのです。
 一方で、企業がコミュニケーションを行う広告への反応は低下している点から、コミュニケーションの仕方に課題が生まれていることが伺えます。

 生活者のブランドに関する情報入手経路を様々なカテゴリーで確認した筆者の研究では、情報入手経路として伸長する接点に「SNS」「企業サイト」「テレビ番組」が挙がりました(吉田,2025)。これらは、昨今よく活用されるインフルエンサーマーケティングやオウンドメディアといったコンテンツマーケティングに含まれる接点です。こうした新たなマーケティング手法は、高い態度変容効果を期待して近年様々なアドバタイザーが起用しています(土山,2024)。広告もコンテンツとして生活者のもつ高い情報への欲求に応えることが求められているといえるでしょう。

 生活者の情報欲求に応えるためには、生活者が「そのメディアに期待する構え」を理解し、それに合わせたコミュニケーションを行うことが重要になります。生活者がもつ各広告メディアの印象比較を通して、これについて考えてみます。「ACR/ex」の「広告の印象」項目は、各メディアの役割を広告の観点からとらえる項目で、図表2のように30項目で構成されます。

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 図表2:パーチェスファネル別の「広告の印象」項目

(※)パーチェスファネルとは、ユーザーの購買決定プロセスを説明するフレームワークである「AIDMA(アイドマ)」の考えを基本として作られたマーケティングファネルです。

 これをテレビCM、新聞広告、インターネット広告(静止画、動画それぞれ)、SNS広告と、近年注目されるリテールアドを対象にメディア内で偏差値化することで、各メディアの広告印象として強いものをあぶりだしました。その結果が図表3です。

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図表3:各メディアで特徴的な「広告の印象」

 これをみると、テレビCMは「商品名が印象に残る」「新製品の名前を覚えやすい」といったインパクトに関する印象が高いといえます。インターネット広告は「広告の内容をインターネットで調べる」「広告を見聞きして、商品やサービスを欲しくなったり、利用したくなることがある」という、より個人の趣味趣向に沿った印象が高い結果です。リテールアドでは「商品やサービスの価格がよくわかる」という、購買現場の判断材料に関わる印象が高くなっています。新聞広告では「広告の内容をしっかり見る」「商品やサービスの内容が理解しやすい」という内容理解に関する印象が高い結果でした。

 このように、それぞれのメディアは生活者の印象が異なり、それぞれの態度変容役割を担っていることがわかります。興味深いのは「広告を見聞きして、実際に商品やサービスを購入(利用)したことがある」に関しては各メディアでほとんど差が見られない点です。購入に対する印象は均一である一方、そこに至る態度変容上のプロセスで担うメディアが異なると考えることができます。

 そのプロセスの中で近年重要度が増すものは、「生活者の高い情報感度」を鑑みると内容理解ではないでしょうか。昨今こうした点でインフルエンサーマーケティングやオウンドメディアへの期待が集まりますが、新聞広告も改めて活用の可能性があるといえるでしょう。

  前章では生活者の広告メディアに対する印象の違いをみてきました。実際にそこで広告を見た場合に「商品・サービスにどのような印象」を持つのでしょうか。

 筆者はこの点について、それぞれの情報接点で広告をみた場合、その広告の企業やブランドにどんな印象を持つのかを問うことで可視化を試みました。この設問は、各メディアで図表4のイメージワードを提示し、当てはまるものを複数回答するものです。

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図表4:パーチェスファネル別の「商品・サービスにもつ印象」項目

 その結果を先ほどと同様にメディア内で偏差値化することで、商品・サービスの広告の効果として強い印象をあぶりだしました。結果をメディアごとに整理し、商品・サービスへの印象として強いもの上位5項目を図表5に示します。

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図表5:各メディア広告でみたときの商品・サービスにもつ印象(メディア内偏差値ベスト5)

 これをみると、テレビCMは刷り込まれることによる身近さや定番感の醸成が得意といえます。一方、インターネット広告やSNSは、自分事に関連した検索喚起に加え、流行感醸成も担っています。流行はネット、定番化はテレビCMというすみ分けが見てとれます。
 リテールメディアであるスーパーやコンビニの店頭店内では、より商品の購買に近い印象醸成が強い傾向がみられますが、他メディアに比べて偏差値スコアが低い点は留意しないといけません。

 新聞では、定番・お墨付き感に加え、役立つ、信頼できる、質がいいといった商品・サービスの特徴にまで踏み込む点が他との違いでした。前章で確認した新聞の内容理解に対するメディア期待により、商品・サービスの広告をしっかり見ることで理解が促進される結果、その商品サービスの信頼感や良質感醸成に繋がるのかもしれません。

