近年、限りある資源を効率的に利用する“循環型社会”の実現に向けた取り組みが本格化しています。その実現のためには、それぞれの立場でReduce・Reuse・Recycleを進めていく必要がありますが、「3R」を行いやすい環境づくりを目指してさまざまな取り組みをしているのがメルカリです。そのメルカリが2021年9月30日付の朝日新聞朝刊に「それ、新品じゃなくてもいいんじゃない?」とのメッセージを伝える見開き30段の広告を掲載しました。企画の背景や掲載後の反響、そして新聞広告への期待などについて、同社マーケティングマネージャー シニアマーケティングスペシャリストの星賢志氏に伺いました。
統合的なコミュニケーションでタグラインの一人歩きを防ぐ
メルカリは新聞広告を掲載した9月30日に、テレビCMやSNSでも「それ、新品じゃなくてもいいんじゃない?」を共通のタグラインとしたプロモーションを展開。複数メディアによる垂直立ち上げにより、一気にこのメッセージを広げた。このタグラインが生まれた背景について、同社の星氏は次のように語る。
「今回、“それ、新品じゃなくてもいいんじゃない?”という共通のタグラインのもと、様々なメディアを横断しながら大規模なコミュニケーションを仕掛けましたが、一過性のキャンペーンとは考えておらず、中長期にわたって進めていくコミュニケーションと捉えています。このタグラインを決めた背景には、コロナ禍を機に、生活者のライフスタイルにいろいろな選択肢が広がったことがあります。たとえばリモートでもいいんじゃないか、都心に住まなくてもいいんじゃないか、ランチは宅配してもらえばいいんじゃないか、といったような。そうした価値観が多様化するなかで、同じように“それ、新品じゃなくてもいいんじゃない?”という新しい選択肢を生活者に届けたいというのが企画の狙いでした。新聞での出稿を行った理由は、立ち上げに際してリーチを広げる目的もありましたし、コミュニケーション自体のオフィシャル感、お墨付き感を出したいという思いもありました」
星氏には、今回のコミュニケーションを行ううえで生活者に共感いただくには、一定のハードルがある懸念があった。
一次流通の方々も含め、経済を循環させ活性化する上で二次流通は相関関係にあると捉えられると思っています。そこをきちんと伝えたかったので、今回は企業姿勢をステートメントとして示す“大義”と、二次利用を活用することの意義、自分ごと化を促進する“合理性”、そして社会全体が循環型社会に共感する“トレンド”と、打ち出したい3つのポイントをまず設定。それぞれのフェーズに合ったメディアで段階を踏んだ統合的なコミュニケーションを行うことで、“それ、新品じゃなくてもいいんじゃない?”のタグラインだけが一人歩きしない状況を作りました」
▽新しい地図ウェブサイト/メルカリ新CMで、草彅剛が初バンド結成!?「それ、新品じゃなくてもいいんじゃない?」をひっさげてデビュー!
クリエーティブは読者との距離感を大切に
2021年9月30日付 東京本社版朝刊1.7MB
新聞広告では、テレビCMに起用している草彅剛氏を登場させることで、企画の一貫性を持たせた。紙面をぐるりと取り囲む手書き風の言葉は、この企画に合わせて作成したステートメントから抜粋したもの。テキストを読んでいくとそれぞれの言葉に切れ目がなく、“循環”する表現になっている。そうした「見せ方」を工夫したという。
「しっかり読んでもらえ、理解まで進めていける点も新聞の強み。そこで情報として優先度の高い“それ、新品じゃなくてもいいんじゃない?”のメッセージを一番目立たせたうえで、軸となる部分はメルカリを主語にしてボディーコピーで表現し、理解にまで繋(つな)げようと関係者のみなさまと共に考えました。ただ押しつける印象にならないよう、ワーディングには細心の注意を払いました。現段階では“メルカリを使うことが、実はサステイナブルなことだったかも”くらいの気づきがあれば、それで十分。生活者と我々が伝えたいことの距離感を測り、最適なポイントを探ることを意識しました」
今回の企画でもっともユニークな試みといえば、やはりステートメントが楽曲になっているところだろう。楽曲にした理由について星氏はこう語る。
「情報が聴覚から浸透していくことで、中長期記憶として定着しやすいのでは、と考えました。この歌詞はこれからもっと広く浸透させていきたいと思っており、理想を言えば音楽番組などでも取り上げてもらえるとうれしいですね。企業名である“メルカリ”という言葉は歌詞には出てこないのですが、メルカリという言葉はなくとも、“メルカリの思い”に対する共感や納得感が出口になると思っています」
生活の様々なシーンでメルカリが想起される存在へ
掲載後の反応はどうだったかと尋ねると、「ありがたいことにポジティブなものが多かった」と星氏。おおむね好意的に受け止められたのではとホッとした表情で話す。
「社内の評価も良く、掲載後は大いに盛り上がりました。やっぱり30段のインパクトは強く、事前にデザインを知っていた関係者のみなさまの間でも、あらためて驚きと感動があったようです。SNSでの反響も大きく、草彅さんのファンが喜んでくださったのはもちろん、“あれ?この広告すごくいいこと言ってるかも”といったコメントも見られ、メッセージがきちんと伝わった手応えがありました」
掲載後にあらためて感じた新聞媒体の魅力について聞いた。
「紙の手触り感もいいですし、なにより実際に現物として存在しているところがいい。自分の手でめくって手元で見た情報は“体験”に近くて、この密着度の高さも紙媒体の魅力ですね。今後デジタルが浸透すればするほど、こうした紙媒体の特性はより際立ってくるのではないでしょうか」
朝日新聞を選んだ理由について尋ねると、「企画のターゲットがオールターゲットだったためですね。部数やリーチに優れており、読者層もオールマイティーの印象がある朝日新聞は、今回の展開には不可欠と考え決めました」と星氏。読者層としてアーリーアダプターが多く、Z世代にもリーチできる点も評価されたようだ。
最後に星氏に、今後のマーケティングの方向性について伺った。
「今回の出稿では、“大義”と“合理性”を合わせて期待していました。“大義”に関しては、概ね成功と捉えていいでしょう。また“合理性”に関しても、今回出稿したことで良い意味での課題感が見えてきたなという実感があります。中長期的に浸透させていきたいメッセージなので、今後も切り口を変えながら継続していくことが必要だとあらためて感じました。さらに先の目標を言うと、日常の様々なシチュエーションで、生活者主語で共通項ができた際にメルカリが想起され続ける存在になっていきたい。思いやりを持ってそうした状況をつくることが、結果的に循環型社会の体現に繋がっていくと思っています」