衛星画像データの民間利用の規制が緩和され、民間の超小型衛星打ち上げが急増している。地上撮影画像や特定波長の強度など、地球全土を網羅する超小型衛星が継続的に収集・蓄積する膨大な「宇宙ビッグデータ」は、今後のマーケティングを変えていく。
宇宙に浮かぶ無数の人工衛星は、地球、その他の惑星や宇宙空間など、様々なものを観測しデータを収集している(注1)。しかしそのデータ活用は、学術研究や地図の作成・更新、気象予報のような公的利用などが主で、民間利用、ビジネス活用はまだ十分とは言い難かった。
しかし、近年、特定のデータを取ることに特化し、機体のサイズや運用コストを大幅に削減した「超小型衛星」の打ち上げが急増している。自国に不利な地上画像を商業衛星が販売しないように、画像の解像度や販売するタイミングについて米国内で制定されていた規制が緩和され、地上50cmで識別可能な高解像度の画像を、今後リアルタイムで入手可能となることが背景の一つにある(注2)。
1台1,000kgを超える従来の衛星の開発コストが数百億円かかっていた中、1台数kg~数十kgの超小型衛星の開発コストは数億円程度に抑えられる。機体が小さくなる分、搭載できる観測機器は限られてしまうデメリットはある(注3)。しかし、すでに飛んでいる人工衛星のデータを相乗りで活用するよりも、利用目的に応じた独自の仕様設計によって本当に必要なデータのみ、自社限定で収集・蓄積できることは大きな魅力だ。
2020年までに地球上の大部分を毎日観測できることを目指すアクセルスペース社(日本)をはじめ、特定波長の観測により水質や土壌漏出を推定するNORTHSTAR社(米国)など、現在、世界各地で超小型衛星を開発する宇宙ベンチャー企業が誕生している。
すでに衛星画像を活用して、「農作物の生育・収穫モニタリング」「漁場選定」「資源含有量調査」「海氷観測と最短航路計測」「小売業などの出店計画」「資源量予測による先物指標・経済指標予測」などの利用が進められている(注4)。
今後、地上撮影画像だけでも、取得データ量は年間数ペタバイトを超える見通しで(注5)、その他公開されている雨量・降雪量、海面水温・風速、土壌水分量など多岐にわたるデータと合わせると、データ量は飛躍的に増大する予定だ。さらにこれら宇宙ビッグデータやその他ビッグデータを処理する機械学習技術の発達・高速処理化により、データ分析が進化し、新たなビジネス開発やマーケティング活用が一気に実現することが可能となっている。
民間企業が自ら超小型衛星を保有し、日々リアルタイムで取得される宇宙ビッグデータを用いる時代が、近く到来するかもしれない。
衛星から得られる画像データの活用イメージ
(注1)宇宙航空研究開発機構(JAXA)観測・研究成果データベースより(アクセス日:2016年9月15日)
(注2)BBCニュースより(アクセス日:2016年9月15日)
(注3)『いつでもどこでも宇宙から撮像─リアルタイムアースイメージ─ 電子情報通信学会誌 Vol. 97, No. 7, pp.576-581』:齋藤宏文・金岡充晃(2014)
(注4)JAXA 第一宇宙技術部門 衛星利用運用センターより(アクセス日:2016年9月15日)
「ほどよし1号機」衛星画像の試験提供開始のお知らせ(アクセルスペース社リリース:PDF)
(注5)「宇宙ビックデータ」の活用に向けた協業のお知らせ(アクセルスペース社リリース:PDF)
電通デジタル データアナリティクス事業部 マーケティングプランナー/アナリスト
2015年電通入社、マーケティングソリューション局にて購買行動データ・顧客データなどビッグデータ分析に携わった後、2016年電通デジタルへ出向。統計学的手法をベースとした顧客インサイト発掘・マーケティング戦略立案に従事。博士(保健科学)・薬剤師。