「オープンイノベーション」

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企業内部のリソースに加え、ベンチャーなどの外部のテクノロジーやサービス、アイデアなどを組み合わせて、経営、マーケティングなどの企業活動に新しい価値を創造する手法。欧米を中心にとり入れられていたが、近年日本企業の新たな成長のカギとして注目されている。

 1990年代に、ハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授によって、「イノベーションのジレンマ」が提唱された。市場リーダーである優良企業は、経営の改良を重ねる「持続的イノベーション」を進めるがゆえに、全く新しい価値を生み出す「破壊的イノベーション」が困難となり、業界のリーダーの座を失ってしまうというものである。近年の米国・中国・韓国メーカーなどに市場を凌駕(りょうが)された日本の半導体メーカーなどが、まさにその典型的な事例である。

 デジタル化により、あらゆるモノがネットワーク化されるIoTの時代に突入した。消費行動そのものもデータ化される時代において、ネットワーク化されたモノやサービスを介して生活者とつながることになった企業のマーケティングも、従来手法の延長でない「破壊的イノベーション」が必要とされている。このイノベーションのジレンマを克服するカギが、「オープンイノベーション」である。

 オープンイノベーションは、2003年にハーバードビジネススクールのヘンリー・チェスブロウ助教授(当時)が唱え、技術革新の手法として、フィリップスやP&G、IBM、GEなどの欧米の一流企業を中心にとり入れられてきた。日本の企業は、自前主義および終身雇用制による労働流動性が低いことから、リストラと並行して行われる欧米流のオープンイノベーションの導入には消極的だった。リーマン・ショック後の技術開発分野において、社内技術に外部の技術をとり入れることで成功する事例がみられるようになってきたが、企業成長の生命線であるデジタルマーケティング分野でのイノベーションは、まだこれからという状況にある。

 世界のデジタルエコノミーの規模は、05年には世界のGDPの15%だったが、20年までには25%まで達すると予測されている(注)。16年の世界のGDPの成長率は2.9%と予想されていることも含めて考えると、デジタルエコノミーは急速に成長しているといえる。したがって企業が成長していくためには、スピーディーにデジタル化の波に対応するデジタルトランスフォーメーションを実現していくことはもとより、デジタルエコノミーにマーケティング活動をシンクロしていくイノベーションが必要になってくる。その橋渡し役が、ITサービスベンダーと呼ばれるIT関連サービスを提供する企業である。これらの企業のテクノロジーと、自社サービスを適合させ、連携していくスピードが、これからの企業成長の成否を左右するともいえる。自前主義によるテクノロジーやサービス開発だけに頼っていては、スピードも開発コストも対応できなくなるのは自明である。そこで、外部の優れたテクノロジーを効率的に調達する「オープンイノベーション」が、デジタルマーケティングにおいて重要となる。従来の企業のマーケティング活動で行われてきた、広告会社や流通会社へのいわゆるアウトソースにおいても、自社リソースとの綿密な連携を目指すパートナーシップ型のイノベーションが求められるだろう。

(注)Accenture(2016) Digital Economic Value Index

松本卓一(まつもと・たくいち)

電通 デジタルマーケティングセンター 局長補

1987年電通入社。情報システム部門に配属後、インタラクティブ・コミュニケーション局などのネット関連ビジネスに従事。愛知万博の情報通信事業(2005年)や家電エコポイント(09年)などの大規模受託事業に従事するとともに、電通アベニューAレイザーフィッシュ(現電通アイソバー)、電通イーマーケティング等のデジタル会社設立と事業開発に参画。10年~13年電通イーマーケティングワン常務取締役、インターロジックス社長を歴任し、13年7月に電通に帰任。16年1月より現職。