
原田氏が考えるシニアの世代論
原田氏はまず、これまでシニア世代は「介護度」などで語られることが多く、「世代論」や「デジタルの利用状況」で語られることがなかったと指摘。シニアはネット調査が苦手で調査しづらい面があり、あまりマーケティングの対象にならなかったという。
そこで世代論を理解し、シニアだとひとくくりにせず、どの世代のシニアを狙うかを検討するのが大事だと説く。今回のウェビナーでシニアの世代論の対象としたのは62歳から92歳で、以下のように分類してそれぞれの特徴を解説した。
● 昭和1ケタ世代(1930年~1934年生まれ)
戦後民主主義の風を受け、日本の消費文化の中核となった世代。男性は「モーレツ社員」として働き、女性は適齢期に見合い結婚をした。新聞・テレビ・ラジオに対する信頼度が高い。
● 戦後焼け跡世代(1935年~1939年生まれ)
学生運動、いざなぎ景気を経験した世代。男性はモーレツ社員として働き、女性の多くがお見合い結婚をしていたことは昭和1ケタ世代と変わりない。車・クーラー・カラーテレビが家庭を彩った。
● キネマ(プレ団塊)世代(1940年~1946年生まれ)
行動経済成長期に青年期を過ごした世代。空前の映画ブームで海外文化を吸収しアメリカへの憧れが強い。この時代まではお見合い結婚が主流。
● 団塊世代(1947年~1951年生まれ)
世界的ベビーブームの時代に生まれ育ち、競争意識が高い世代。マンガやゲームなどの若者文化を最初に始めた世代でもある。お見合い結婚と恋愛結婚が逆転し、多くの場合女性は結婚したら専業主婦になった。
● しらけ世代(1952年~1960年生まれ)
人生はエンジョイするものと考える一方で、女性の社会進出も目立ってきた世代。「ニュートラ」「ハマトラ」という言葉が生まれ、ファッションに興味を持つ若者が増え初のブランドブームが起きた。ドライブデートを楽しみ、新婚旅行はハワイが定番に。

シニアマーケティングで肝となるデータ分析
シニアがいくつかの世代に分かれることを、それぞれの時代背景やその世代の有名人を例に挙げて解説した原田氏。その上で「シニア世代は人数が多くマーケットが大きいと考えがちだが、さまざまなデータを見て特徴を分析することが大切」と指摘した。性別や世代で、外出の頻度や目的、生活満足度に違いがあるからだ。
原田氏が2021年に行った高齢者調査(※)によると、60代から80代以上が外出する目的は、仕事、通院、日常的な買い物が多く、次いで趣味・娯楽、ボランティアとなっている。女性は日常的な買い物が多く、男性は仕事やボランティアを目的に外出する傾向が高かったという。このことから、「高齢者をある程度選ばないと、外出して(日常的ではない)買い物をしてくれる高齢者は限られる。マーケットの大きさだけをうのみにしてはいけない」と話す。
デジタル高齢者をターゲットにする
「令和のシニアマーケティングは、デジタル高齢者をターゲットにすることが基本」と原田氏は語る。
デジタル高齢者とは、自分専用のスマホ、パソコン、タブレットのいずれかを所有している人を指す。現在日本の60歳以上は約4300万人いるが(総務省統計局 人口推計2021年7月月報)、原田氏の推計によると、そのうちの半数がデジタル高齢者で、もう半数が非デジタル高齢者という。
非デジタル高齢者へのアプローチとしては、新聞や新聞折り込みチラシが有効な一方、家族や子どもも狙うのも一つの手という。デジタルを利用する家族や子どもを介して情報を得る傾向があるので、サブターゲットになるという。
原田氏の調査によると、高齢者が利用しているメディアは、圧倒的にテレビ(地上波)が多く、次いで新聞、LINE、GoogleやYahoo!などの検索サイト、YouTubeという。広告の視聴実態をみると、テレビ広告がもっとも接触率が高く、新聞広告が続く。特に新聞に対する信頼度が厚いため、新聞広告は認知、興味、購入の段階で強みがあるという。
高齢者の消費実態 デジタル高齢者と非デジタル高齢者で差
高齢者の消費実態について、原田氏は「デジタル高齢者と非デジタル高齢者には大きな差がある」と述べた。
ポイントとしてあげたのが、可処分所得を持つ人の割合だ。原田氏の調査によると、高齢者全体で可処分所得を持つ人の割合は62%だった。これをデジタル高齢者に限ると76%以上となり、高齢者全体よりも多いことがわかった。1カ月あたりの可処分所得額の平均でも、高齢者全体は約9万2,900円なのに対し、スマホ所有者は約12万800円、パソコン所有者は13万6,200円だった。
消費意欲についても傾向に差が見られた。高齢者全体では「欲しいものがなくなっている」という人が多く、子どもや孫にお金をかけたい傾向がある一方、デジタル高齢者は全般的にお金を使い、ポイント活用などを上手に行っているという。

デジタル高齢者を特徴別に5つのペルソナに分ける
原田氏は、デジタル高齢者を特徴別に「引退人生謳歌(おうか)型」「ボランティア型」「生涯アクティブ型」「老老介護者型」「世代間デジタル型」の5つのペルソナに分け、それぞれの特徴を紹介した。
● 引退人生謳歌型
健康意識が高く、旅行やゴルフなどのレジャーに関心が高い。
● ボランティア型
社会貢献意欲が高く、役割を求めてボランティアなどに参加する。デジタルリテラシーが高いだけでなくコミュニティに積極的に参加する。
● 生涯アクティブ型
流行に敏感で美意識が高く、生涯自分に合った仕事を続ける。
● 老老介護者型
介護で忙しく自分の時間が取れずにストレスをためている。
● 世代間デジタル型
LINEで家族と繋がり、孫のためにデジタル機器を使う。
原田氏はシニアをひとくくりでとらえずに、これらのペルソナを理解した上で、デジタル高齢者を狙うべきだとまとめた。
Reライフプロジェクト読者会議が、シニア向けマーケティングの課題を支援
原田氏の講演につづいて、朝日新聞社「Reライフ」プロジェクトマネジャー・吉浜織恵氏が、Reライフプロジェクトのコミュニティ(読者会議)活用事例を紹介した。
朝日新聞社のReライフプロジェクトは、50代以降のアクティブ世代が自分らしく生きるために役立つ情報を発信するほか、世代の悩みや困りごとを共有し、一緒に解決策をさぐる場だ。読者会議には現在、約4万3千人が登録している。
これまで、読者会議メンバーを集めたデプスインタビューや商品体験会などを実施し、企業のシニア向けマーケティングの課題解決を支援してきた。また、読者会議だけでなく「Reライフ.net」や朝日新聞紙面を活用し、シニアマーケティングを総合的に支援できると、吉浜氏は紹介した。


Reライフプロジェクト
「人生ここから」を考える、大人のためのヒントが見つかる場所。人生後半を豊かに生きるための情報を届けるメディアです。資料ではコミュニティ「読者会議」とのコラボレーションや、メディアタイアップなどの事例をご紹介します。
(※)原田氏らが実施した高齢者調査
・調査期間 2021年3月25日~6月4日
・調査対象 下記の60歳以上の男女
・介護事業者、シルバーサービスなどの利用者、スタッフ
・提携個人パネルの同居家族
・調査方法
・聞き取り調査(家族・介護スタッフ・調査員ンが本人から聴取し代理回答)
・本人が自身でWeb上のアンケートにアクセスして回答
・有効回答数 640サンプル
(男性・自立156、男性・非自立157、女性・自立167、女性・非自立160)