ピクトグラムとは、文章ではなくイラストや絵など視覚的に意味を伝えることを目的とした図記号のことである。リオデジャネイロオリンピックの熱もまだ冷めやらぬが、万国共通ともいえる非常口のマークをはじめ、各競技を表すマークなどオリンピックにおいても実に多くのピクトグラムが使われている。
実は1964年、英語圏ではない東京でオリンピックの開催が決定された際に、言語の異なる外国人でも一目でわかる案内表示をつくろうとしたことが、ピクトグラムの開発のきっかけだったという。(注)
(公益財団法人交通エコロジー
・モビリティ財団より)
ピクトグラムの特徴は、文字や言葉のかわりに一目でわかるようにアイコン化されていることだ。オリンピックのように言語の異なる人が多く集まるイベントや公共空間において、重要なコミュニケーション手段となる。日本は、インバウンドすなわち外国からの観光客を増やすことにも力を入れているが、その対策として駅など交通機関や街中の案内看板においても多言語表記とともにピクトグラムの役割は大きい。
一方で、昨今は、同じ言語を使う日本人同士でありながら、ピクトグラムを使った非言語コミュニケーションが激増している。LINEをはじめとする、ソーシャルメディア上のコミュニケーションだ。ソーシャルメディアにおいては、楽しい、あるいは悲しいなどの表現も文章ではなく、絵文字で表現することが多い。
この絵文字もまたピクトグラムの一種である。ソーシャルメディアで、このようなピクトグラムを使う目的は、言語よりも少ないタイピング数で打てる効率性もさることながら、むしろ自分の感情を文字で直接伝えるのではなく、ピクトグラムを通して、相手に自分の気持ちを察してもらいたい、という日本人らしいシャイさが背景にあるともいえよう。
商品やサービスを売ることは広告の目的のひとつだが、受け手である消費者は、自分に売り込んで欲しいと思っているわけではない。だからこそ広告コピー、キャッチフレーズ開発の工夫や技が求められる。今後は、特にソーシャルメディア上の広告展開においては、絵文字などピクトグラムの使用が増えてくるかもしれない。
わが国は、空前の高齢社会を迎えている。すでに認知症や難聴者との言語によるコミュニケーションの困難さが課題として顕在しているが、ピクトグラムは、認知症や難聴の高齢者とのコミュニケーションをスムーズにする可能性も大いにあるといえるだろう。
1964年の東京オリンピックにおいては、ピクトグラムの開発は、戦後日本のデザイナーが総力を挙げて取り組んだ一大デザインプロジェクトとして、「東京オリンピック1964デザインプロジェクト」が担った(注)という。国際化、高齢化がますます進む今後の日本において、外国人や高齢者とのコミュニケーションを活性化させるためにも、いわば「非言語コミュニケーション2.0」「ピクトグラム2.0」の開発に期待したい。
(注)原田 維夫「東京オリンピック1964デザインプロジェクト/オリンピック関連トピックス」原田維夫公式webサイト(アクセス日:2016年8月10日)
アサツー ディ・ケイ ADK ソーシャル・デザイン・ラボ 所長/ストラテジック・プランニング・ディレクター/コミュニケーション・デザイナー
1989年旭通信社(現ADK)入社。新聞局などを経て2006年第2クロスメディアプロモーション局長。16年から現職。日本広告学会理事、WOMマーケティング協議会理事など。SPIKES ASIA 2011 メディア部門銅賞受賞。共著に『R3コミュニケーション』(宣伝会議)、『わかりやすいマーケティング・コミュニケーションと広告』(八千代出版)など。