 ここまで、各メディア固有の態度変容価値を、単一の各メディアに焦点を当てて確認しました。しかし昨今のメディアプランニングでは「クロスメディアプランニング」が主流になり、様々なメディアを有機的に組み合わせて活用することが一般的です。

 過去のマーケティング領域の研究でも、単一メディアよりも複数のメディアを活用したほうが、態度変容効果が高いことが示されています。猪狩・河原(2014)では、複数活用することで2つのメディア単一の効果を足し上げた以上のシナジー効果が存在することを過去の広告評価調査の統計処理結果から導いています。ここでは、ビデオリサーチの特許分析技術『クロスメディア推計』(※)を用いて、各メディアの出稿に新聞広告を組み合わせた際に期待できるリフト効果を確認しました。

 クロスメディア推計は、各メディアと新聞の両方を利用する人における当該メディアいずれかの態度変容を算出し、それを各メディアのみ利用する人の当該メディアの態度変容で割ることで、新聞広告を重複接触させることで期待できるリフトをインデックスとしたものです。図表6は、図表3で確認した各メディアの得意とする態度変容役割が、新聞広告をクロスさせることでどの程度リフトしたのかを、クロスメディア推計の算出ロジックで可視化したものです。

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図表6:各メディア広告に新聞広告を加えた際に期待できるリフト

 これをみると、いずれのメディアでも新聞広告を加えてプランニングすることで高い態度変容リフトが期待できることがわかります。新聞が得意とする「広告の内容をしっかり見る」「商品やサービスの内容が理解しやすい」では2倍前後、高いメディアでは3倍リフトすることが期待できる結果でした。それだけでなく、他の態度変容でも1.2倍から3倍程度リフトが期待できます。

 今回は、新聞広告の態度変容役割を他メディアとの比較で確認しました。メディアとしての「内容理解」「しっかりみる」という印象が、広告ではその商品・サービスの有用性や信頼感、良質感を受け手である生活者に醸成することがわかりました。新聞広告は、企業のコミュニケーションメッセージをコンテンツとして提供できる場であると生活者は捉えており、情報感度の高い生活者にフィットしたコミュニケーション接点といえるでしょう。

 有用性や信頼感、良質感といったイメージや評価に関する効果は、ブランドとの中長期の絆形成と大きくかかわるものです。この点は昨今のアドバタイザーのもつ関心事です。即時的な購買をはじめとする反応だけでなくブランドとの中長期の絆形成を重視する傾向は、特に企業の経営層を中心に浸透しています。今回の結果は、従来マスメディアである新聞広告でも達成できる可能性を示唆しています。中長期の絆形成を、生活者の高い情報ニーズに応える新聞広告でアプローチすることもひとつの選択肢になるといえます。

 昨今のメディアプランニングでは、単一のメディアだけを活用するわけではありません。図表6で見た各メディアへ新聞広告を加えることのリフト効果は、生活者の情報ニーズに合った場を提供しているからこその相乗効果だと考えることができます。テレビCMもインターネット広告もリテールアドもSNS広告も、新聞広告を組み合わせることで情報に厚みが増し、より生活者のこころに届きやすい状態を作ることができるのかもしれません。クロスメディア展開の要素としても新聞広告に期待できます。

 「広告が効きづらい」といわれる現在ですが、今回の結果をみるとアプローチの仕方、プランの組み方によって克服できることが読み取れます。生活者の情報感度は高まっており、決して企業のメッセージを拒絶しているわけではありません。その高まった情報感度に合わせたアプローチが重要になってくるでしょう。その一側面に新聞広告の役割が期待できる結果がみられました。ぜひみなさまのメディアプランニングの参考にしていただければ幸いです。


<参考>

  • 「クロスメディア効果推計」特許番号:第7329708号(情報処理装置、及び情報処理方法)
  • 猪狩良介、河原達也(2014)「クロスメディア効果を考慮した広告キャンペーンの分析 : 広告認知と態度変容効果のモデル化」 『日経広告研究所報』274号,pp.24-30
  • 土山誠一郎(2024)「デジタル対応で変わる広告コミュニケーション」『日経広告研究所報』335号,pp.12-17
  • 吉田正寛(2025)「生活者の情報入手経路から探るコミュニケーションに今必要とされる要素」『日経広告研究所報』339号,pp.30-37
吉田正寛(よしだ・まさのぶ)

株式会社ビデオリサーチ ビジネスデザインユニット シニアフェロー

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同志社大学文学部卒業、同大学大学院文学研究科心理学専攻修了。2008年ビデオリサーチ入社。
調査実務やメーカー営業担当、商品企画担当を経て現職。ビデオリサーチ保有のデータを用いたコンサルティング業務に従事。主な専門は広告出稿配分や広告効果検証の分析。