「サービスデザイン」

 「サービスデザイン」とは、物理的なモノだけではなく、サービスをもデザイン(設計)の対象とする新しいデザイン領域のことを指す。

  この概念は、サービス工学やサービスサイエンスと呼ばれる経営学や工学の領域で生まれた。サービスと聞くと、ホテルや病院などの人的サービスが思い出されるが、人的サービスは付加価値の源泉が属人的になりがちで、生産性にもバラつきが見られた。サービスサイエンスでは、こうした領域に科学的なモデル化と評価の視点を取り入れ、生産性を向上させようと試みがなされた。

 サービスデザインは、ユーザーにとって魅力的な価値や経験をデザイン(設計)するための方法論として、製品開発領域でのデザインでも発展することになる。この領域におけるサービスデザインの対象は人的サービスにとどまらず、例えば空港のチェックインカウンターのような人的サービスと機器の連携を伴うものから、カーシェアサービスのように、スマートフォンアプリやウェブサービスを複合的に提供する無人サービスまで幅広い領域に広がっている。

 デザイン領域でサービスデザインが注目されている文脈としては、まず人間中心デザイン(Human Centered Design)の普及が挙げられる。人間中心デザインは、送り手都合ではなく、ユーザー志向の製品を提案するということである。ユーザーの行動や価値観を理解した上で、ユーザーにとって意味のある製品提案を行う手法として活用されている。

 人間中心デザインは、サービスデザインにも設計思想として取り入れられ、魅力的なユーザー経験を提供する試みがなされている。サービスデザインにおける人間中心デザインのツールとして重要なのは、「ユーザージャーニー」と呼ばれるユーザー経験のプロセスを描いたものだ。ユーザーを主人公に、サービスを利用しているシナリオを描くことで、それぞれのシーンでユーザーがどのような経験を得られるかを記述することができる。Soup Stock Tokyo創業者の遠山正道氏によると、Soup Stock Tokyoの事業計画でも「ユーザージャーニー」に近い方法論が用いられ、ユーザー中心のサービス開発が行われていたようだ。(『スープで、いきます 商社マンがSoup Stock Tokyoを作る』遠山 正道・著/新潮社、2006年)

 デザイン領域でのサービスデザインのもう一つの背景はインタラクションデザイン領域の重要度が増している点である。一般的にインタラクションデザインとは、スマートフォンのアプリなどのユーザーインターフェース(UI)やそれを使うことで生じるユーザー経験(UX)を総合的にデザインするものである。サービスの設計においてウェブやスマートフォンアプリの重要度が高まるとともに、こうしたインタラクションデザインの要素を取り入れることが不可欠となっている。
  こうしたスクリーン上でのインタラクションだけではなく、スクリーンとハードウエア、あるいは空間といった、より広い範囲の複合的なタッチポイントを広義のインタラクションデザインとして対象とするようになっている。

 以上のように、デザイン領域におけるサービスデザインを一言でまとめると、「ユーザー中心に複合的なタッチポイントのデザインを行う」ということになる。これまで、コミュニケーションデザイン、プロダクトデザイン、インタラクションデザイン、空間デザインといったように個別に存在していたデザイン領域が横断的に統合された新しいデザインアプローチと言える。

 個別のデザイン領域の最適化に注力してきたデザイナーにとっては、サービスデザインへの取り組みは新しい挑戦を伴うものになるかも知れない。しかし、ビジネス課題がより複雑化した今、こうした横断的な取り組みがビジネスにおけるクリエーティブの新たな付加価値の源泉になっていく可能性も高いと言える。サービスデザインの拡大がデザイナーの新たな活動領域の拡大につながっていくのではないだろうか。