「LGBT」

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LGBTとはレズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(心と体の性が一致しない人)の頭文字に由来し、性的少数者を意味する。そして、昨今、LGBTを対象にしたマーケティングや広告活動が活発化傾向にある。

 LGBTマーケティング活発化の背景には、2015年6月26日に米国で、米国連邦最高裁判所が下した「全ての州において、同性結婚に、伝統的な結婚と同じ権利を認める」という画期的な判決がある。

 この判決を受けて、オバマ大統領は即座にホワイトハウスで歓迎の声明を発表したが、そのニュースは、LGBTを象徴するレインボーカラーに染め上げられたホワイトハウスの映像とともに世界中を駆け巡った。世界で10数億人規模のユーザー数を有するフェイスブック社も即時に反応。自分の写真をレインボーカラーにできる仕様を配布し、世界中で、(LGBT以外のユーザーも含めて)自分の写真をレインボーカラーにするユーザーが続出した。日本では、その約3カ月前となる同年4月1日に東京都渋谷区が全国に先駆けて同性カップルを結婚に相当する関係と認め、「パートナー」として証明書を発行する条例を施行したことが記憶に新しい。

 一部の企業では、LGBTによる差別を禁じる社内規定を設けたり、LGBT向けの就職説明会を開いたりするなどの先進的な取り組みも進めている。例えば、大手金融機関ゴールドマン・サックスには、LGBTの社員が能力を発揮できる職場環境づくりを支援することを目的とした社内ネットワーク組織「LGBTネットワーク」がある(注1)。同ネットワークでは、専門家を招いた社内講演会、LGBTの学生を対象にした会社説明会を実施、さらには、東京国際レズビアン&ゲイ映画祭への協賛など社外に向けてLGBTへの理解を深めてもらうためのマーケティング活動も行っているという(注2)

 LGBTを対象としたマーケティング活動(LGBTマーケティング)も広がりを見せている。ドラッカーは、「良い広告とは、見込み顧客がその広告を見たときに、それは自分のことをいっていると思える広告である」としたが、LGBTを対象とした広告の展開はまさにそのセオリーにあてはまるものが多い。たとえば、一見するとどのターゲットにもフォーカスしているようには見えない広告でありながら、デザインの中で、LGBTのシンボルであるレインボーカラーを使うことで、わかる人にはわかるといったさりげない訴求方法もあれば、同性同士のキスシーンをキービジュアルにするなど、誰が見ても明らかにLGBTを対象にしていることを声高に訴求している広告展開もある。他にも、LGBTへの理解促進自体を訴求した啓蒙(けいもう)型の企業広告やイベント協賛、さらにはアディダス、ナイキ、コンバースの各社のように、LGBTへの支援としてレインボーカラーのスニーカーを全米で発売した事例もある(注3)

 これらのLGBTマーケティングには、LGBTを顧客として拡大することだけでなく、LGBTの有する洗練されたイメージを当該企業やブランドに転移させることで、すべての見込み顧客を含むステークホルダー全体に対してブランド価値を高めるという戦略的な狙いもあるかもしれない。

 いずれにしろLGBTの一般化が進むにつれ、結婚式場や不動産、生命保険など様々な分野で新たな商品やサービスに対する需要の増加が予想され、しばらくLGBTマーケットからは目が離せない。

(注1)同社webサイトより。
(注2)LGBT就活」記事より引用。企業の取り組み:ゴールドマン・サックス。
(注3)wwd.com」 記事より引用。「アディダス」「ナイキ」「コンバース」がLGBTプライドコレクションを全米で発売。

井上 一郎(いのうえ・いちろう)

アサツー ディ・ケイ ADK ソーシャル・デザイン・ラボ 所長/ストラテジック・プランニング・ディレクター/コミュニケーション・デザイナー

1989年旭通信社(現ADK)入社。新聞局などを経て2006年第2クロスメディアプロモーション局長。16年から現職。日本広告学会理事、WOMマーケティング協議会理事など。SPIKES ASIA 2011 メディア部門銅賞受賞。共著に『R3コミュニケーション』(宣伝会議)、『わかりやすいマーケティング・コミュニケーションと広告』(八千代出版)など。