朝日新聞社が2022年から展開しているデータソリューション・プラットフォーム、A-TANK 。このたび大幅なアップデートを行い、「朝日新聞社が取り組むデータソリューション マーケティング支援サービス『A-TANK』の進化」と題する広告関係者向けセミナーを開催しました。そのアップデートの中身について、セミナーの内容を中心にダイジェストでお届けします。
※セミナーのアーカイブ動画もございます。ぜひご視聴ください。
約640万件の朝日IDを活用するA-TANK
A-TANKは「Asahi Data Solution SYNC TANK」の略称で、朝日ID会員の顧客データを活用して、デジタル広告のプランニング、配信などを行うデジタル広告サービスです。朝日IDは朝日新聞社が提供する各種サービスの利用者に対して発行している会員基盤で、現在約640万件まで拡大しています。
朝日ID会員の属性、各種媒体・サービスを通じたWeb行動情報、購買履歴・キャンペーンへの応募・イベント参加履歴などの情報は「A-TANK DMP」に蓄積。これをもとに、広告主がアプローチしたいターゲットに合うセグメントの提案が可能となり、効果的なデジタル広告の配信を提供します。
今回のセミナーでは、キーノートスピーチとして、朝日新聞社メディア事業本部プロデューサーの坂上正人氏が登壇。「進化するA-TANK」をテーマに、今回A-TANKがどのようにアップデートしたのかを解説しました。
坂上氏はまずA-TANKの新しい定義について紹介しました。
2022年にローンチした時点ではA-TANKを「朝日新聞の1stパーディーデータで、広告主のニーズにこたえるマーケティング支援サービス」と表現していましたが、今回「朝日新聞社が持っている強み・アセットに1stパーティーデータを通わせて、広告主のニーズにこたえるマーケティング支援サービス」と再定義したと説明。そのうえで、今回のA-TANKの新定義に盛り込まれた、「朝日新聞社の強み・アセット」を紹介しました。
朝日新聞社の3つの強み・アセット
坂上氏が朝日新聞社の強み・アセットとして挙げたのは、以下の3つでした。
①多様なメディア・事業
ニュース系やテーマ特化型など40を超えるオンラインメディアを運営するほか、多角的な事業展開をしている。最近ではカタログ通販企業「ライトアップショッピングクラブ」が朝日新聞グループに参画したほか、朝日新聞の膨大な記事データや校正履歴を学習させたAIを活用した校正支援ツール「Typoless」のサービス提供や、数万人を集客する展示会事業などを手掛けるなど、数々のリアルな事業も展開している。
②ウェルビーイング&高エンゲージメントな顧客
朝日ID会員の特徴として、経済力があり、社会課題への意識が高いリベラルな読者が多いこと。例えばメールマガジンで「リスキリング」についてアンケートをとったところ、インセンティブがないにも関わらずわずか1日で1000件もの回答が集まった。また、SDGsにも関心が高いなど、朝日ID会員は「暮らしを今よりも良くしたい」という意識の人が多いことが伺える。
③大規模な企画・プロジェクト運営と制作の文化
朝日新聞社は同業他社に先駆けて広告クリエイティブ部門を内製してきたため、大規模な企画やプロジェクトの運営、そして制作が文化として根付いている。今ではテキストのみならず動画制作においても新聞社らしいスピード感をもって、高品質なコンテンツを提供している。
これらの強みを活かした事例として、2022年からパナソニック株式会社と朝日新聞社が共同で発行している未来空想新聞の取り組みも紹介されました。
未来空想新聞は「こどもの日は、未来を考える日。」として毎年5月5日に発行しており、2024年は「未来を想う人」として小林武史氏や坂本龍一氏、俵万智氏ら総勢40人が企画に登場。12ページの広告別刷りとして大阪本社と東京本社の一部地域に朝刊とともに配られました。
セミナーではパナソニック株式会社・戦略本部の姜花瑛(かん・ふぁよん)氏へのインタビュー動画が放映されました。姜氏は未来空想新聞の魅力として「(WebやSNS、ARといった)企画の拡張性」を評価しました。また、朝日新聞社との取り組みについて「推進力に驚いた」と振り返り、制作などのプロジェクト運営において、スピード感だけでなく多種多様な意見を一つのコンセプトにまとめていく力強さを感じたと話しました。
朝日新聞のアセットとデータとのコラボレーション
坂上氏は、朝日新聞社の強みについてこのように整理したうえで「ここにデータやIDを掛け合わせていくことで、A-TANKのユニークなセグメントによるスピーディーな配信・効果検証・レポートが可能になる」と説明。今回行われたA-TANKの2つのアップデートについて解説しました。
アップデート① 「プリセット」と「オーダーメイド」2種類のセグメント設計
