一般的には生活の中で日常的に反復・継続される行動全般を指すが、マーケティング的には特定の店舗やサービスの利用、特定の商品購買などの行動がどれくらい習慣的に継続・反復されているかという観点で捉える。マーケティング戦略・戦術においては、そのような行動を「いかに習慣として定着させるか」、また「定着した行動からの離脱をいかに防ぐか」という2点が重要になる。
新しい習慣を形成するのは非常に難しい。今まで慣れ親しんだ行動を変えるには大きなエネルギーを必要とするからだ。日々、多くの新商品・サービスが生まれるものの、定着せず短期間で消えてしまうという状況は、この習慣形成の難しさを過小評価してしまいがちなことも原因の一つと考えられる。
では、どうすれば新しい行動を習慣化できるのだろうか。これまでのマーケティングは「その商品・サービスへの高い評価が継続的な受容(購買・利用)を生み出す」という前提のもとに、「認知」→「好意」→「行動(購買)」の3ステップで習慣化を図ってきたが、生活者の行動定着/離脱のメカニズムについては科学的な分析・調査がまだまだ不十分であると思っている。
そこで「博報堂行動デザイン研究所」では、生活者の行動が「どのように習慣として定着するのか」また「習慣化した行動からいかに離脱するのか」をテーマにした定量調査をおこなった。
まず調査のアプローチとして、人の習慣行動が大きく3つのステージに分かれる、ということを初期仮説として設定した(図1)。
(1)リソース(時間、お金)投入量がどんどん増え、高揚感を覚えている状態(「学習期」)、
(2)リソース投入が増えも減りもしない膠着(こうちゃく)状態(「安定期」)、
(3)リソース投入が減っていく状態(「離脱期」)、である。これら3つのステージごとの生活者の意識・行動の変化を探り、「習慣行動の定着/離脱」に作用する因子を抽出した。
図1
離脱期の特徴として、多くの生活者は「好意」を維持したまま、その行動から離脱している、という事実が明らかになった。この調査結果は「好意と習慣行動は必ずしもリンクしない」ということを示唆している。生活者の行動を促すために認知及び好意を獲得することは、マーケティング戦略上、不可欠である。しかし、その後の「習慣化」までを見据えると、「好意を維持できていれば習慣行動も継続する」とは限らない、ということをこの調査は示唆している。
では、生活者の習慣行動はいかにして促されるのか。今回調査した習い事、コーヒー、ノンシリコンシャンプーの各カテゴリーにおける生活者の意識・行動項目を分析、因子分析によってグルーピングしたところ、3カテゴリーに共通の「習慣行動を支える3本の支柱」(図2)の存在が明らかになった。
図2
この3つの要素が感じられなくなる(=支柱が弱まり、はずれる)と、一度習慣化していた行動から離脱が始まる、というのが今回の調査から私たちが導き出した習慣行動のモデルである。
この知見を個別の実務に活用するためには、さらに詳細・精緻(せいち)な調査・分析を行う必要があるが、少なくとも「好意形成」よりも「行動形成」に注力したマーケティングが必要であることには疑いがない。そのとき、今回の研究調査のような「行動デザイン」発想が役に立つのではないだろうか。
博報堂行動デザイン研究所 所長
入社以来、一貫してプロモーションの実務と研究に従事。大手嗜好(しこう)品メーカー、自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などの統合マーケティング、商品開発、流通開発などのプロジェクトを多数、手掛ける。2013年4月より現職。