消費者のインターネット上の行動履歴データだけでなく、スマートフォンの位置情報などから得られた現実(リアル)における行動履歴データも活用した、新しいマーケティング手法。
昨今、消費者のインターネット上の行動履歴データだけでなく、スマートフォンの位置情報などから得られた現実(リアル)における行動履歴データをも活用した、新しいマーケティング手法「リアル行動ターゲッティング」に注目が集まっている。
インターネット上では、クッキー(HTTP cookie)を用いて閲覧者を識別できるIDを発行することなどにより、訪問者の閲覧履歴を取得することができる。この機能を利用することで、インターネット上の閲覧履歴から、自社の商品やサービスに関心がありそうな見込み顧客を発見し、同時に広告を配信することが可能となる。たとえば、自動車会社のウェブサイトなどの自動車に関するページを訪問したユーザーに対して、自動車に関する広告を配信するといった具合だ。このような手法を「行動ターゲッティング広告」という。
従来の「行動ターゲッティング」の概念は、インターネット上の行動履歴のみを捕捉するものであった。しかし、GPSなど位置情報を得られる機能が装備されたスマートフォンの普及により、消費者の行動履歴の補足範囲は、一気に現実の世界まで広がっている。これまで、紛失したスマホを探したり、GPS機能付き携帯端末を自分の子供に持たせ、居場所を探したりするのに使用されてきた位置情報の取得機能を、見込み顧客を探すために使用するということだ。もちろん、これらは探される側の許可を得ていることが前提のサービスである。
『リアル行動ターゲティング』の著者である横山・楳田(2015)は、リアル行動データの取り扱いには、厳重な注意と十分な知識が不可欠であり、個人を特定して、広告で追いかけ回すようなことは論外であるとした上で、位置情報を活用した興味深い消費者データの収集例を紹介している。(注)
たとえば、住宅展示場来場者の見込み顧客データの取得の例があげられている。ハウスメーカーからみれば、まさに得難いデータである。スマートフォンの位置情報を利用し、住宅展示場に来場したと思われる見込みユーザーのIDを、半年間で125,000人分収集するのに成功したという(住宅展示場付近でのアプリ起動数から、来場したと推定されるユニークユーザー数からの試算)。
自動車ユーザーのデータ収集をする場合も、単に自動車を所有しているか否かを超えて、自動車ユーザーのスマートフォンなどの位置情報を収集することで、自動車を毎日使用しているのか、それとも、週末での使用が多いのか、移動距離の側面では、近場利用が多いのか、それとも遠出が多いのか、といった利用実態を把握することができる。つまり自動車ユーザーのライフスタイルに合わせた車種の提案も可能となるというわけだ。まさに消費者を「点」ではなく「線=行動」で捉えるターゲッティングだ。
さて、前述のように、これらの位置情報は、あくまでもユーザー側が許諾した場合のみに利用される。とはいえ、許諾したユーザーが、自分の位置情報がどのように使われているかをしっかり把握した上で許諾したとは到底考えられない。そのような状況で、位置情報を使ったマーケティング展開が増加するとユーザーの間で拒否感も増すことになるであろう。
リアル行動ターゲッティングが健全に発展するためには、データを収集する際に、これまで以上に、ユーザーが位置情報の供出を許諾した場合の、リスクとメリットを丁寧に説明することが必要であることを忘れてはならない。
(注)横山隆治・楳田良輝『リアル行動ターゲティング』 日経BP社より引用。
アサツー ディ・ケイ ADK ソーシャル・デザイン・ラボ 所長/ストラテジック・プランニング・ディレクター/コミュニケーション・デザイナー
1989年旭通信社(現ADK)入社。新聞局などを経て2006年第2クロスメディアプロモーション局長。16年から現職。日本広告学会理事、WOMマーケティング協議会理事など。SPIKES ASIA 2011 メディア部門銅賞受賞。『R3コミュニケーション』(共著)など。