朝日新聞グループの40を超えるデジタル媒体群から得られた5000万UUのデータを活用し、今回いつでも使えるプリセットセグメントを2つの切り口で用意しました。切り口のひとつはマーケティング・コミュニケーションのアジェンダやターゲットに対応するものです。ペルソナに近いもの、例えばサステイナビリティーの文脈では「エシカル消費を心がける生活者」などがあります。
もうひとつの切り口は広告主や商材にマッチした、業種別のプロモーションのニーズに対応するものです。例えば旅行・レジャー業界向けには「癒やし旅行関心層」「ひとり女子旅層」など様々なセグメントをあらかじめ用意しています。
こうしたプリセットセグメントのほかに、オーダーメイドでのセグメント作成もできるようになりました。A-TANK DMPのデータから作ることも、あるいはアンケートを行って新たに作ることも可能で、素早くフレキシブルに対応できます。作成したセグメントは、各媒体はもちろんのこと外部プラットフォームとも連携ができます。
セミナーでは、株式会社マガジンハウスが行った「タイアップ広告でのデータ活用」事例について、同社マーケティング局営業部宣伝統括係長・永田滋友氏へのインタビューの動画が紹介されました。
株式会社マガジンハウスは、A-TANKが立ち上がった段階で、トライアルで参画しました。雑誌の広告で出稿したものの、最初はセグメントの作成が難しくてなかなか成果が出なかったといいます。
そこで朝日新聞社は、詳細なレポートを作成してマガジンハウスとともにユーザー像を分析。すると意外なことに主婦層など女性のCTRが高いこと、リテラシーの高いシニアが本の広告と相性がいいことが分かり、これを参考にして戦略を考えなおしました。そしてセグメントを自在に作る中で最適なリストをピックアップし、広告効率を大きく改善することに成功しました。
永田氏は「新聞の読者は、見出しだけに煽られて読む人とは違うという実感がありましたが、デジタル上では可視化できず、これまで検証できていませんでした。今回データで検証できたので、新聞社のデジタル媒体にしかいないであろう読者像が見えてきたと思います」と成果を語りました。
アップデート② ブランドリフトサーベイなどフレキシブルなデータ活用を支えるソリューション
今回のA-TANKのアップデートでは、広告の効果検証として簡易的な「ブランドリフトサーベイ」を独自で提供することに成功。コンテンツタイアップで訴求内容がリフトできているか、効果をしっかり確認できるようになりました。さらに、コンテンツ制作前にターゲットがどんなコンテンツを読みたいかをアンケートで探って企画に活かす「コンテンツ開発アンケート」や、タイアップ広告記事下でのアンケートなど、広告に関する様々なレポートサービスもリリースされました。
セミナーでは、ポータブル電源とソーラーパネルの商材を扱う株式会社Jackery Japanが行った「読者アンケート」の事例について、朝日新聞社メディア事業本部プランニング部の小林彩氏が解説しました。
これまでJackery Japanは、朝日新聞デジタルでの記事タイアップを複数回実施してきました。しかし、「ユーザーが記事をどのように感じているのか、定性的な評価が難しい」「記事によって訴求内容が商品だったりブランディングだったりと異なるので、評価項目もばらつきが出ており、レポートではカスタマイズした項目が必要」という課題がありました。
こうした課題に対して、タイアップ記事の読了地点に独自のアンケートを設置する「タイアップ広告記事下アンケート」を新たに開発して実施。これにより、しっかりと記事を読み込んだ読者からの反応が可視化できました。
例えば、読者から記事に対してもっとこういうことを知りたい、ここが少しわかりづらかったなど、ポジティブ・ネガティブを含めて、熱量のこもった回答が寄せられたといいます。それによって新たな気付きがあり、定性的な反響の可視化が可能になりました。
さらには、タイアップに合わせて広告主の要望に沿った項目を追加で実施することで、よりレポートが独自性のあるものにカスタマイズできるようになったのも、「タイアップ広告記事下アンケート」の特長です。
広告主と生活者がサステイナブルにつながるために
今後、A-TANKはどこに向かうのか。坂上氏は「顧客や潜在顧客と接点を作れた。そこで取れたデータは継続的な接触に使ったり、もしくはそのデータを分析し、潜在層に対してのリーチ拡大に活用したりしていく。そんな形で、あらゆる局面、方面に展開していくことができます」と言います。
デジタル広告は今後サードパーティクッキーの問題が避けられません。そんな中で、坂上氏は「メディアとして提供しているプラットフォームの中で、広告主と生活者をサステイナブルにつなぎ、そしてそのつながりを広げていくことにチャレンジしていきたい」と語るとともに、「全ては広告主や広告会社の『やりたい』が出発点となるため、朝日新聞社と一緒に何かできることがないかと考えられたら、ぜひ相談してほしい」と、参加者に呼びかけました。